狂恋

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狂恋

【狂恋】 激しく愛して常軌を逸して居る様に見える恋。 正気で無くなる程の激しい恋。 dfe39dd4-15fd-43db-8541-bf3ad74784c7    もう直ぐ3月も近いが、この北の大地ではまだまだ春の訪れは感じられない。  今日も午前5時30分キッカリに起床。  スマホのアラームを止める。  コーヒーを淹れ、新聞を読み乍らゆっくりとマグカップ一杯を飲み干す。  それが済んだらトースターにパンを1枚放り込み、フライパンにはウインナーを2本。  焼いている間に洗顔、髭を剃り、テレビのニュースを見乍らパンとウインナーを2杯目のコーヒーと共に胃に流し込む。  歯磨きをして居ると、ふとアイツの言葉を思い出し、手が止まる。 「権城さんのその柔らかそうな癖毛、いつか触らせて下さいね。」 ………ポ……ト……と歯磨き中、雫が滴り落ちて我に返る。 (朝からボケっとしてるな!俺!!) 急いで作業着を来て、署に向かう。 刑事。と一言で言ってもその中身は多岐に分かれる。 殺人、強盗等の強行犯を扱う一課、詐欺等の知能犯を扱う二課、空き巣、スリ、引ったくり等の窃盗犯を扱う三課、暴力団を扱う四課、そして俺の居る全ての初動捜査を行う機動捜査隊、通称機捜だ。 機動捜査隊なんて聞こえは良いが、要するに110番通報が有ればいの一番に現場に駆けつけ、後始末をする何でも屋みたいな物だ。  俺達が着る作業服は機捜の言わばスーツみたいな物で、勿論、仕事の内容によってはキチンとスーツを着なければならない時も有るが、初動捜査の多い俺達機捜は何せ汚れる事が多々有るので、汚れたらザブザブと洗える作業服で充分なのだ…  事件も何も無ければ日がな一日、約100km程管轄する管内を覆面パトカーで走り続けるだけ。  今日は何事も無く楽しい(?)ドライブになるか、それとも緊急指令が入るか… 「権さん、今日はどっちが運転します?」と東が聞いて来る。 「今日はお前が運転しろ。」と言い乍ら覆面に乗り込む。 東は俺のバディだ。常に2人1組で行動を共にする。 「今日は良い天気ですね。こんな日は何も無ければ良いなぁ…」と呑気な事を言い乍ら東が車を発進させる。  東の言う通り今日は何事も無く、楽しいドライブコースだった。   ……が、署に戻り、店屋物の夕飯を済ませ、仮眠を取って居た所を叩き起こされた。 「○○町の個人住宅に居住する男性1名と数日前から連絡が付かないと、離れて暮らす息子からの通報。至急現場に向かわれたい。」との指令だった。 急いで覆面に乗り込む… 「○○町…近いですね。」東が覆面のスピードを上げ、急ぎ現場に向かう。 到着してみると、既に地域課の警察官が到着して居り、報告を受ける。 「3日程前から本人と連絡が取れず、心配になって様子を見に来た所、浴室の浴槽の中で俯せの状態で浮かんで居た所を発見した模様です。」  下足袋を履いて東と室内に入る。  報告された浴室に向かうと、異臭を放った家人が浴槽の中に浮いて居た。  家の中には争った形跡も荒らされた形跡も無く、恐らくは入浴中の不慮の事故死か、或いは病死… 兎に角、仏さんを浴槽から出し、検死に回さなければならない。  東が(自分がやります!)と計りに浴槽の縁に足を掛けて上がり、御遺体を浴槽から出そうとするが、なかなか上手く行かない… 見兼ねて「どけ!俺が代わる。」と声を掛け、東を下させて自分が上がる。  浴槽の両端に足を踏ん張り、御遺体の脇に手を掛けて渾身の力で持ち上げる。 ズ……ル……と、表皮の剥ける感覚が作業服の中迄伝わって来る。  3日間、湯に浸かった状態の御遺体は、すっかり表皮がうるけて居た。 ガスも身体から発生して酷い臭いだ… 「東、足の方を持て!」 「うへぇ…」と東が素っ頓狂な声を出し乍ら足を持ち、這々の体で御遺体を浴槽から引き摺り出した。  亡くなって力の抜けた身体は重い。  しかも表皮がズルズルと剥けて抱え難いのを何とか納体袋に納め、ふと自分の身体を見るとズル剥けた表皮が作業服にビッシリとこびり付いて居る… (後で洗濯だな…こりゃ…)  いつも検死をお願いして居る隣の市のS医科大学附属病院に検死依頼の電話を掛ける。  幸いな事に手が空いて居ると言う事で、直ぐ様御遺体を車に載せ、S医科大学附属病院へ向かった。  小1時間程で病院に到着。裏口に車を停め、納体袋をストレッチャーへと移す。  すっかりふやけて居た御遺体は表皮が破け、身体から浸潤液が溢れたのか、納体袋の中でピチャピチャと音を立てて居る…  思わず東が「ピチャピチャ言ってますよ!権さん!」と言うのを「黙ってろ。」と嗜め、手術室へと運ぶ。  検死官でもある医師が間も無く手術室に入って来た。 御遺体に手を合わせた後、解剖を始める。 我々は隅に控えて検死が終わるのを待つ。 解剖の後片付けをするのも我々警察の仕事だからだ。  検死の結果は入浴中の突然の心臓発作による病死… 手術台や手術室の後片付けをし、再び御遺体を納体袋に納め、署に戻り、早朝から待って居た御家族に御遺体を引き渡した。 「昨日は何も無くて、このまま泊まり明けかと思ってたのに、今日は散々でしたね。権さん…」と東が言う。    刑事部屋に戻ると、保険屋のおばちゃんが来て居て 「権城さん、待ってたのよ〜。良い保険商品が有るんだけど、チョットお時間良い?」と言うので俺は溜め息混じりに「おばちゃんさ、今日は勘弁してよ…色々忙しくてクタクタなんだ。今度ゆっくり話し聞くからさ〜。」と言うと 「あら、残念…まあ、お疲れなら仕方ないね……丁度今日、バレンタイン・デーじゃなぁい?これあげるから食べて少しでも元気出して。」と如何にも安い義理チョコを俺の手に3つ手渡すと「じゃあ、お邪魔様でした〜。」と刑事部屋を後にして行った。    俺は今日はとにかく疲れて居た事も有り、報告書は後で作成する事にして、もう帰る様、東に告げ、改めて自分の買い換えたばかりの作業服に御遺体の皮膚片がビッシリと貼り付いて居るのを眺める…  思わず「はあ〜〜〜」と溜め息を漏らし「勘弁してくれよ…」と独り言を言ってしまう。  どうする?買ったばかりの作業服、捨ててしまうのは勿体無い…かと言って、家の洗濯機で洗うのも躊躇われる… 「署の洗濯機で洗って帰るか…」  独りごちて署の洗濯機で汚れた作業服を洗って居ると、突然背後から「あー!権城!漸く見付けた!!」と声が聞こえた。  嫌な奴に見付かった。白石だ…… ツカツカと歩み寄って来て「一体、何してるの?」と覗き込み「ちょっとヤダ!そんな作業服、署の洗濯機で洗わないでよ!」と騒いで来る。 「うるせーな!買ったばかりなんだよ!」と白石を無視して洗濯を続けて居ると「今日こそは付き合って貰いますからね!」と言って来る。 「何なんだよ、お前!俺は泊まり明けだぞ。洗濯終わったら、帰るに決まってるだろが!」と返すと白石は 「権城、あんたいつ迄Sword Castleに行かない気よ!私が行く度にマスターに『クリスマス・イブの奢りのお返し、いつ権城さんは返しに来て下さるんですかね?』って聞かれるんだからね!」と捲し立てて来る。  ………それを言われたくないから、出来るだけ署でも白石に会うのは避けて来た。  同じ刑事部屋でも、俺は機捜、白石は盗犯だから、お互いに忙しいのも有り、ゆっくり話す事も無かったし、 正直、俺が白石を避けて来たのも有る。  コレを言われたく無かったからだ… 「馬っ鹿野郎、俺は洗濯終わったら帰るぞ!今日は泊まり明けだ。サッサと帰って寝るに決まってるだろうが!」と言うと、白石は一歩も引く気が無く 「それは私も同じ事!でも今日は『驚かせたい事が有るから是非、権城さんも一緒に絶対に来て下さい。』ってマスターに言われてるし、此処で見付けたからにはあんたも絶対に連れて行くからね!!洗濯終わったら、正面玄関に集合!!」と強引に言いたいだけ言うと、白石はツカツカと去って行った… 「….ハァ〜……」一層強く溜め息が出る。  正直、行きたく無い……俺は剣城に会いたく無い… 何故、会いたく無いのかなんて分からないが、兎に角嫌なのだ…  結局、俺は半ば諦め、半ば開き直って、絶対に逃さないと言う勢いの白石に伴われ、再び剣城の店に入った。  たまたま今日はバレンタイン・デーの為か、店の中は女性客が多い。  彼女らのお目当ては皆、剣城なのだろう… 「いらっしゃいませ…」と言い掛けて剣城が白石と俺に目を留め、もう一度改めて「いらっしゃいませ。白石さん。そして権城さん、お久し振りです。」と言って来る。  思わず俺も「御無沙汰してます。」と返してしまった。 久し振りに面を拝んだが、相変わらず女受けしそうな面構えをしてやがる。  片耳だけの意味深なピアス…そして、右手小指に何やら厳ついリングを嵌めて…  白石が、何やらゴソゴソと鞄の中から綺麗な箱を取り出し「はい、マスター。バレンタインのチョコレート♡」と言って剣城に手渡し、剣城もにこやかに「どうも有り難うございます。」と言って受け取って居る。 「あれぇ?お店の雰囲気、変わったんじゃない?」と言う白石の声に、俺も店内を見渡すと、4つ有った筈のテーブル席が3つに減り、代わりに小さなステージが設えて有った。  グランドピアノと、ベースと、ドラムセットが置いてある… 「実は学生時代の友人がジャズをやってましてね。『店が閉店して居る時間に練習の為、場所を貸して欲しい。その代わり、毎週土曜日、日曜日の午後8時から1時間、生演奏するから。』と言うので…昔のよしみですし、店にとっても悪い話では無かったので、場所を提供する事にしたんです。  それで、今日がその生演奏の初日だったので、いつもご贔屓にして下さる白石さんにもお声掛けさせて頂いたんですが、まさか権城さんも来て下さるとは思っても居ませんでしたよ。」と、大袈裟に俺の方を見乍ら話し掛けて来る。 (何、言ってるんだよ!お前、白石に俺も連れて来い。って言ったんだろう?白々しい奴!……でも…そう言えば、前回来た時も会話の邪魔にならない程度にジャズが掛かって居た様な気がする…) 「生演奏は8時からなので聴いて行って下さい。何かお飲みになりますか?」と言って来たので、俺は甘く無いカクテル、白石は甘いカクテルを注文すると、剣城は器用にシェーカーを振り、俺にはウォッカ・ギブソン、白石にはピニャ・コラーダと言うカクテルを作って出して来た。  何だか、白石がオレに出されたカクテルを見て 「ふ〜ん?」と言って居る… (何なんだよ?) 「お2人共、お腹は空いて無いですか?」と聞いて来るので「乾き物以外にも有るのか?」と聞くと「店に有る食材で作れる物なら何でも作りますよ。」と言うので任せていたら、美味そうなカルボナーラを作って俺と白石の前に置いた。  一口、食ってみる…驚く程美味くて、思わず剣城の顔を見る。 「どうです?美味いでしょう?」と聞かれ、頷くしか無かった。  店はどんどんと混んで来る。  やがて8時キッカリにジャズの生演奏が始まった。  俺は正直、音楽等殆ど聞かないので、それがどんな曲かも良いのか悪いのかも分からない… 白石は少し酔い始めて居る様だが、楽しそうに聴いて居る。  やがて、生演奏の時間も後僅かになった時、バンドメンバーが剣城に手招きをして居る。  剣城は最初、首を横に振って居たが、しつこく手招きされ、(仕方ない…)と言う風に溜息を吐き乍らカウンターを出、舞台へ…  バンドメンバーの1人が「我らがメンバーの最後の1人を紹介します。剣城 譲!!」と言うと常連客達から拍手が起こる。  俺はただただ驚いてステージを眺めて居ると、剣城がサックスを構え「それでは、1曲だけ…」と言うと、他のバンドメンバーと目配せし、演奏し出した…  音楽なんて、ましてやジャズなんてサッパリ分からないのに、剣城が並みのサックスプレイヤーじゃあ無い事は鈍い俺でも良く分かった。  人を惹き付ける鮮烈なメロディー、演奏のテクニック…頭から全身に音楽を浴びて居る様だ…  驚いて居る内にあっと言う間に演奏は終わった。 (10年前、留置場に居た頃の剣城もこう言った演奏が出来たのか?…恐らく、出来たんだろうな…) 客からはアンコールが求められるが、剣城は「アンコールはバンドメンバーに任せます。」と言って、1曲だけで戻って来た。  白石が興奮した様子で「マスター!本当に凄い!!今の何て曲なの?」と聞いて居る。 剣城は「My favourite thingsと言う曲ですよ。」と答える。  ふと、剣城と目が合ったので「正直、驚いた。」と素直に感想を言うと、今迄見た事も無い様な笑顔を見せた…  生バンドの演奏が終わったタイミングで、煙草を吸いに外へ出る。  キン!と冷たく冴えた空気がアルコールで少し熱った肌には心地良い。  前回の様に剣城も煙草を吸いに後から追い掛けて来た。 「店は放って置いて良いのか?」と訊ねると 「この為にバイトの子、雇ってますからね。」と言い乍らライターの火を俺の煙草に向けてくれる… ふ〜………と、一口胸一杯に吸い込んだ煙を吐き出し乍ら 「凄い演奏だったな…サックスが吹けるなんて知らなかった。留置場に入ってた頃から吹けたのか?」素直な感想を述べる。 「まあね…子供の頃、親に勧められたのはピアノでしたよ。でも、俺はそれに素直に従いたくなかった。抗いたかった。そんな時、見付けたのがサックスです。勿論、親は反対したけど、言う事聞きませんでしたね。」 「……ふ〜ん……」と煙草の灰をトントンと落とし乍ら返事をする。 「所で、あんたもう昔の仲間とは切れてるのか?何なら組対に調べて貰っても良いんだぞ。」と、つい憎まれ口を叩くと「嫌だな権城さん。貴方のお陰で真っ当な道に戻れたと言ったじゃないですか。とっくに切れてますし、交流も何も無いですよ。」と返して来る。  何だか癪に触って(俺….何をムキになってるんだ?)また憎まれ口を叩く… 「それにしてもよくSword Castleなんて安易な店名にしたな?」  これにも剣城は怯まず「まあ、確かに安易ですね。でも、横文字にしたらなかなかでしょ?」と穏やかに返して来る。  ますます憎まれ口を叩きたくなり「見た目も随分変わったな。初めて会った時は痩せこけて短い金髪だったし、目だけがギラ付いてる印象だったが…?」と言うと 「権城さん…あれから10年経ってるんですよ?毎日の様に酒瓶の入ったケース、何箱も持ち歩いたりしてますからね。力も付くし、身体も大きくなりますよ…店が休みの日にはジムにも行ってますしね……そう言う権城さんも、1回り位身体付きが大きくなりましたよね。柔らかそうな癖の有る髪の毛と、意志のはっきりした大きな瞳は変わらない様ですが…」と返して来た。  ……………  暫しの沈黙の後、聞いてみる。 「あんた、この間俺の事、恩人だとか何とか言ってたけど、どうして俺があんたの恩人なんだ?」この間から不思議に思って居た事だ。  それを聞いた剣城は少し考えてから「俺は物心付いた時から、誰かに本気で叱られた事も無ければ、心配された事も無い。自分がまるで誰からも見えない透明人間にでもなって居る様な感覚でずっと生きて来たんですよ…家庭でも、詐欺集団の中でも…どうせ誰からも見られて居ないんだったら、何をしても良いと言う感覚で生きて来たのに、あの日、あの留置場で貴方に叱られた…人生で初めてだったんですよ…透明人間が、初めて1人の人間として見て貰えた様な感覚と言うのかな……貴方には俺がちゃんと見えて居るんだなと思えましたし、兎に角、俺の事を真剣に考えて叱ってくれたのは貴方が本当に最初の人だった。 あれで『俺の事を見てくれる人が居る。真剣に叱ってくれる人が居る…本当に嬉しい』と思えたんです。」  (…この男はこっちが聞いて居て恥ずかしくなる様な事をベラベラと….) ……「…あ〜。そうか……」と返すのがやっと。  またこの間の様に、何だか落ち着かない気不味い沈黙… (そう言えばさっきまた、俺の髪の話をしたな…10年振りに再会した時にも俺の柔らかそうな癖毛に触れたいとか言って居たが…)と思い「あんた、ゲイなのか?」以前から疑問に感じて居た事が思わず口を突いて出る。  すると剣城は「厳密に言うとバイですね。分かります?どう言う意味か?」と聞いて来るので「ゲイもバイも仕事で扱った事は有るから、一応は分かってるつもりだ。」と答えた。 「そうですか…」と剣城が言い、また気不味い沈黙… 「ところで権城さん。俺の呼び方、もう少し何とかなりませんかね?」 「何とかって…」 「一応、俺の方が権城さんより年上ですよね?確か…3つ。 白石さんに権城さんの歳、聞きましたから。留置されて居た時は知らなかったので……多分、幾つか下だな…とは思って居ましたが。」 (白石の奴、余計な事をベラベラと…)と思い乍ら 「だったら、何て呼んで欲しいんだ?」と尋ねると 「剣城さんでも良いですし、マスターでも構いませんし…一寸呼んでみて下さいよ。どっちでも良いので。」とヌケヌケと言うので「けん…」と言い掛けたが、俺が剣城の事を「剣城さん」と言うのは違うと感じたので 「だったら、これからはマスターで…」と言い掛けると「他に人が居る時はマスターで構いませんが、2人の時は剣城でお願いします。」と言い、さあ、言ってくれ。と言わんばかりの顔をするので仕方なく「剣城…」と言うと剣城はとても満足気な顔をして見せた。  (何を喜んで居るんだか…)と思い乍らポケットの中の煙草をもう1本取り出そうとして、指先に触れる物に気付いた。  今日の昼間、署に来た保険屋のおばちゃんが置いて行ったバレンタイン・デーの安そうな義理チョコ3つ… ポケットに突っ込んだままだった… 俺は甘い物が苦手なので、剣城に「チョコ食べるか?」と聞いたら「頂きます。」と言うので3つ全部渡す。  剣城は腕時計を見て「11時58分…」と呟く… 「ギリギリ今日でしたね。」 (?何の事だ?)  剣城は嬉しそうにチョコを受け取り「では、お先に店に戻ります。」と一足先に店内へ戻って行った。  (クソっ!)何だか癪に障り乍ら店の中に戻ると、また白石の馬鹿が酔い潰れて居る… 「おい!白石!!起きろ!そろそろ帰るぞ!!」どんなに揺さぶっても、大声で呼び掛けても起きない… 「ハァ〜〜〜っ」と溜息が出る… (仕方無いか…こいつも当直明けだもんな…)とは思うが困った。 様子を見て居た剣城が「白石さん、起きませんか?」と聞いて来る。 「住所はご存知なんですか?」と聞かれたので 「知っては居るが、こいつの家、電子ロックで番号は知らねぇんだよ。まさか俺の官舎に連れて帰る訳にも行かないし…」 思案に暮れて居ると、剣城が窓際で手招きをして居る。  側に行くと「あそこのコンビニの看板見えますか?あの上がマンションになって居て、俺の家が在ります。店の控え室だと従業員が出入りして落ち着かないでしょうから、俺の家の鍵貸しますので、そこで休ませてあげて下さい。あそこ迄なら白石さんの事、おんぶして行けるでしょ? 何なら俺が帰ったら起こしますから、権城さんも休んで構いませんよ。」と言う。  結局は剣城から鍵を借り、部屋番号を聞き、彼の好意に甘える形になってしまった… 背中におぶった白石は起きる気配すら見せない。 1701号室の鍵を開け、剣城の家の中へと入る。  俺の部屋とは大違いなキチンと整理整頓された室内… 10畳程のリビングダイニングには壁際には無数の小難しいタイトルの本が並んで居る。  反対側の壁際にはアップライトピアノとTV、そして此処にもサックスが置いて有る。  取り敢えず、白石をリビングのソファーに寝かせ、ベランダに沿って置いて有る小さめのテーブルとその前の椅子に座る。  男の癖に小綺麗にして居る部屋で10年前はあんなに荒れた生活をして居たのに、今はそれを微塵も感じさせない… 壁に掛けられた時計を見ると午前1時近い。 剣城の店は午前2時迄のはず。 後、小1時間もしたら戻って来るだろう…  白石はサッパリ起きないし、コチコチ…と言う壁掛け時計の音を聞いて居る内に、いつの間にか俺もテーブルに突っ伏して眠ってしまって居た。  玄関でガタン!と音がして誰かが帰って来た気配がする。 ピクッと反応はしたが、俺は眠過ぎて目が開けられない。 テーブルに突っ伏し乍ら近付く足音に耳を澄ませる。 コートを脱いで、鞄を置く様な物音。  台所に立って何かに水を入れ、火に掛ける音がする。 足音が突っ伏して居る俺に近付き、優しい手が俺の髪に触れた気がして、ガバッ!!っと起き上がる。  剣城は驚いた顔をして「起こしましたか?済みません。権城さん、コーヒー飲みます?」と聞いて来る。 「飲む…って言うか、あんた、今、俺の髪に触ったか?」と聞くと「バレましたか…でも、次に会った時には髪に触らせて貰う約束でしたよね?」と事も無げに言う。 「それはあんたがした一方的な約束だろ?言っておくが、俺は男だからな!あんたの彼女や遊び相手じゃないぞ!世話になっておき乍らこんな事言うのも悪いが、それとこれとは別だろ!」  俺の話を聞いて居るのか居ないのか剣城はしれっとし乍ら「砂糖とミルク要りますか?」と聞いて来るので 「要らない!」と答え、剣城の差し出したマグカップを受け取り、一口飲む…(美味い…)  店で出して居るカクテルや食い物にしても、このコーヒーにしても、どうしてコイツはこんなにも上手なんだ? 「あんた、酒や食い物なんかも学んだのか?」と聞くと、剣城は「そりゃね。」と答える。 「俺が出所してから何年経ってると思ってるんですか? 7年ですよ。権城さん…真面目にやろうと決めたんです。 店を出す前、2年程はT京に出て、カクテルバーの名店の門を叩き捲って修行させて貰いましたよ。」  (そりゃ、そうか…)と思い乍らコーヒーを飲み干し 「世話になって申し訳無かった。正直、助かった。白石起こして帰ります。」と言うと「未だ寝かせて置いても良いですよ。」と言うが、俺達警察官はほんの少しでも休めれば回復出来るので「いや、もう充分休んだから。」と言い「起きろ!白石!!」と呼ぶと、白石も「何よ〜……此処どこ⁈」と一瞬で目を覚ます。 「お前が例によって酔い潰れて寝落ちたから、お前ン家の電子ロックの番号も知らないし、マスターの世話になったんだよ!」と話すと「ヤダ!!そうだったの…アタシったら…ご迷惑お掛けして申し訳有りませんでした。マスター。」と、剣城には殊勝な態度を取る。  そして、剣城に礼を言って二人で彼のマンションを後にした。 「あぁ〜!寝落ちなんてしないで、マスターの家を良く見させて貰えば良かった。権城、あんた何で起こしてくれないの⁈」と文句を言うので「煩せ〜な!何度も起こしたわ!!」と言い乍らそれぞれの帰路に着いた。  その3日後の事だった…  この1ヶ月程の間に管内の極々限られた地域で立て続けに3件の不審火と2件のボヤ騒ぎが相次いで起きて居た。  何となく、本当にこれは勘としか言い様の無い物だが、その日は何か起きる予感がして、午後10時頃から不審火が有った地域を重点的にパトロールして回って居た。  この限られた地域の中で立て続けに起こると言う事は、恐らく犯人は土地勘が有り、そう遠くには住んで居ない人間なのかも知れないと考え、東と付近を重点的に巡回して居た時、とある建築中の建物の中でチカチカと灯りが光った様に感じた。 「おい東、ヘッドライトを消してゆっくりと近付け。」 東に命じ、静かに灯りの漏れ出て見えた建物に近付く…  それから間も無くだった。 パッ!!と一瞬明るく光ったかと思うと、建築中の室内でボウッッ!!と炎が燃え広がるのが見えた。  無線で本部に応援の要請と消防への手配の要請をすると共に、中の様子を伺って居ると、中から目出し帽を被った男が1人、出て来るのが見えた。  コイツが犯人に間違いは無い。 東と目配せし、覆面から飛び出して犯人確保に当たろうと、犯人に向かって駆け出した。 油断して居た犯人は驚いた様子で、必死の抵抗を試みて来る。  東が犯人を押さえ付け「権さん!本部に連絡お願いします!!」と此方を見て叫んだ瞬間だった…  犯人が東を力の限り跳ね除け、懐から鈍く光る何かを取り出す…  柄に滑らない様タオルが巻かれた包丁だった。  それを東目掛けて突き立て様と突進して来た。 「危ない!!」咄嗟に東を突き飛ばす……と同時に左脇腹にズブズブと切先の入って来る嫌な感覚と鋭い痛みが脳天迄突き上げて来た…  俺の腹には包丁が刺さったままで、何とか立って居ようと両脚にグッ!と力を込めるが、膝から崩れ落ちてしまった…  犯人はそんな俺の頭を足蹴にして逃げようと必死の抵抗を試みて来る。  (絶対に逃してたまるか!!)俺は犯人の片脚にしがみ付き、頭を何度も蹴り付けられ乍も犯人を意地でも取り逃さない様にする事で、ともすれば手放しそうになる意識を保とうと渾身の力で押さえ付け「東!確保!!」と叫ぶ。  東が犯人に飛び掛かり、羽交締めにして両手を後ろ手に回させ、手錠を掛けた。  それでも未だ犯人は何とか逃げようと両脚をバタ付かせるのを俺は必死で押さえ込む。 「権さん!!大丈夫ですか!!」と東が駆け寄って来るのを制し「本部に連絡!!」と叫ぶと東は覆面に戻り、本部に連絡と救急車の手配をして俺の元に駆け寄って来た。  腹に刺さったままの包丁に触れようとするので 「触るな!このまま病院まで行く!!」と言い、ともすれば失いそうになる意識を、犯人の脚を掴んで離さないで居る事で飛ばさない様、保つ事に必死で集中した。  間も無くサイレンの音が聞こえ、仲間の車両と救急車がほぼ同時に到着する。  俺の腹からは刺さって居る包丁を伝ってドク…ドク………と血が滴って居るのが分かる。  同僚がパトカーから駆け付けるのを見て、漸く俺は意識を手放した。  次に目を覚ましたのは緊急手術を受け、俺を麻酔から醒まそうと看護師が呼び掛けて居る時だった。 (どうやら俺は助かったのか…)  集中治療室に運ばれ、腕には点滴、胸には心拍やら何やら測る無数の線が付けられて居るのを感じる…  俺はそのまま、また意識を失って行った。  翌日、集中治療室から一般病棟の個室に移された俺が目を覚ます迄ずっと付き添って居たのか、東が憔悴し切った顔をし乍ら「権さん、気付いたんですね!…良かった…俺を庇って…権さんに何か有ったら俺……俺……」と半泣きだ。  腕を動かしてみた…何とか動く。  東の、俺が寝て居るベッドの縁に置かれた手をポンポンと叩き「お前が無事で良かった。もう泣くな。」と自分でも驚く程の掠れた声で話すと、東は目元の涙をグイッと腕で拭うと「犯人は無事、逮捕しました。昨夜の放火現場の3軒隣に住む1人暮らしの56歳の男でした。取り調べた所、これ迄の放火や不審火についても全て白状しました。現在は、余罪が未だ有るか確認中です。」と報告して来たので「お前、一睡もして無いんだろ?帰って休め。」と言うと「でも…」と躊躇うので、重ねて帰れと伝えると 「では、帰らせて頂きます。明日、また来ます。」と言うので 「馬鹿、お前も忙しいんだから、俺の所なんか再々来なくても良いからな。」と伝えると東は俺に敬礼し、大人しく帰って行った…  シ……ンと静かになる… 麻酔が効いて居るのか、今の所痛みは殆ど感じない…  その日の夕方、話を聞いて白石も駆け付けて来た。  バタバタと病室に入って来るなり「権城、あんた大丈夫なの?」と聞いて来る。 「ご覧の通り。」と俺は答えるだけ。 「あんた、対刃ベスト着てなかったの?」と聞かれ 「着てなかった。」と答えると、白石は呆れ顔になり 「大体、あんたは普段から油断し過ぎなの!!今回はこの程度の怪我で済んだけど、一歩間違えば命を失わ無い保証は何処にも無いんだからね!!」と怪我したばかりの俺に対してお小言が始まる。  延々と言いたいだけ物を喋ってから白石は 「じゃね!あんたに構ってる場合じゃない、私、これからマスターの所に行くから!」と言うので「おい!お前、剣城に余計な事ベラベラと喋るなよ!」と釘を刺しておく。  その翌日の午後2時頃には容赦なく尿管に通して居たカテーテルを抜かれ、自力でトイレに行こうとして居た時、血相を変えて剣城が病室に飛び込んで来た。  (白石め!あれだけ釘を刺したのに、ベラベラと喋りやがったな!)と思って居ると剣城は「何してるんですか?もう立って歩いて大丈夫なんですか?」と言った後、ホッとした様子で「良かった…」と言い乍ら俺を抱き締めて来た… 「!!」俺は驚いて剣城を押し除けようとし、左腹部の激痛に顔をしかめる… 「何してるって…カテーテル抜かれたんだから、自力で便所だよ。」と言い、個室のトイレへ歩行器に掴まり乍ら歩く。  剣城は「大丈夫ですか?」と手を貸そうとするので 「大丈夫だから、トイレ迄付いて来んな!」と言い、痛む腹を押さえ乍ら用を足し、手を洗い、戻ってみると剣城はベッドサイドの椅子に腰掛けて待って居た。 「未だ固形物を食べられないですよね?」と聞いて来る。 確かに、昨晩、今朝、昼と重湯が続いた。 夕飯からは3部粥になるらしい… 「ジュース搾って来たんです。」と言って、いそいそと飲めとばかりにストロー付きのタンブラーを俺の目の前に差し出す。  仕方ないので、一口飲んでみる… 林檎を搾っただけのジュースだが、思わず「美味い…」と声が出る。  剣城は嬉しそうに「でしょう?栄養が有りますから、全部飲んで下さいね。」と言うので、喉が渇いて居た事も有り一気に全部飲み干す。  すると、その様子を見て剣城は「それだけ飲む元気が有るなら大丈夫ですね…」と漸くホッとした表情になり 「暫く此処に居ても良いですか?」と聞いて来るので 「好きにしろ。でも、署の連中が来たら説明も面倒だし、何処かへ行けよ。」と言うと、ふ…と微笑んだ… 「怪我の具合はどうですか?痛みますか?」と聞かれ 「点滴に痛み止めが入ってるから今は未だそれ程でも無い。」と応えると「そうですか…横になって下さい。」と俺の背中に手を回して寝かせようとするので、素直にそれには従う。  暫く沈黙の時間が続いて居ると、看護師が俺の身体を清拭する為に入って来た。 「はい、権城さん。身体拭きますよ…あら?お見舞いの方?申し訳ないけど、身体拭いてる間、廊下で待って居て下さる?」と言い、剣城を廊下に追い出すと俺の身体を手際良く拭き乍ら「今は点滴の痛み止めが効いてるから余り痛みは無いでしょうけど、点滴打ち終わって痛くなって来たら、遠慮しないでナースコール押して下さいね。いつでも痛み止めの坐薬挿しますから。」等々説明と世間話に花を咲かせて来る。    俺は内心(痛み止めの坐薬なんて恥ずかしくて頼めるか!絶対に痛くても我慢するぞ!)と思い乍ら看護師の世間話に付き合う。  そして身体を拭き終わると看護師は廊下で待って居た剣城の元へ行き「もう入って良いですよ。」と告げるとそのまま、また別の患者の元へと去って行った。  戻って来た剣城に「あんた、開店準備が有るんだろ? 何時迄もこんな所で油売ってないで、帰って開店準備始めたらどうなんだ?」と言うと「昨日の内にある程度の仕込みは終わらせてますから。」と言い、結局はそのまま店を開けるギリギリ迄、俺の側に付き添ってから帰って行った…  翌日、東が仕事帰りに見舞いに来て「権さん、俺ら、即賞だそうですよ!!」と息先切って言う。 (…まあ、現行犯で放火犯を逮捕したんだから、即賞の対象には成り得るだろうな…)と、思い乍ら 「そんな物、紙切れ1枚と広報誌に載る位だろ?」と返事を返すが、東は初めての大きな受賞に喜びを隠せない様だ… 「表彰式ですが、明後日だそうです。権さんは出られないので、係長が権さんの代理で賞状受け取るそうですよ。」と浮かれて居る。  ふと、東が開けっ放しにして居た病室の出入口に目をやると、剣城が来て居るのが分かった。 (アイツ、今日も来やがった)  心の中で思ったが、剣城は東が訪ねて来て居るのに一早く気付き、人目に付かない所へ去って行くのが見えた…  東は一頻り受賞の事、仕事の事等々を話すと 「じゃあ、余りお邪魔しても権さんも疲れると思うので…」と帰って行った。  それから暫くして剣城がドアをノックする。  仕方ない… 「どうぞ。」と返事をすると剣城が今日もタンブラーを手に入って来た。 「今日はどんな具合ですか?」と尋ねて来るので 「痛えよ。」とぶっきらぼうに答える。  少し心配な様な困った様な表情をし乍ら「そうですか…今日は少し昨日よりも固形物を増やしました。」と タンブラーを差し出して来るので、受け取り、飲んでみる…  林檎と…バナナを粗く潰した物が入って居る様で昨日同様に美味い。 「あんたさ、毎日俺の所に来る必要は無いだろうよ?」と言うと「そうなんでしょうが…迷惑ですか?心配で毎日貴方の顔を見ないと安心出来ないんです。邪魔になる様な事はしませんから、暫く此処に居させて貰っても構いませんか?」と言って帰ろうとしない…  特に話題も無く、暫く沈黙が続く… (気不味い…いつも剣城と2人きりになると何となく気不味い…) そう思って居ると、今日も看護師が清拭にやって来た。  正直、少しホッとする。 「さあ、権城さん。今日も身体拭きますよ…あら?昨日も来て居た方?申し訳ないけど、今日も少し廊下に出て居て貰えますか?」と言われ、剣城が席を立とうとした時、清拭に来た看護師の呼び出しベルが鳴った。  どうやら、別の担当患者に何か有った様だ。 「御免なさい、権城さん。一寸急ぎの用が出来たので、後で又、身体拭きに来ますね。」と言った看護師に対し、 剣城が「看護師さん。お忙しそうなので、私が代わりに権城さんの清拭しても構いませんか?一応やり方は、昨日調べて来ました。」と言い出した!  (おいおいおい…冗談じゃ無い…俺は嫌だぞ…)と思って居ると、看護師は一寸考えてから「じゃあ、お願いしても良いかしら?申し訳ないけど、今日は色々と手一杯で…」と申し訳無さそうに言い、持って来たタオル3枚を剣城に手渡すとそのまま出て行ってしまった…  後に残ったのは俺と剣城だけ… 「権城さん、替えの下着、ロッカーですか?出しますよ。」と言って、俺の下着を探し出し、用意を整えると「さて…タオルが冷めてしまわない内に身体を拭きますか…権城さん、上、脱いで下さい。」と病室の扉を閉め乍ら剣城が言うので 「待て待て待て…誰があんたに身体拭いてくれって頼んだよ?」と一応、反論を試みるが「傷が痛くてその身体じゃ未だ自分で全体は拭けないでしょう?ほら、早くして下さい。」と言って来る…  (こいつめ!!)と思い乍らも仕方なく上の病衣だけ渋々脱いだ…その動作だけでも、左脇腹の傷がとても痛む。 「良い身体してますね。全く無駄の無い筋肉だ。」と剣城が言うので「要らん事は言わなくて良いから、サッサと拭いてくれ!」とかなりイライラし乍ら返す。  俺の背後に回った剣城は首筋から拭き始め、脇、背中…と拭いて行き、前に回って前側の首筋、胸へと手が下がって来る…  途中でタオルを替え、胸元を拭かれた時に俺の乳首にタオル越しの剣城の指先が当たり、一瞬、ピクンっ!と身体が跳ねてしまった…  剣城は気付いて居ない様で、俺の傷に触れない様に腹部を拭き乍ら、ガーゼを当てがい、大きなテープで留められて居る俺の左脇腹の傷の部分を見てボソッと 「傷跡…残らなければ良いですね…」と言うので 「別に女じゃ無いんだから、傷の1つや2つ、有ったって構わねぇよ。」と返す。  それから剣城は「権城さん、下も拭くのでズボンを脱がせますよ。」と言って来る。 「いやいや、良い!下は自分で拭くから良い!」と拒否して自分で拭こうとズボンを下げようとして前屈みになった途端、傷に激痛が走る… 「!!……………」と声にならない声で腹を押さえると 「ほら、未だ無理でしょう?」と剣城が溜め息を付き乍ら 「脱がせますから、仰向けに寝て下さい。」と言うので、俺は大人しくそれに従うしか無く、剣城はいとも簡単に仰向けに寝た俺の両脚からスポン!と病衣のズボンを引き抜くと「権城さん、頑張って横向きになれますか?俺も手伝いますから。」と言い、俺の腰に手を添えて来るので、俺もベッドの柵に手を掛け、何とか剣城の手を借り乍ら横向きになる。  そして、剣城は俺の両脚の裏側を拭き始める。 裏側を拭き終わると、俺のパンツも半分下ろそうとするので「おい!何しやがる!!」と言うと 「何もしやしませんよ。でも、お尻周りも拭かなきゃでしょ?」と言い乍ら、必死に無言の抵抗を続ける俺を尻目に無理矢理、両方の臀部を拭いた後、 今度は「仰向けになって下さい。」と言う… 「何でだよ!!本当に、本当にもう良い!!」…多分、俺は恥ずかしさで茹で蛸みたいになって居ただろう…  でも、剣城は更に強い口調で「良いから!大人しく仰向けになる!!」と言い、その口調とは裏腹に俺の背中を支え乍らゆっくりと俺を仰向けにする。 (もう…もうどうにでもしてくれ…)俺はまるでまな板の上の鯉の気分だった。  俺を仰向けにすると、今度は足首の方から上に向かってゆっくりと拭き上げて来る。  そして太腿迄来た時、剣城の手がピタッと止まる。 「?」と思って居ると、剣城が「……あ〜……権城さん… これ、どうします?」と言って来るので、首だけ何とか動かして下を見ると、あろう事か俺の股間が半分勃ち掛けて居る…  (何考えてるんだ!?俺の股間!!)と思い乍らも 「どうもこうも…放って置いてくれ!!」と言うと剣城が 「でもコレ、このままじゃ辛いですよね。」と言うので、 「あ〜!俺が自分で処理するから放っといてくれ!!」と重ねて言う。  …が、剣城は「その怪我では自分で処理するなんて、無理でしょう?俺が抜いてあげますよ。」と事も無げに言う。 (コイツ…人が自由に動けない事を良い事に…)  と、思うのも束の間、剣城が俺の股間に手を伸ばして来るので、俺はその腕から逃がれ様として急激に動いた途端に腹部に激痛が走り、思わず腹を押さえて呻いてしまうと、押さえた手とは反対側の手を捕まれ、ベッドに押し付けられる。 「こんなのただの生理現象。権城さんが今、自分で出来ないから、代わりに俺がやるだけです。」と言って、躊躇無く俺の下着をずり下げると股間に直に触れて来る… 「……や……や……め………」剣城は片手で俺のペニスを握り、もう一方の手で俺の口を塞いで「シッ!大きな声を出さないで、直ぐに済みます。」と言うと握り込んだ俺の物を扱き出す…  半立ちだった俺のペニスが勢い良く立ち上がって行くのが自分でも良く分かる… 「んん〜〜っっ!!」その刺激に思わず声が出掛けて、ますます剣城にグッ!!と口を塞がれる。  自分で扱くのとは全く違う感覚…内腿がピクピクと麻痺して来る…  剣城は俺のペニスを大きな掌全体で握り込むとリズミカルに上下に擦り上げる。 「……!………!!」俺は言葉にならない…  やがて竿の裏側を優しく撫で上げると雁首をソッ…と何度も撫で回して、全体をまた扱くのを何度も何度も繰り返す…  俺はどんどんと昇り詰めて行き、身体がピクンピクンと時折り跳ねてしまう…  両目をギュッと瞑って居たが、薄目を開けて剣城を見ると彼の額に汗が薄っすらと浮かんで居る…  強く、弱く、擦り上げられ、最後に亀頭の割れ目に指を掛けられ、軽く引っ掻かれると「うぅっっ!」と呻き、とうとう俺は剣城の掌の中に欲を吐き出してしまった…  俺の口を塞いで居た剣城の手が離れて行き、俺はハアハアと荒い息を吐く…  剣城は消灯台の上に有ったティッシュを何枚か引き抜くと先ず、掌の中の俺が吐き出した物を拭き、次に俺のペニスを拭き、更に洗面台へ行って熱いお湯で濯いだタオルで汚れた所を全て綺麗にしてくれる… 「…お前……」荒い息を吐き乍ら言い掛けるが、そこから先が続かない。  剣城は無言で素早く俺に替えの下着を履かせ、病衣を着せると「今日はもう帰ります。権城さんも気不味いでしょうし…」と言って帰ってしまった。  後に残された俺には気怠い解放感だけが残って居た。  その翌日も、剣城はタンブラーを持って何事も無かった様な顔をしてやって来た。 「一体、何しに来たんだ!」俺はつい声を荒げて言ってしまう。 「何って、見舞いですよ。」と剣城は涼しげな顔で事も無げに言いやがる。 (この野郎!昨日の今日で俺はお前に会いたく無いんだよ!) と内心思い乍らも「帰れ!」とは何故か言えない…  もう直ぐ今日も看護師が清拭にやって来る。 今朝の回診で医師にシャワーだけでも浴びれないか聞いたが、俺の傷口を診て「傷の治りが遅いので、この先1週間は入浴どころかシャワーさえも、駄目ですね。」と言われてしまった。 「今日はバナナパンプキンスムージーを作って来ました。病院食の邪魔にはならないと思います。」と言って差し出して来るので仕方無く飲む  …確かに美味い…だが、そんな事はどうでも良い。 俺は看護師が清拭に来るのが気になって仕方がない… やがてガラッ!と扉が開き「権城さん。身体拭きますよ。」と言い乍ら看護師が入って来て剣城に気付き 「あら!今日も来てらしたんですね?仲が良いのねぇ…」と要らん事を言う。  するとすかさず剣城が「看護師さん。私、毎日来てるので、もし私でも構わなければ、清拭はシャワーを浴びれる様になる迄暫くの間、私がやりますが…」と涼しい顔をして話す。  (なっ!何言ってるんだ!この野郎!!)と思い 「いや、俺は看護師さんに…」と良い掛けると看護師が「あら?そうなの?正直言って助かるわ〜。今、入院患者さんがとても多くて猫の手も借りたい位に忙しかったの…じゃあ、申し訳無いけどお言葉に甘えちゃおうかな?」  …と俺の懇願を半ば無視して、看護師はまたタオル3枚を剣城に手渡して出て行ってしまった…  暫しの沈黙が流れる… 「余計なお世話でしたか?権城さん…でも、俺は貴方に嘘を付きたく無いのでこの際だから、ハッキリ言います。 俺は貴方が好きです。 例えどんな手を使ってでも、貴方の事を本気で堕としたいと思って居ます。だから、卑怯だろうと何だろうと使える手は何でも使います…… 嫌ですか?俺に身体拭かれるの?もし嫌なら今直ぐに看護師さんを呼びます。そして、明日からはもう貴方に迷惑を掛けたくは無いので、此処には来ません。」  …真剣に、俺の目を真っ直ぐに見詰め乍ら話す剣城から、俺は目を離す事が出来なくなる… 「……お前、お前卑怯だぞ…俺に決めさせるのか?俺に……」  (俺、何を言ってるんだ?嫌だ!看護師に今直ぐに変われ!と言えば済む事じゃないか…それなのに、何を口走ってるんだ?…何を…) と思い乍らも口を吐いて出るのはそんな事許り…  暫くの沈黙…  (俺にとって剣城は何だ?どう言う相手だ?必要なのか?失いたく無い相手か?)  色々な考えがグルグルと頭の中を駆け巡る… そして半ば無意識だったと思うが 「……剣城さん。あんたに身体を拭いて貰いたい。」と口走って居た。  直ぐに(ハッ!!)として口元を押さえたが、剣城がその言葉を聞き逃す筈も無く、直ぐ様嬉しそうに病室のドアをしっかり閉め、ご丁寧に鍵迄掛けてイソイソと俺の替えの下着を出し、病衣の上を脱がせる…  ソッと俺の首筋に触れ、拭き上げて行く。 首から背中、腰…そして前に回って首、胸…昨日同様、タオル越しに俺の乳首に剣城の手が触れ、一瞬ピクッとなってしまう…  まるで馬鹿みたいに俺のペニスが段々と反応して来るのが分かる…  恥ずかしい… 恐らく剣城も気付いて居るだろう。  剣城が掠れた声で「…直に…」と言うので(何だ?)と彼の顔を見ると「権城さんの身体に直に触れても良いですか?」と俺に了承を求めて来る。  此処迄来て、昨日、コイツの掌の中に埒をぶち撒けて今更嫌も何も無い。 「……好きにしろ。」と言うと、剣城はソッとまるで大切な物を扱う様に俺の頬を撫で、首筋をなぞり、直に乳首に触れる…ビクッと身体が反応する。 「感じ易いんですね?権城さんの此処…」と口に出して言う。 「よ…余計な事言うな。」と剣城に言った俺の顔は恐らく真っ赤だっただろう…「ふふ…」と笑い乍らそのまま手が臍から病衣のズボンと下着の中に入って来て、直接俺のペニスに触れて来る。  昨日と同様、強弱を付けて上下に擦り上げられて行く… 「……あ……う…」と思わず声が漏れ出てしまい、俺は慌てて自分の両手で自分の口を塞ぐ。  次の瞬間、剣城は勢い良くズボン諸共俺の下着を膝迄引き摺り落とすと何の躊躇いも無く俺のペニスを口に含んだ。 「!!!!!」強く吸い上げられて太腿がワナワナと震えて来るのが分かる。  手でやるのと同様に剣城はキツく、緩く俺のペニスを吸い上げ乍ら出し入れを繰り返し、同時に舌で俺のペニスの裏側を舐め上げる…  何度も何度も行きつ戻りつを繰り返し、俺を追い詰めて行く…  もう、俺の我慢も限界に近い… 剣城の唇が俺の亀頭だけを含み、中で先端の割れ目に沿って舌を這わせて来る。  堪えきれずに両手で押さえた口から「うっ……うっ……」と声が漏れ出る… 「もう止めろ!離せ剣城!!出ちまう!!」と叫ぶと一気に!  剣城の唇が俺のペニスの先端から根元迄全体を強く吸い上げ乍らペニスの付け根迄上がって来、遂に俺は堪え切れずに剣城の口中に勢い良く精を解き放ってしまった… 「おい!吐き出せ!剣城!!」 荒い息を吐き乍ら俺が叫ぶのもお構い無しに何の躊躇いも無く、剣城は俺の吐き出した物を全て飲み干してしまった…  (マジかよ……) お互いに荒い息を吐き乍ら息を整える。  俺は羞恥心で一杯だが「馬鹿野郎!早く口を濯いで来い!」と漸く口に出して言うと、剣城はサラリと 「別に汚い物を飲み込んだ訳じゃないので、こんなの平気です。」と言い「それよりも身体が汚れてしまったので、熱い湯でもう一度タオル絞って今度こそちゃんと身体、拭きますね。」と言って病室に備えられて居る洗面台へ向かった。  そして、俺の身体を隅々迄綺麗に拭き取り、着替えを手伝い、自分の店を開ける迄の間、何事も無かったかの様にたわいも無い話をして「明日、また来ます。」と言い残して帰って行った。  1人残された俺は今日、剣城に言われた事を考える… (俺の事が好き…?俺の事を本気で堕としたい…?此処までアイツの事を許してしまった俺は一体何を考えてる………)  答えを出せないまま、後に残された俺には気怠い開放感だけが残って居た…  その後、シャワーの許可が下りる迄、俺は毎日の様に剣城に清拭と称しては身体中を慰められ、俺の身体はまるでそれを待って居たかの様に彼の愛撫を受け入れ続け、彼の口中に欲を吐き出し続けた。  例え身体の自由が効かなくても、俺が強く拒否すれば恐らく剣城はきっとこの毎日の様に繰り返される行為を止めた筈…  結局は俺もそれを赦した…己の欲望に負けて…… 自分でも本当に分からない…俺は剣城の事が好きなのか?  でも、俺の身体は俺の心よりもずっと正直だった…  多分、それが本当の答えなのだろうと俺は思った。  自分でシャワーを浴びられる様になっても剣城は勿論、毎日の様にタンブラーを持って見舞いに来てはいつもの様に自分の店の開店時間迄、たわいもない話をしては帰って行くを繰り返した。  まるで何事も無かったかの様に… 剣城の真意を計りかねて、俺はその事に戸惑いを感じ無かったと言えば嘘になる。  それ位に或る意味衝撃的で、濃密な時間だったのだ…  その後、1週間で俺は漸く退院する事が出来た。 退院の日も剣城は荷物持ちに来たそうな素振りを見せたが「バディを組んでる東が迎えに来てくれる事になってるから…」と言うと、少し残念そうに「そうですか…」と言って諦めた様子だった。  退院後、俺は1週間の自宅療養の後、3日前から職場復帰を果たした。  刺されはしたが、傷の治りが遅かったにしても僅か3週間程で職場復帰出来たのは運が良かったのだろう…  自宅療養中の1週間は閉め切ってすっかりカビ臭くなった部屋を片付けたり、冷蔵庫の駄目になった食材を処分したり、腹の傷を庇い乍も毎日の様にやる事を見付けては忙しく過ごし、剣城の事はなるべく考えない様にして居た。  そして職場復帰を果たした3日目の晩、俺は文字通り、半ば強引にズルズルと、同期で同僚の盗犯係に所属する女刑事の白石に無理矢理剣城の店へ引っ張って行かれた…  その日は3月14日。謂わゆるホワイト・デーだった。 白石の馴染みである剣城のカクテルバー『Sword Castle』は雑居ビルの3階に有る。 「おい、白石!本当に勘弁してくれよ。俺は職場復帰して未だ3日目だぞ!」と訴えてみたが、白石は「職場復帰出来てるんだから、大丈夫でしょ?あんた連れて来い。って、マスターに言われてるんだから、引き摺ってでも連れて行くからね!」と半ば強引に引き摺られ乍ら、剣城の店の扉を潜った。  女性客でごった返した店の中で目敏く俺達を見付けた剣城は「いらっしゃいませ。白石さん。権城さん。」と言い、キープして有ったカウンター席に俺達を座らせると、白石にすかさず高そうなクッキーの箱を手渡して「いつもご贔屓にして下さり、有り難うございます。細やかですが、バレンタイン・デーのお返しです。」とにこやかに微笑み乍ら言うと 「うわぁ!どうも有り難う♡マスター♡」と文字通り目をハートにして白石はとても嬉しそうだ…  (その見てくれと物腰で女心を掴むのが上手い奴…) 剣城に会うのが気不味かった俺は、横目でその様子を見乍らそんな事を考える。  剣城は白石には『アプリコット・クーラー』そして俺には『モーニング・グローリー・フィズ』と言うカクテルを出して来た。   若干甘い気がしたが、まあ飲めなくも無いので、黙って飲む。  剣城が俺と白石に出して来たカクテルを見て、何となくだが、段々と白石が不機嫌になって来た気がする… (お前が無理矢理俺を此処に引っ張って来たのに、何、不機嫌になってるんだ?お目当ての剣城に会えて嬉しいんだろうがよ?)  次々とホワイト・デーに店に押し掛けて来る女性客は皆、一様に剣城が目当てなのだろう…  長身で筋肉質の一切の無駄の無い立派な体躯、切れ長の二重の瞳と高く整った鼻梁、薄めだが、形の良い唇…… 肩位の長い黒髪を無造作に後ろで括って居る。  (………あの唇で俺は……… ほんの2週間少し前迄、毎日の様にコイツに全身を慰められてたのか………俺と同じ男に慰められるなんて!…とゾッとして居たのに…)  女性客に囲まれて居る剣城を見乍らそんな事を考えて居る自分に対し(何、考えてるんだ?俺……今、一体どう言う感情で剣城を見てた?)と己に少し嫌気が差して湧き上がって来る色んな感情に戸惑って居ると、珍しく酔い潰れなかった白石が不機嫌丸出しで「そろそろ帰る。」と言い出した。  腕時計を見ると夜中の12時を少し過ぎて居る… (俺も帰って寝るとしよう…正直、腹の傷も未だ少し痛いし…)と思い、勘定を済ませて店を出ようとすると、剣城に呼び止められた。 「権城!私、先に帰るよ!!」と言うと白石は俺を置いてサッサと先に帰って行ってしまった。 「な…何だよ?」とぶっきらぼうに尋ねると剣城は俺の掌に何処かの家の鍵を乗せる。  そして「俺の家の鍵です。マスターキーは持ってますので、これは権城さんへの俺からのホワイト・デーのプレゼントです…俺の家の場所は知ってますよね?これは権城さんがずっと持って居て下さい。」と言うので 「………俺は男だぞ。大体こんな物、貰う理由が…」と言い掛けると「権城さん、バレンタイン・デーに俺にチョコくれたでしょ?」と言う。 ……確かに、嫌々乍ら2度目にこの店に来た時、たまたま バレンタイン・デーだった…で、確かに剣城にチョコはやった。 「でも、あれは署に来た保険屋のおばちゃんがくれた物で、俺は甘い物が苦手だからたまたまポケットに入ってたのをあんたにあげただけで、何の意味も無い…」と言い掛けると「兎に角受け取って。そして俺の家で待って居て下さい。今日は何が有ってもAM2:00には店閉めて帰りますから。」と強引だ… 「俺は受け取るとも、お前の家に行くとも言ってない…」と言うと剣城は軽く微笑み乍ら「もう、鍵は権城さんの掌の中に有るじゃないですか…そして貴方は必ず俺の家に行ってくれると俺は信じて居ます。寝ないで待って居て下さいよ。俺、急いで帰りますから。」と強引に言うと自分は又、店に戻って行った。  剣城の店を出て暫く考えた… こんな事は当たり前だが、勿論初めての事で、頭は混乱して居る…  (俺はどうする?どうしたい………)  行きつ戻りつウロウロする…  3月の…未だ凍て付く空気の中で冴えた頭で考える。 このまま剣城の家に行けばどうなるか……幾ら鈍い俺でも想像は付く。  剣城が俺に何を求めて居るのか…俺をどうしたいのか… (男だぞ……俺は……)  恐らく奴の家に行けば、例えそれがどう言う形であろうと、俺は奴と身体の関係を結ぶ事になるだろう… (駄目だ!無理だ!俺にその覚悟は無い!! ………鍵は白石に……と言う訳には行かないか…俺が次に剣城に会った時に自分で返さなければ……)  (剣城の家には行かない。)…と、決めて俺は自分の家へと歩き出す。スタスタと脇目も振らずに……… …だが、何故か脚がピタっと止まってしまう…       …結局、答えは自分でも驚く事に自然と剣城の家の方向へ向かって歩き出して居ると言う事実だった。  剣城の店から見える1階にコンビニの入った賃貸マンションの17階。1701号室。  貰った鍵を使って中に入った…  相変わらず綺麗に整理整頓されて居る。 大量の本とアップライトピアノとサックス…時計を見る。  午前1時少し前。 所在無げにウロウロしてから取り敢えずソファーに座り、 (前に1度だけ来た時は酔った白石をこのソファーで休ませて貰ったっけ…)と思い、今夜は俺が横になる… (寝ないで待て。って俺は今日は日勤だったけど、1日中仕事して疲れてるんだよ…とてもじゃ無いけど、眠くて無理だろ……)  そんな事を考え乍らウトウトと眠りに落ちてしまった…  カタン!と音がしてハッ!と目が覚める。 いつの間にか剣城が帰って来て、何やら何処かで何かをやって居る様だ…  やがて足音がリビングに近付いて来る。 チラッと時計を見ると午前2時30分…店閉めて、急いで後片付けして帰って来たんだろう…  俺はバツが悪過ぎて寝た振りをそのまま続けて居た… 俺の側に近付いた剣城の手が俺の髪にソッと触れて来る。 瞬間、ピクリと動いてしまった。 「やっぱり狸寝入りだったか…」と剣城が言うので、すかさず「職場復帰して未だ3日目だぞ。それでも今日1日フルに働いて疲れてるんだよ!俺は!本当に眠ってたんだ… あんたが帰って来た音で目が覚めただけだ。」と言うと「そんなに疲れてたのに、自分の家に帰らずに俺の所に来てくれたんだ?」とすかさず返して来る。 「!」思わず返す言葉に詰まる。  …と言うか、剣城の言葉遣いが出会った頃に戻ってないか?  剣城が春物のコートを脱ぎ、クローゼットにしまった後、俺の所にやって来て、ソファーの隣に座ると 「権城さん…俺はあんたに嘘は付かない。こんなに1人の人間を好きになるなんて、あんたが初めてなんだ。 正直言って、あんたを俺の手の中に堕としたいと思って居るし、もうこれ以上待ち切れない。と言うのが俺の偽らざる本心なんだ……迷惑か?此処に来てくれたと言う事は、 俺の気持ちにあんたも応えるつもりが有ると自惚れても良いんだろう?」と剣城は真っ直ぐに俺の目を見て尋ねて来る。 「……俺は………」何をどう言ったら良いのか、何故此処へ来てしまったのか…  でも、真剣に尋ねて来る剣城のこの言葉に俺も真剣に答えなければならない…  重い口を開く。 「俺は…俺は正直、あんたの事が好きなのかどうか自分でも良く分からない。この感情が何なのか……10年間、俺の事を忘れずに居てくれたあんたの事を、俺は……俺は…… 剣城さん、あんたの事、すっかり忘れて居たと言うのに… あんたに好いて貰う資格、正直言って俺には無いんだよ…」  言い終わる前にグイッ!と手首を引かれ、抱き締められる。 「お…おい!」両手で剣城の身体を必死になって押し返す。  正直言って、未だ俺には此の先の事に対しても剣城に対しても抵抗が少し…いや、大いにかもしれないが有る。 (こんな事に俺は慣れて無いんだよ…) と、思うのも束の間、剣城の唇で俺の唇が塞がれた…  病室ではあんな事をしてしまって居たが、口付けをされた事はただの一度も無かった。 「……うーっ!」と唸って離れようと踠くが、剣城は馬鹿みたいに強い力で俺を離すまいと更にきつく抱き締める。  剣城の舌が俺の唇の上をなぞり、強引に俺の口中に押し入ろうとする。  俺はそれを許すまいと強く唇を噛み締める。 「……権城さん、もう諦めて。あんたは今夜、俺の物に成るんだ。さあ、その口を開けて…。」  俺の耳元で囁いて来る… 俺は自分でも信じられない事にその言葉を聞いて、まるで魔法にでも掛かったかの様に薄っすらと唇を開いてしまった。  すると、すかさずに剣城が俺の口腔に舌を侵入させて来て、俺の口腔の上顎を舌でなぞり、更に深く口付けをすると舌先で俺の舌を絡め取って来る… 何度も何度も口付けては舌を絡め、俺の唇の端からツッ……と唾液が垂れる。  それを剣城に何の躊躇も無く舐め取られ、 「馬…馬鹿野郎…そんな汚い事するな…」と唇を離して訴えると「あんたの物は何もかも俺にとっては汚くなんかないんだよ。」とニヤリと笑って言う。  右手で俺の肩を抱き、左手は俺の腰に手を回してガッチリと掴んで離さない。 「……一つ聞きたいんだが…」と言うと「何?」と返事が帰って来る。 「あんた、さっき今夜俺があんたの物に成る。と言ってたが、それはあんたが俺の事を抱きたい。と言う事か?」と聞くと剣城は「ぷっ!」と吹き出し「ストレートに聞いて来るんだな。その通り。俺はあんたを抱いて、あんたの全てを俺の物にしたいと思ってる。」と真面目な顔をして答えた…  (ストレートに物を言ってるのはどっちだよ?)と思って居ると「駄目か?嫌なのか?それともあんたが俺の事を抱きたいのか?」と大真面目に聞いて来られて 「俺は…女性とだってそんなに経験無いんだよ。ましてや男なんか当然抱いた事も無い…」モゴモゴと口籠もって居ると「じゃあ、決まりだな。今から俺があんたを抱く。」とキッパリと言うと、何やらゴソゴソとスマホを取り出して「今から風呂に行って、身体を洗ってからこの手順に従って後ろの準備をしておいで。」と言って画像を俺に見せて来た。  (!俺がこれをやるのか!!)  その映し出された映像の生々しさに思わず目を背けてしまう… 「あんたがこれを見たく無いだろう事は分かる。けど、この準備をしないと後で辛くなるのは俺じゃ無く、間違いなくあんたなんだよ。」とまるで俺を諭す様に言う… 「風呂の用意はあんたがうたた寝して居る間に済ませて置いたし、俺はもう風呂に入って来たから…」と半ば強引に風呂へと促された…  事、此処に及んでも未だ俺の心の中には葛藤が有る。 けれど、此処に来る事を決めた時点でこうなる事は予想も付いて居たし、どっちの立場になったとしてもある程度覚悟はして居たじゃないか…  風呂で隅々迄身体を洗ってから、件の画像の手順に従って不慣れ乍も自分のケツの準備をする……  風呂場に聞くも絶えない様な音が響いて何とも言えない気持ちになり、誰も見てなくても恥ずかしさが込み上げて来る……  この作業だけでもドッ!!と疲れたが、何とか準備を終えて、置いてあったバスタオルで身体を拭き、用意されてたバスローブを見て(何だよ?バスローブって!!)とは思ったが、それ以外に着る物も無く、仕方なくバスローブを羽織ってリビングに戻る… 「おい!これ以外に着る物無かったのか?」と文句を言い乍らリビングに入ると、剣城はいつの間にか部屋着に着替えてソファーに腰を下ろして居た。 (お前は普通の部屋着で俺はバスローブ……)と思って居ると 剣城が「どうせ直ぐに脱ぐんだから、脱がせ易い方が良いだろ?」と俺の方に腕を伸ばす。  ふと、剣城の左腕が視界に入って俺は驚いた。 今迄は長袖だったから気付かなかったのだが、左腕に剣の柄から切先迄、蛇がトグロを巻いて巻き付いて居るタトゥーが入って居る…  剣城は俺が驚いてタトゥーを凝視して居るのに気付き、腕を俺の方に差し出し乍ら「再会してからずっと長袖だったからな…普段は更にサポーターで隠してたし、若気の至り……って奴だよ。やさぐれてた頃の細やかな自己主張って奴。あんたに初めて留置場で会った時も既にこのタトゥーは入ってたよ。あの時も長袖で、気付かれる事は無かったけどね…」と半ば自嘲気味に話してくれた。 「そんな事よりも…」と俺の腕を掴んで自分の胸に引き寄せ、俺は剣城に強く抱き締められる。 「漸く捕まえた……あんたをこの手の中に入れる迄に10年掛かった……」と言うと、俺の手を引き、隣のベッドルームへと誘う…  ベッドを見た瞬間、俺は一瞬固まる。 普段は何気ない寝室も、今夜はただその行為をする為の場所にしか見えない。  此処でこれから何が行われるのかを考えると、思わず逃げ腰になる… 「駄目だよ。逃げちゃ……」と言うと剣城は再び俺を捕まえ、口付けを交わそうと、唇を寄せて来るのから逃れようとすると、しっかりと力強い腕にガッシリと後頭部を掴まれ、半ば強引に口付けをされる。  深く…深く…遠慮なく剣城の舌が俺の口腔を割って入って来ようとする。  俺はそれをさせまいと再びガッチリと唇を引き結んで居ると、剣城が「あんたって人は……もう、本当に観念して口を開けて…。」と言う…  観念……観念か………  本当に観念して、引き結んで居た唇の力を緩めると、 待ってました!と言わん計りに遠慮無く剣城の舌が俺の口腔を押し開けて中に入り込み、俺の舌を絡め取る…  最初は驚いて居た俺もいつの間にかそれに応え、遠慮勝ちに剣城の舌に自分の舌を絡ませてみる…  一瞬、剣城は唇を離すと嬉しそうに「権城さん…」と言い、再び深く口付けをして来る…何度も何度も角度を変えては口付けられ、こっちが息苦しくなる程だ…  そうして漸く唇を離すと、俺の頭を支えながらベッドに優しく押し倒す。  (馬鹿野郎!俺は女じゃ無いんだ。そんな女の子にするみたいに俺の事扱わなくて良い。)と思う。  剣城が俺のバスローブの紐を解き乍ら「権城さん…今から権城さんの事、理。って呼んでも良いか?」と俺の了解を求めて来る。  (そんなの…)「好きに呼べば言いだろ?」と答えると、嬉しそうに「じゃあ、理も今から俺の事、2人きりの時は譲。って呼んでくれ。」と言う。 「試しに呼んでみて…。」と言うので「い…今かよ…」と言うと「そう、今。」と催促して来る。  仕方なく、嫌々乍ら「ゆ…譲……」と言うと急に俺の事をギュッ!と抱き締めながら「理!!」と呼ばれ、再び深く口付けられ、そのまま譲の唇が段々と下の方へと降りて行く…  首筋に何度も口付けし、悪戯な唇が俺の胸へと降りて来ると、片方の乳首をキツく吸われ乍らもう片方の乳首は譲の長い指先で弄ばれる… 恥ずかしい…まるで女みたいに大切に扱われて居る…  俺は両方の乳首に刺激を受けて自分のペニスが反応して来て居るのに気付く。  乳首を吸われ、舌で捏ねられて居る音もピチャピチャと聞こえて来る。 (恥ずかしい、恥ずかしい…) 俺は自分の手の置き所が無くて、ただただシーツを鷲掴みにして居る…  譲の片方の手は俺の乳首を弄び乍ら、彼の唇がそのまま俺の胸から脇、更に下へと降りて来て、ふと、俺の刺されたばかりの傷の所で停まる。 「傷、残ってしまったな……」と残念そうに俺の傷をソッと撫で乍ら言う… 「お…女じゃないんだ、傷の1つや2つどうって事無い。」 少し呼吸を荒げ乍ら俺が言うと「…でも、綺麗な肌だったのに…」と言い乍ら俺の傷にソッと口付けし、更に行為を続け、譲の唇が遂に俺の股間へと到達する。  履いて居た下着を思い切り剥ぎ取られ、譲の両手は今度は俺の両脚を上から下へ、下から上へと撫で回し、唇は完全に勃ち上がって居た俺のペニスをいきなり含んだ。 「!!」  得も言われぬ快感が、譲の唇に含まれて居るペニスから俺の脳髄へと駆け上がり、俺の両脚は思わずベッドのシーツの上を踏み締める。  病室でされた様に、キツく、緩く…そして何度も上下に強弱を付けて強くペニスを吸い上げられ、俺の唇からはまるで女の様に「……あ……あぁぅっ…」と声が漏れる。    どんどんと俺は追い詰められて行き、思わず譲の頭を両手で掴み、股間から唇を引き剥がそうとするが、譲は両手で俺の両手を封印し、唇だけは俺のペニスから離れずに、上から下へ、前から後ろへと舐め上げ、俺の亀頭の部分を含み、そこだけに刺激を与えて、最後には亀頭の割れ目に舌を這わせて来る… 「……ゆ……譲……もう駄目だ…イ…クッ!イク!!離してくれ!!」と懇願すると譲は益々又、何度も何度も強く上下に俺のペニスを吸い上げ、とうとう俺は譲の口中に精を解き放ってしまった。    ハアハアと息を吐きながら「吐き出せ!」と譲に言うと、奴はベッと舌を出して見せ「全部飲んだ。」と言う… 「馬…鹿野…郎…」と言い掛けて居る間に譲は俺の身体に僅かばかり絡み付いて居たバスローブを全て剥ぎ取ると、 自分も部屋着を全て脱ぎ捨てて、一矢纏わぬ見事な裸体を俺の前に晒す。  俺よりも背の高い男の一切の無駄の無い見事に均整の取れた肢体を、俺はまともに見る事が出来ずに思わず目を背ける。 「た…頼む…灯りを消してくれ。」と頼むと譲は俺の要求通りに灯りは全て消してくれたが、その代わりと計りにブラインドを全て開け放つ…  月の光に照らされて、譲の見事な肢体が浮かび上がる。 そのペニスは完全に猛々しく屹立して居る…  思わず俺の喉がヒュッ!と可笑しな音を立てる。 譲は再び俺にのし掛かって来ると、自分のペニスに俺の手を導き、直に触らせる。 「理…分かるか?お前だから俺はこんな風になってるんだ。」と言う。  俺の掌の中で譲の見事に屹立した物はドク!ドク!と脈打って居る… 「…あ……」と思わず俺が声を出すと 「もう、俺の我慢も限界……初めてで辛いかも知れないが、出来る限り優しくする。」と言うとベッドサイドのテーブルから何やら液体の入ったボトルを取り出し、ボトルの中の液体を自分の掌に取り出すと、躊躇いも無く、俺の後孔にズブズブと指を入れて来る。  「!!……」身体の中に異物が入って来る初めての感覚に俺は思わず両脚でベッドを蹴って、上へと摺り上がって逃げようとする。 「理……逃げないで。」と耳元で囁かれるが(そんなの無理だろうが!!)と思い、尚も遠慮無く侵入して来る長い指に俺の身体がそれから逃れ様と更に摺り上がって行き、頭がベッドのヘッドボードにぶち当たる。  もう、これ以上逃げられない… 両肩を押されて下へと摺り下げられ、今度は俺が逃げられない様に片方の肩を強い力で押さえられ、もう片方の手は再び俺の中へ…  何度も指で押し広げられ、出し入れを繰り返され、俺の唇からまるで俺の声じゃ無い様な「あぁ…」「ぅうっ…」と言う声が漏れ出て来る。  次第に侵入して来る指の本数が増やされる。  浅く、深く、何度も何度も擦り上げられる… 俺は漏れ出る自分の声が嫌で、それを出すまいと必死に堪える。  どれ位の時間が経っただろうか… 深く溜め息を吐くと譲がゆっくりと上体を起こした。 ベッドサイドのテーブルからゴムを取り出すと完全に屹立して、まるで凶器と化した自分のペニスにクルクルと器用にそれを嵌め、そして俺の両脚を自分の両肩の上へ軽々と持ち上げる…  俺の股間が全て無防備な状態になって居るのは自分でも良く分かった。  そして俺のペニスからは刺激を与え続けられた事によって透明な先走りがダラダラと滴り落ちて居る…  恥ずかしかったし、恐怖も有った… 「理……充分に慣らしたつもりだ…それでも痛かったら、どうしても止めて欲しかったら、何でも良い。俺に分かる様に合図をくれ。」  月明かりに照らされた譲の顔が上気して居るのが分かる…  譲は俺の後孔に炎の様に熱い切先を押し当てた。  俺の身体がビクッッ!!とそれに反応する…  …グググ……と譲が前のめりに身体を推し進めて来る… 先端の熱い切先が俺の抵抗を掻き分けて少しずつ俺の中へと侵入して来るのが分かる…  灼熱の熱い棒が俺の内部を焼き乍ら前へ前へと押し進んで来る… 「……!………!!」俺は言葉にならない…  本来、そんな物を受け入れる様に出来て居ない箇所が悲鳴を上げて居る…  俺の譲を受け入れて居る部分が多少の抵抗を試みて居ても、彼の侵入を完全に拒み切れないで居る。  少しずつ、ゆっくりと、確実に…  譲の灼熱の棒は俺の中を蹂躙して行く… 彼の物はズッシリと重量感が有り、胎内の圧迫感は半端じゃ無い…  (痛い…!どう考えても痛い…俺は女じゃない…なのに女みたいに男に組み敷かれて、女みたいに男の硬い物で刺し貫かれようとしている…)  この苦しい状況で今更乍らそんな事を考え「……剣城……譲……もう…もう駄目だ…離せ、抜いてくれ……」と言うのと同時にズブン!!と完全に譲の灼熱の棒に貫かれ、俺の胎内に今や凶器と化した譲のペニスが全て収まったのが分かった。 「!!!!」衝撃に思わず俺はまるで声にならない叫び声を上げ、仰け反りながらヘッドボードに再び頭をぶつける。  譲は俺の手を導いて己のペニスが俺の後孔を押し拡げて俺が彼を全て受け入れて居る箇所を触らせ 「分かるか?俺が全部理の中に収まって居るのを…」と、まるでわざと俺を恥ずかしがらせ様として居るかの様に言葉で責めて来る…  俺は燃え盛る灼熱の棒を受け入れて居るだけで精一杯で (今、譲に少しでも動かれ様物なら…)と思うと冷や汗が出て来る。 「た……頼む……少しだけこのまま動かないでくれ…」と懇願する……が、 「理、このまま動かないで居ても辛いのは同じだ…少しでも気持ち良くなる様にするから……」と言うと、ゆるゆると俺の胎内で熱い物が動き出す。 「!!」俺は思わず譲の首根っこに両腕を回してしがみ付く。  (痛い……痛い……)俺が余りにも強くしがみ付くからか、 譲は「理、いきなり強く奥まで突いたりしないから…それだとただ、痛いだけだからな……少し身体の力を抜いて、リラックスしてみて…」と言われて、俺は思わず(こいつは…人の気も知らないでそんな無理難題を!痛くて縮こまってる身体がそんな急にリラックスなんて出来るか!!)と思って居ると、一旦、譲の完全に屹立した物がズルッ!と俺の中から引き抜かれる…  その感覚に痛みで萎え掛けて居た俺のペニスが急にムクムクと再び起き上がって来る。  譲の手が俺の方に伸びて来た……  左腕の剣に蛇が巻き付いて居るタトゥーが目に入った瞬間、それが腹を刺された時の犯人の持って居た包丁の様に感じられ、一瞬、ビクッ!となる……  勘の良い譲は直ぐに気付いて「どうした?」と尋ね、 タトゥーに怯えたと気付いたのか、 「理…大丈夫。これは理に悪さなんかしないから…」と言って自分の右手で左手のタトゥーを摩る。  (もう…もう充分に悪さしてる気がするんだが…)と思って居ると、譲は俺の身体の向きを軽々と変えさせ、俺は四つん這いにさせられる。  こんな格好はまるで獣の交尾と同じだ!! 「嫌だ!!」と言うよりも早く、譲が俺の後孔に再び熱い切先をピタッ!と押し当てると、灼熱の棒が遠慮無く俺の中に再び侵入して来る… 「この体制の方がもしかしたら楽かもしれない…」 根元迄深く譲の完全に屹立したペニスが俺の中に差し込まれた。  直ぐにユルユルとゆっくり抽送を繰り返し始める。 「…ぅうっ……あ……」四つん這いにされてる身体が押されたり引かれたりするのに合わせて前後に揺れる…  ベッドが2人の動きに合わせてギシギシと音を立てる… 俺の両手はシーツをギュッと関節が白くなる迄握りしめて居る…  深く、浅く、強く、弱く……譲は片手で俺の腰を支え、 もう片方の手は前からだらし無く先走りを垂らして居る俺のペニスをキツく掴み、扱き出す。  前と後ろ、両方を同時に攻められて、まるでスパークした様に頭の中が真っ白に成る。  前をキツく扱かれて居る所為なのか、熱い肉棒で突き貫かれて居る後孔に、痛みだけじゃ無い何とも形容し難い感覚がうずうずと腹の奥底から湧き上がって来る… 俺の口からは俺が発して居るとも思えない「ぅあぁあ……」 とか「うぅぁ……うっ……」と言う呻き声とも喘ぎ声とも言えない声が自然と漏れ出てしまう…  女じゃ無いのに後孔を男に貫かれ、犯され、なす術も無くあられも無い喘ぎ声を発して居るなんて、絶対に嫌だ…  思わず声を漏らしたく無くて、自分の腕に噛み付く。 ギリギリと噛み付いて少し血が滲んで来た頃、譲がそれに気付き、噛み付いて居る俺の腕を口から引き剥がしに掛かる。 「理……恥ずかしがらないで。今、理の声を聞いて居るのは俺だけ…俺だけなんだ。」と言うと両手で俺の腰をガッシリと掴み、抽送の勢いを段々と早めて行く。  熱い肉棒の切先を先端迄引き抜かれ、完全にそれが離れない内に又、勢い良く根元迄押し込まれる。  次第にその動きが規則正しいリズミカルな律動へと変わって行く…  ベッドは益々激しくギシギシと鳴いて居る。  激しい律動に俺はどんどんと昇り詰めて行き、やがて 「ああぁっっ!!」遂に耐えきれず、俺は己の欲を解き放つ…ビュルッ!と勢い良く俺のペニスから飛び出した白濁した精子がシーツを汚す…  俺が欲を吐き出した事に譲は気付いて居る… ハアハアと息を吐きながら「待ってくれ。」と懇願するが、譲は更に激しく俺を刺し貫こうと勢い良く腰を突き上げ、俺は声にならない悲鳴を上げる。  やがて突かれる度に俺の腰もいつの間にか譲の動きに合わせる様にゆるゆると動き出して居るのが自分でも分かった…  あれだけ感じて居た痛みもいつの間にか薄れて行き、何とも形容し難い感覚になって居る…  要するに俺は譲に刺し貫かれて気持ちが良いのだ… 男の俺が、男の灼熱の肉棒に胎の内部を焼かれて…抱かれて…感じ始めて居る…  認めたく無い事だが、明らかな事実だった… いつの間にか俺のペニスは再び完全に勃ち上がり、先端からダラダラと吐精して居る。  それを譲が扱くグチャグチャと言う音が室内に響く。 段々と抜き刺しのスピードが激しさを増して行き、 パン!パン!と俺の尻に譲の腰が打ち付けられる音が室内に響き渡る…  そして、譲の灼熱の肉棒を胎内に受け入れたまま、グイッ!と強引に体勢を再び変えられる。 その動きに又深く身体を抉られ、俺は思わず「うぅっ」と呻く。  半ば横向きにされ、片脚だけ譲の肩に担ぎ上げられ、所謂松葉崩しの形に成り、譲に前傾姿勢を取られ、ググッ!と更に固い肉棒を胎内の奥深くに突き入れられる。  グリッ!!と譲の切先が当たるとビクッ!となる箇所が有る。  俺が身体をビクビク震わせると譲が「理の良い場所を見つけた…」と荒い息を吐き乍らも嬉しそうに言う。  俺はもう…頭が沸騰しそうで譲のそんな言葉は耳に入って来ない…何も考えられなくなって居る…  何度も何度も奥を穿たれ、「ああぁーっ!!」と言う嬌声と共に勢い良く己の精を迸らせる。  譲の俺を穿つスピードが更に激しさを増して行き、 「うぅっ!!」と呻くと遂に譲は俺の中に精を解き放った… グッ!グッ!と何度も強く腰を俺の後孔に押し当て乍ら ドクッ!ドクッ!と譲が俺の中に精を吐き出して居るのが薄いゴム越しにも分かる…  漸く全ての精を吐き出し終えると、譲はドサッ!!と 俺の上に倒れ込んで来た…    そのまま2人、ハアハアと荒い息を吐き続ける。  譲は未だ俺の胎内に居る。 ハアハアと動く度に胎内を深く抉って居る譲の肉棒も動き、それが又、俺に刺激を与えて来る… 漸く2人、息が整うと譲がズ…ルッ……と俺の中からペニスをゆっくりと引き抜いた。  俺の胎内に差し込まれて居た熱い塊が抜け出て行く感覚に思わず「ううっ…」と呻いてしまう。  ギュッと目を閉じて居ると譲が「理…理…」と呼び掛け、俺の身体を自分の方に引き寄せ、口付けを求めて来る。 その求めに応じて俺は彼の口付けを受ける… お互いに舌を絡ませ合って何度も何度も口付けを繰り返す。    充分に満足したのか、譲は唇を離し「ふふふ…」と笑う。 「お互いドロドロになっちゃったな……一緒にシャワーを浴びよう。」と言ってベッドから降りて行くので、俺も後に続こうとしたが、ガクンッ!!と腰が砕けて上手く立ち上がれない…  それに気付いた譲がヒョイ!と俺を肩に担ぎ上げる。 「ば!馬鹿!!俺は女じゃ無いんだ!下ろせ!」と一応訴えてみるが「下ろした所でまともに歩けないだろ?落としちまうから、大人しく俺に運ばれろ。」と言うので、譲の肩に担ぎ上げられ乍ら「た…煙草…煙草が吸いたい。」  …と言うと「ベランダと換気扇の下、どっちが良いんだ?」と聞いて来る。  (お互い素っ裸で3月とは言え外には未だ雪も残ってるのに、ベランダは無いだろうよ。)と思い 「換気扇の下。」と答えると、譲は換気扇の下迄俺を運ぶとソッと俺を下ろして壁に寄り掛かる様にして立たせ 「俺の煙草で良いか?」と聞いて来るので 「いや…俺の。コートのポケットに俺の煙草とライター入ってるから、取って来てくれ。」と頼むとペタペタと歩いて行き、俺のコートから煙草とパチ屋のライターを取って戻って来てくれた。 「有り難う。」と一応、礼を言って煙草を1本取り出し、 譲が勧めて来る高そうなライターを断って自分のパチ屋のライターで火を点ける。    思い切り吸い込んで「ふぅ〜……」と煙を吐き出すのを譲が横で眺めて居るので「吸うか?」と1本差し出すと 「ん……貰う。」と1本受け取ったのに、俺の煙草の火を移してやる。  クスクスと譲が笑うので「?」と思って居ると「シガーキス♡…そして安いライターの味がする…」と憎まれ口を叩いて来るので「直ぐに何処かに無くすんだから、100均のかパチ屋のライターで充分なんだよ!大体、ライターの良し悪しで煙草の味が変わるか!」と未だカクカク震える脚で立ち乍らも反論する。  お互いに一服し終えると「そろそろシャワー浴びるか…また担いで行くか?それともお姫様抱っこでもするか?」とニヤニヤし乍ら聞いて来るのでドン!と譲を押し退け「自分で歩ける!」と本当はズキズキする尻を押さえたい所だが、痩せ我慢して…でも歩きにくそうなのに気付かれるのは嫌なので譲の後に付いて風呂場へ…  風呂に入ると頭から暖かい湯を浴びせ掛けられ、俺は譲にまたしても捕まり、まるで犬か猫の様に身体中を洗われる。  勿論、ペニスや後孔もだ…  (ついさっきしたばかりなのに…) 彼に触れられて、俺のペニスが又、半分勃ち上がって来て居る。  譲はそれに気付いて躊躇なく俺のペニスを口に含んだ。 「!お…い…もう良い!止めろ、離せ!」シャワーを頭から浴びながら俺のペニスに刺激を与えて居る譲の髪を掴んで、引き剥がそうと無駄な抵抗を試みる。  彼の指が再び俺の後孔に差し込まれ、思わず「うぅっ…」 と呻き乍ら「……お前まさかまたやろうとしてないよな? 身体洗いに来たんだろ?もう今夜は無理だ。止めてくれ。」と懇願してみる。  すると譲は「さっきしたばかりで、未だ此処が柔らかい…だから、一寸だけ…」と俺の耳元に熱い息を吹きかけ乍ら立ったまま、俺を浴室の壁際にドン!と押し付け、片脚を持ち上げて自分の肘に掛け、俺に受け入れる態勢を取らせる。    俺のそこはさっき迄の行為で悲鳴を上げて居るのだ… 一方、譲のペニスは完全に屹立して居る…俺はそれから目を背け乍ら「嫌だ、無理だ、止め……お前、ゴムもしてないだろう?」と必死に訴える。 「直ぐに掻き出せば大丈夫。後始末は全て俺がしてやる。だから、じっとして…」と言うとグッ!…と再び今度は生で俺の中に侵入して来た。  立ったまま、片脚を上げさせられ、床に踏ん張って居るもう片方の脚もガクガクと震える…  さっき迄、散々蹂躙されて居た箇所はいとも簡単に譲を飲み込んで行く。  パン!!と激しくひと突きされ、痛みと、信じられない事に快感が脳天迄突き抜け「ああっ!!」と思わず叫んでしまう。    ふと、そんな俺の様子を見て居る譲と目が合って、胎内深くに譲を受け入れたまま深く口付けされる。  その間も彼は俺を貫き続け、口を塞がれて居るのでフッフッと息だけが漏れる。 やがて唇を離した譲は「キスが煙草の味だな…」…とニヤッ…と笑うとピストン運動を加速させて行く。  苦しい乍らも薄目を開けて譲を見ると、髪をざんばらにし乍ら今迄見た事も無い様な上気した真剣な顔で俺の事を貫いて居る…  片脚で立って居られなくなり、ガクン!と膝が折れると、譲は俺のもう片方の脚も自分の肘に掛け、俺は背中を浴室の壁に押し付けられ、両脚は譲の両肘に掛けられて完全に身体が宙に浮き、繋がって居る箇所に入って居る譲のペニスが俺の体重でより胎内深くに刺さって言葉を発する事も出来ない……  (コイツの何処にこんな力が有るんだ…?)  宙に浮いた身体を穿たれ乍ら考える余裕が有るのもその時迄だった…    その後はもう脳天まで貫く快感に頭がスパークし、何も考えられないまま、譲に身体を貪り尽くされ、やがて昇り詰めた譲が「うっ!!」と呻くと俺の胎内に勢い良く精が解き放たれたのが今度は直に感じられた… 再びドク!ドク!と胎内の譲が脈打ち乍ら吐精して居る… ググッと最後に腰を押し付けられると、譲が俺の身体からズルリ…とペニスを引き抜き、そのままソッと床に降ろされた…  ド……ロ……っとたった今、俺の中に吐き出された譲の精が俺の内股を伝い乍ら滴り落ちて行く…  それには、俺の血が混じって居る…  ハアハアと息を吐き乍らその滴り落ちる感覚に思わず身震いする。  譲も呼吸が荒いが、直ぐ様シャワーを出し、躊躇せずに俺の後孔に指を突っ込んで中に吐き出した物を掻き出そうとする。 「い…良い!自分でやる!!」訴えるが譲は止めない。 恥ずかしくて、自分で洗うと拒否して訴えたが「今更? 俺は理の全てを見たんだよ?」と言われ、仕方なく大人しくされるがままに…  中の物を全て掻き出された後は、まるで犬の様に全身綺麗に洗われ、湯を張ったバスタブに浸からされ、その間に譲は自分も身体を洗って俺の入って居るバスタブにザブン!と入って来る。  勢い良く湯が溢れ出し、思わず「勿体無ぇ…俺はもう出るから…」と立ち上がり掛けたのを腕を引っ張られ、譲の両脚の間にストン!と座る形に…  そのままグイッ!と顔だけ譲の方を向かされると、また唇が近付いて来て、深く口付けられる。  悪戯な舌が俺の唇をこじ開け、中に侵入し、俺の舌を見付けると早速に絡め取って来る…  長い長い口付け……一体何分口付け合っただろう…… 譲は充分に満足したのか、やがて唇を離し、2人、風呂から上がり、渡されたタオルで身体を拭き、清潔な部屋着に着替えて再びベッドルームへ…  サッと譲は汚れたシーツを剥ぎ取り、部屋を出ていくと、キチンと畳まれた真新しいシーツを持って来て、手際良く敷き替え、横になると少し身体をずらして俺の寝るスペースを開けてくれる。  手招きされ、大人しく譲の隣へ…  枕は幾つも有ったが、俺は譲に腕枕をされ、スッポリと彼の腕の中に収められる「今夜は疲れただろう?ゆっくりお眠り。」と言われ、抱き留められて居る俺の耳が譲の胸に当たり、トクン……トクン……と譲の穏やかな心臓の鼓動が聴こえ、それを聞いて居る間に俺は深い眠りの中へと落ちて行った…  どれ位眠ったのだろう……  ブラインドの隙間から差し込む陽光の中でふ…と目を覚ます。  ふと、傍らを見る……スースーと寝息を立てて譲が眠って居る。  彼を起こさない様にソッ…と俺を抱き寄せて居る腕を退かせ、半身だけ起き上がる。  身体の奥には少しだけ鈍い痛みが残って居るが、何故だか気分は悪く無い…  (俺は昨日迄の俺と何処か変わってしまっただろうか…)  ブラインドの隙間から差し込む陽光を見乍ら考える…  …いや、何も変わっては居ない……  ただ、新しい何かが始まっただけ……… 1293f75b-a97b-463f-bb3b-fda564dc177b 5bfe97a4-6d49-466c-9b5e-127b611d5347 bcad9d7a-dc55-43f9-9b5b-0ae0d632d363 800b9644-9292-42c5-abff-4af76069c323 a7334891-562c-44bc-a90d-7cec7754ff39
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