幼馴染の嘘

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そう言うけれど、やっぱり僕が悪いと思う。でも、あんまりにもきっぱり言い切るから、僕はそれ以上言えない。 何も言えず黙っていると、代わりに隣で航平が口を開いた。 「そんなこと分かってるよ。母さんの言う通り、全部俺が悪いんだ。で、真希と結婚していいんだよな?」 おばさんの言葉にひとつも反論せず、全てを肯定して航平が確認する。そうだ。航平の両親にも僕達のこと許してもらわなきゃいけない。 「いいも悪いも、こっちが訊きたいわよ。真希ちゃん、いいの?こんな気の利かないアルファで。真希ちゃんみたいにいい子ならもっといいアルファ()いるわよ。ほら、あの人みたいな」 反対どころか逆に訊かれた挙句、おばさんは話の邪魔をしないようにと隅にいた先生を指さす。するとまさかこちらに話を向けられると思っていなかった先生は一瞬驚いた顔をしたけど、すぐにいつもの笑顔になった。 「そうなれたら嬉しいですが、もう二人の間に僕が入る余地は無いので、僕は遠慮します」 にこにこといつもの笑顔であっさりそう言う先生の言葉に、おばさんはため息をついた。 「そうよね。今更やっぱりやめるなんて言えないわよね。本当に良かったの?無理やりじゃなかった?」 そう心配そうに訊いてくれるおばさんに、航平が噛み付く。 「無理やりなわけないだろっ。ちゃんと同意の上だよ。そりゃ多少勢いもあったけど、ちゃんと確認済みだから」 そんな航平の必死の言葉だったけど、おばさんはまだ疑っているようで僕に視線を向ける。だけど僕は何を言われているのか分からず即答できなかった。けれどそれが番の事だと気づいて、僕は慌てておばさんに言う。 「本当だよ。僕も望んだんだ。ただちょっと発情に飲まれちゃった感もあったけど、全然後悔してないし、むしろ嬉しかったから」 本当にそうだから、僕も必死なってしまった。するとそんな僕達をじっと見たおばさんはようやく表情を和らげる。 「嘘じゃないみたいね。良かったわ。それなら真希ちゃん、これからも末永く航平をよろしくね」 その言葉に僕も嬉しくなって『うん』と答えた。 そんな僕達のやり取りを隣で見ていた母さんが小首を傾げる。 「由美ちゃん、なんのお話?」 それを聞いて僕は気がついた。 そう言えば僕達は、両親に番になったことを言っていなかったではないか。見れば航平も青くなっている。 僕達は嘘が多すぎて、その説明をするのに必死ですっかり番のことを言うの忘れていたのだ。 先生も航平の両親もアルファとオメガでフェロモンから僕達の番契約に気づいたけど、ベータの両親には当然分からない。だからちゃんと言わないといけないのに、それを忘れるなんて。 早く言わなきゃと思った僕よりも先に、航平が口を開いた。 「ごめん、おばさん。まだ言わないといけないことがあったんだ」 そしてガバッと頭を下げる。 「真希との結婚の許しをもらう前に、俺は真希を番にしちゃったんだ。順番が逆になってごめん」 潔く謝る航平に驚きの表情になった母は、次の瞬間真っ赤になった。 「つ・・・番って・・・」 ベータでも番契約の仕方は知っている。つまり母が何を想像したかと言うと・・・。 僕の顔も火が吹くほど熱くなる。それに視界の隅で父の顔もギョッとしている。 アルファとオメガ夫婦の航平の両親もアルファの航平も発情期があるためか、そういう事には全く反応しない。それがある生活が当たり前で、むしろない方が問題なのだ。けれどベータにとってはそういうことはあまり大っぴらにすることではなく、むしろタブーなこと。だからこの手の話に免疫がないのだ。 まるで家族団欒で見ていたテレビの中で、いきなりエッチなシーンが流れてきたような妙な空気がリビングに広がる。 これって謝った方がいい? 何も謝るようなやましいことは無いのだけど、テンパった僕はそう考える。けれど僕が謝ってしまう前に、先生が そんな空気をかき消すようににこやかな声で言った。 「さぁお話はこの辺にして、今から航平くんのご両親にとってもお孫さんになる希の成長記録上映会でもしませんか?」 その言葉に母が反応する。
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