幼馴染の嘘

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「ごめんね。お母さんずっと前から知ってたのよ。でも真希はなんにも言わないし、お母さんから言うのも変・・・て言うか、嫌でしょ?」 その言葉に僕はショックを通り越して呆然とし、隣では航平がなんとも言えない顔をして僕を見ている。でもそんな航平も次の母の言葉に顔が青ざめることになる。 「航くんも真希が好きだったでしょ?だから昔よく由美ちゃんと、二人が付き合ってくれたらいいわね、なんて話してたのよ」 そう言ってふふっと笑う母に、今度は航平が顔面蒼白。ちなみに由美ちゃんとは航平の母なんだけど、こういうことを親に知られてたなんて絶対に嫌だよね。 「あなたたち本当に磁石のように赤ちゃんの頃から引き合ってくっついて。これはもう運命ねって言ってたんだけど、中学生の頃からだんだん離れてしまって、それでもまた仲良くなるわよなんて言ってたんだけど、航くんに彼女が出来た頃から由美ちゃんもその話をしなくなっちゃってね」 ベータだと分かって、離れたのは僕だ。 「お母さんね、分かってたのよ。真希がバース性に悩んでいたこと。だからそんなの関係ないのよ。気持ちが大事なのよ、て言ってあげたかったけど、思春期の子には親の助言なんてウザイだけでしょ?そう思って見守ることにしたの」 そう言う母の顔からは、いつの間にか笑みが消えていた。 「一度しかない青春。それもまた甘酸っぱい思い出になる。そう思って見ていたけれど、希が出来て、真希はさらに悩んでしまった」 そう言って母は一度言葉を切ると、ぎゅっと組んでいた手を握った。 「言えばよかったって思ったわ。ウザがられたって良かったのよ。親として、人生の先輩として何か少しでもアドバイスしていたら、きっと真希はこんなに苦しまなかったって・・・。結果的には希は可愛くて、お母さんたちも生まれてきてくれてとても嬉しいわ。でもそれまでの真希は見ていられないくらい悩んで苦しんで・・・」 僕があんなことになってもひとつも責めず、いつも明るく接してくれていた母が、そんなことを思っていたなんて知らなかった。母はずっと前から僕の航平への気持ちを知っていて、そして母なりに色々考えてくれていたんだ。 「親なのに、真希が悩んでるのも分かってたのに、何もしなかったからこんなことになってしまったって・・・。だけど希が生まれて、その可愛さにお父さんもお母さんもメロメロで、真希も本当に穏やかな顔になったから、きっと希が私たちに幸せを運んできてくれたんだと思ったの。だからこのまま真希も航くんへの気持ちを切り替えて、前を向いてくれるって思ってたんだけど、真希はずぅっと航くんを思い続けてた・・・」 僕だって忘れようと思った。 希が生まれて、毎日が目まぐるしく過ぎていって、正直考える余裕なんてなかった。だからそのまま忘れて、気持ちも消えるって思ってたんだ。だって実際そうだったから。航平を思い出さない日が増えたから、だからきっと時間が経てば気持ちもなくなる。いつか航平を思ってもなんともなくなるって思った。だけど本当は気持ちは消えず、いつも心の奥底にあった。だから航平に会って、簡単にまた溢れ出してしまった。 そんな僕の心を、母は知っていた。 「だから思ったの。もし次があったら、今度は口出ししようって。嫌がられてもウザがられても、それで真希が先に進めるのなら、お母さんなんでもしようって」 僕の気持ちが変わっても変わらなくても、僕が人生のターニングポイントに立ったとき、母はその決断に手を貸そうと考えてくれていた。 「そう思ってたら由美ちゃんから、航くんが結婚しようとしてるみたいだって聞いたのよ」 その言葉に航平が『えっ?』という顔をする。 「いつもは春休みなんて帰って来ないのに、いきなり帰ってきたと思ったら毎日朝出かけてて、変だと思ってたら聞いちゃったんですって、航くんの電話」 それは航平と彼女の電話で、何やら父親に反対されているのを一緒に頑張って説得しよう、みたいな内容だったらしい。
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