幼馴染の嘘

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「それは無いよ。だって僕、航平のこと先生に言ったことないし、今回だって母さんに帰ってこいって言われたから結婚して向こうに残ることにしたんだよ?」 それもつい一週間前の話だし、いくら先生でも存在すら知らない航平との事を画策するとは思えない。 「考えすぎだよ」 僕はそう言って笑った。 だけどそれが航平の言った通りだったことを、僕は後に知る。 夜になり、夕食を済ませてきた両親と希が途中で合流したという先生と共に帰って来た。それを出迎えに行った僕達を見て、先生が開口一番嬉しそうに言ったのだ。 「お母さん、良かったですね。上手くいったみたいですよ」 案の定帰りに寝てしまった希を寝室に運ぶために父が先に入り、その後ろから順に母と先生が入ってきたときだった。靴も脱がずに入ってくるなり言った先生のその言葉に、母ははっとなって目の前の航平の両腕を掴んだ。 「航ちゃん、本当?」 いきなりのその反応に、僕も航平も全く意味が分からない。だけど母は感極まったように目を潤ませ、航平を縋るように見上げる。 「間違いないですよ。それも想定以上に上手くいったようです」 そんな母に先生が嬉しそうに言うから、ますます訳が分からない。そこへ希をベッドに寝かせて出てきた父に、母が歓喜の声を上げる。 「お父さん、上手くいったんですって!」 その声に父も航平のそばに行き、航平の手を両手で握った。 「ありがとう、航平くん」 そんな両親の姿に、航平が困ったように僕を見るけど、僕も意味が分からない。 なんなの? この状況。 「良かった。これでもう安心だ。航平くん、真希をもらってくれて本当にありがとう」 「いきなり父親だなんて大変でしょうけど、私達も協力するから安心してね。大丈夫よ。のんちゃんすごくいい子だから。きっと航くんも好きになるわ」 口々にそう言う両親に、僕は驚いた。だってまだなんにも言ってないのに、両親は僕達のことを知っている口振りだ。 どういうことなの?! 航平なんて驚きを通り越して青くなっている。そりゃそうだ。みんなが帰ってくるまで、どうやって説明しようかと実は悩んでいたんだ。だって僕は先生との結婚を報告するために帰ってきていたわけで、そこにいきなり先生じゃなくて航平と結婚することになったのだ。それはなんの前触れもない話で、両親には寝耳に水だろう。しかも先生は大人で医師で、安定した生活を保証できる相手で、親にしたら理想の結婚相手なのに、それをやめてなんの力も財力もない学生の航平に変えるというのだ。誰が見たって絶対反対されると思うよね。 なのに、なんなの? 何が起こってるんだ? 訳が分からず何も言えない僕と航平に、先生が助け舟を出してくれる。 「まあ、とりあえず落ち着きましょう。帰ってきたばかりですし、ここはお茶でも飲みながらゆっくり話しましょうよ」 にこにこ笑ってそう言うけど、僕的にはお茶なんて呑気に飲んでる場合ではない。でもその一声に母はお土産を買ってきたのだと嬉しそうにケーキの箱を見せ、お茶の用意のためにキッチンへ行ってしまった。そして父も着替えのために部屋に入ってしまう。 「どういう事ですか?」 だから僕は残った先生に訊いたのだけど、にこにこと笑ってはぐらかされてしまった。どうやら本当にお茶を飲みながら話すつもりらしい。 「・・・航平、とりあえず行こうか」 僕は諦めて航平をリビングに促すけれど、航平は先生を睨んでいる。そして若干威圧も出てるんだけど、先生はそんな航平に全く動じず、相変わらずにこにこしてリビングに入ってしまった。 「航平」 だから僕もそんな航平の袖を引いてリビングに入ると、ちょうど母がお茶とケーキを持って来た。 「航くんはチョコよね」 そう言ってチョコケーキを置いたから、航平をそこに座らせ僕も隣に座る。 上機嫌に母がそれぞれにお茶とケーキを起き終えたところで父が戻ってきたので、僕はようやく話が始めることが出来た。 「で、これはどういうこと?」
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