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「だから大丈夫だって。僕だっておかしかったし。あれはきっとオメガの本能だよね?初めてなったから僕も抑えるどころか簡単に理性とんじゃったよ。アルファの本能がケダモノならあれはオメガのケダモノだよね」
僕は航平のケダモノより、自分の中のケダモノの方が怖いよ。
「同じケダモノでもお前のは怖くないよ。それに引きもしない。それどころかすごく可愛いかった。ほんと、妄想なんか目じゃないほどエロ可愛くて、俺の理性なんて簡単に吹っ飛んだ」
そう言ってうなじを触らないように手で覆う。
「ごめん。結構傷になってて・・・痛かったろ?無駄に噛んじゃって・・・俺、発情期ではちゃんとかっこよく決めるから」
そう言ってまた『ごめん』と言う航平に、僕は言いにくそうに言った。
本番て・・・。
「・・・ないよ」
その言葉にガバッも航平が身を起こす。
「ダメなのか?!」
すごい形相の航平に僕も慌てる。
航平、やっぱり分かってなかった。
「違うよ。番がないんじゃないよ・・・」
「じゃあっ・・・」
「本番がないんだよ。だってもう番だからっ」
焦る航平の言葉を、僕は早口で遮る。
「発情してたんだよ。だからさっきので番契約成立。本番なんてもうないんだって。僕達はもう番なのっ」
なんとか航平が余計なことを考える前に言わなきゃと最後は叫ぶようになってしまった僕の言葉に、航平は口を開けたままフリーズ。そして僕の横にどさっとうつ伏せに倒れ込んだ。そんな航平を横目に、僕は小さく息を吐く。どうやら事態を理解してくれたらしい。だけどそんな航平の姿に、僕は今さらながら冷静に考える。
航平が好きだけど知られちゃいけないと思ってから、多分僕は余裕がなくて航平をよく見ていなかったんだと思う。だから航平がこんなに思い込みが激しいなんて知らなかった。
しかもその思い込みが大体間違ってるんだよね。
そそっかしいのかな?
見た目も頭もスポーツも完璧で、性格も二重丸だと思ってたけど、意外と中身は・・・子供っぽい?
思い返してみれば今日してくれた航平の告白も、なんだかちょっとおかしくない?
僕が他の子と話すと拗ねて意地張ってすぐに後悔して、でも言い出せなくてそのままで、彼女のことも押しに弱くて言いなりで、やっと一念発起したと思ったら自分勝手にやらかして相手を暴走させて・・・。
大体偽装の彼女だって言っても、オメガの女の子の話僕にする?今までの経緯を話すためならともかく、今朝も行ってきただの、だからずっと一緒にいられただの、そもそも彼女を助けたいって別れてからも毎朝彼女の家に行ってたなんて、聞きようによっては僕が怒ってもいい話だよね?彼女のことすごく大事にしてるじゃん。僕がヤキモチ妬くとか考えないのかな?
今も隣で突っ伏したまま何やらブツブツ言ってるけど、そのどこにもかっこいい要素がない。
おかしいな。
誰が見ても完璧ですごくかっこよかったのに・・・。
これは僕の目に好き好きフィルターがかかっていたのだろうか?
そう思っていると、航平が突然顔を上げた。
「絶対大事にするから」
そう言って僕に顔を向ける。
「ずっと好きだしずっと一緒にいる。番になるタイミングがちょっと早かったけど、思いは変わらないから。俺は真希を一生大事にする」
真剣な声と言葉。それに何より本気の気持ちが流れてくる。
昨日からずっとかっこ悪い航平。
だけどそんな航平が可愛くて愛しい。
「僕も大好きだよ。航平」
本当に愛おしい。
僕の気持ちも航平に届いているといいな。
ふわふわとしたなんとも言えない幸せな気持ち。それは航平も同じなようで、その表情はすごく柔らかい。だけどふと、航平の眉がわずかに寄る。
「だけど俺、あの人どうも気に食わないんだよな」
そう言いながら僕をまた抱き込むように腕を伸ばして来るから、僕の方からも航平に寄る。
「あの人って、先生?」
気に食わない?
「なんかさ、すごく大人で余裕で、それだけでもちょっと嫌なんだけど、あの人さ、なんか全部分かってない?」
全部?
「何が?」
「今回のこと。あの人に初めから誘導されてる気がするんだよ。なんて言うか、手のひらで転がされてるような・・・」
先生に?
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