幼馴染の嘘

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ずっと前から両親と先生は僕と希の将来のために撮り溜めてあった画像を共有して、僕と希の成長記録を作ってくれていたのだ。 「先週ののんちゃんのお誕生日のも先生に送ったから、多分もう出来てると思うわよ」 そう言った母の言葉通り、それは陣痛に苦しんだ挙句帝王切開になった過程や、やっと生まれた希との初めての対面、そして病院での様子、退院してからの初めてだらけの生活と進み、先週のお誕生日どころか今日の両親とのお出かけまで綴られていたのだ。 いつの間に編集したんだろう。 きっと僕と航平のやり取りを見て上手くいくと分かった先生が、両親に連絡して送ってもらっていたのだろうけど、まさかこんなに早く編集してくれるなんて。 きっと今日、急いでしてくれたんだ。 こうして先生が作ってくれた希の成長記録上映会はかなり長い時間続いたけれど、誰もそれを途中で止めて明日にしようとは言わなかった。 航平や航平の両親はもちろん、僕も初めて見るその成長記録に見入ってしまった。だってそれは、生まれてからの希の成長が本当に細かく丁寧に記録されていて、希だけではなく僕も一緒に撮られていたのだ。 いつの間に先生は、こんなに撮ってくれていたんだろう。 そこには本当にささやかな日常生活も撮られていた。 お誕生日の様子はきっと両親だろう。両親のはもちろんだけど、先生の撮った映像もとても優しい気持ちが伝わってくる。 先生は本当に、僕達のことを見守ってくれていたんだ。 そこから感じる愛情は、決して恋人へ向けるような激しいものじゃない。もっと温かくて深くて、まるで家族へ向ける親愛のようだ。 きっと先生は、僕が航平と上手くいかなかったら本当に結婚してくれようとしていたんだと思う。そして僕に言ってくれたように、僕と希をずっと守ってくれる決意もしていてくれてたんだろう。それでも少しでも僕の思いが叶うようにと、色々見えないところで画策してくれていたんだ。 航平の言うように、僕達は先生の手のひらの上でまんまと転がされていたけど、そこには本当に深い愛情を感じる。 その先生の優しさはいつも僕を癒してくれた。 思えば初めて会った時から先生は優しくて、何も分からず戸惑う僕を、ずっとそばで見守ってくれていた。 今はみんながいて話せないけど、先生にちゃんとお礼を言いたい。今までどんなに先生に救われてきたか、そしてどれだけ感謝しているのか。 先生、本当にありがとうございました。 僕は心の中で先生にお礼を言った。 そうして希(と僕)の成長記録上映会が終わる頃には外が白み始め、航平一家は一度家に戻ることになった。けれど今度は希本人に会うために、また程なくして来ることになっている。本当はすぐにでも会わせてあげたかったんだけど、起こしてしまったら可哀想だと朝起きてからの対面となった。 名残惜しいけど、航平とも一旦お別れだ・・・と思ったら、母親たちが気を利かせて航平は僕の部屋に泊まることになった。 航平の両親が一旦帰宅してそれぞれ部屋に下がると、僕も航平と一緒に部屋に戻った。するとドアを閉めた瞬間、僕は航平に抱きしめられた。 「航平」 ここは僕の部屋だけど、まだベータの時に使ったままだ。 「ここ・・・防音じゃないから・・・」 妊娠中に先生のところに引越して、その後も帰ってくる予定がなかったのでオメガ仕様に改装していないのだ。だからあまり大きな音は外に聞こえてしまう。 「分かってる。いくら俺でもおばさんたちがいるのにしないよ」 そう言うけど、強く抱きしめられて密着する身体の間には固く熱いものがある。それに香りも濃くなって、僕の身体を煽り始める。 番になったからかな。航平の欲情がダイレクトに伝わってきて、僕の身体も熱くなってくる。 ドキドキと大きく鳴る心音は多分二人のだ。口ではしないと言った航平だけど、こんなに身体を熱くして大丈夫なのだろうかと心配になる。そう思っていると、航平がこめかみに唇を押し当ててきた。その感触にぞくぞくと身体が震えてしまう。 「こ・・・航平・・・」 こめかみから徐々に下がってくる唇に、僕は焦って止めようとするけど、そのまま降りてき唇は僕の口の端を吸う。
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