幼馴染の嘘

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僕にはずっと好きな人がいる。 マンションの隣に住んでいて、物心ついた時からそばにいた。 保育園も小学校も中学校も同じ。 朝から晩まで一緒にいるのが当たり前だった。 僕を一番分かってる人。 僕が一番分かってる人。 親よりも兄弟よりも、誰よりも近い人。 だけどそんな家族のようなその人が、僕の中で変わったのはいつからだろう。 いつの間にか、その人は僕の心を乱すようになった。 ドキドキして、落ち着かなくて、他の人と一緒にいるだけで心がザワザワした。 最初は分からなかったその気持ちが、恋だと気づいたのはいつの頃だったか。 まだ第二性も分からない頃だったと思う。だからその時は僅かに希望があったのだ。 もしもどちらかがオメガだったなら、この恋は普通になる。 けれどそれは本当に僅かな希望で、その人がオメガであるはずはなく、僕も可能性はかなり低かった。というのも、その人の両親は共にアルファで、その人本人も小さい時から何においても他よりも秀でていたから。だから万が一にもベータの可能性はあるとしても、オメガの可能性はほぼ皆無だった。そして僕は、全く秀でたところはなく、また華奢でも可愛らしくもない、平均的で一般的な子供だった。そして両親は共にベータだ。 そんな僕がオメガどころかアルファですらあるはずもなく、第二性診断の結果は思った通りベータだった。 だからそれまでずっと心に秘めていた思いは、その結果でさらに誰にも知られてはいけない思いへとなった。 もしもその人も僕を思ってくれたなら・・・いや、そう思えるようなことが少しでもあったなら、僕は気持ちを打ち明けたかもしれない。けれどその人からは無条件の親愛は感じるものの、僕と同じような愛情は感じなかった。それに高校生になると、その人には可愛いオメガの彼女が出来たのだ。 僕と全く正反対の、小さくて可愛らしい女の子。 今までどんな人に告白されても断っていたその人が初めてそれを受け、付き合った相手だ。もちろん幼なじみで親友の僕は、その報告を真っ先に受けた。 その時どんな顔をしていたのか、今はもう覚えていない。 ちゃんと笑えただろうか? おめでとうと言えただろうか? けれど僕の反応なんて関係ないくらい、その人はそれを喜んでいたことを覚えている。 だから僕は思い知らされた。 僕の思いが叶うことなんて永遠にないのだと・・・。 中学まで一緒だった僕達は、別々の高校へと進学した。 アルファのその人は県内一のトップ校。そしてベータの僕は普通の公立校だ。 それでも関係が終わったわけじゃない。 僕達は相変わらず家族ぐるみで仲がいいし、毎日のようにメッセージアプリでやり取りもしていた。だから全く関わらなくなったということはなく、実際に毎日会わなくなっただけで関係は何も変わらなかった。 学校が別れて毎日会えなくても変わらぬ関係に、僕は内心ほっとしていた。だってメッセージの文字は、僕の感情を映さないから。だから僕がどんな思いでいたとしても、その人には伝わらない。だからたとえ苦しくて涙がこぼれていても、それがバレることはなかった。 会いたいけど会いたくない。 そんな僕には、その関係がちょうどよかった。 そしてそんな僕達も、今年3年になった。 受験の年だ。 僕達の住む県には大学が少なく、大抵は関西か関東へと進学する。距離からして関西に進む生徒が多いけれど、僕は第1志望を関東の大学に決めた。なぜならその人は関西の大学を志望したからだ。 だって、もう限界だったのだ。 思いを隠すことに。 中学の時ほど会わなくなったと言っても全く会わないわけじゃない。その度に気持ちを押し殺し、嘘の顔をして話さなければないない。 その人がいない高校生活の中で、新しい誰かが見つかればよかったけれど、僕の思いは消えてはくれなかった。 普通の公立校だから、みんなベータしかいない。 だからみんな、普通の高校生らしく自由に恋愛していた。僕だって、今まで何人かの女の子に告白をされもした。だけどどんなに可愛い女の子に告白されても、僕の心はその人から離れなかった。
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