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序幕——聖なる海の稚児灌頂
狐よ、狐。人に魅せられ、人になりたいと願ったかわいい狐。お前をいっとう美しく作ろうな。この海のありったけの美しいもので、お前を彩ろうな。
陽の光を遊ばせる青い水で、きらきら潤む瞳を。風にさらわれる白い砂で、天女の織った絹のような肌を。
月夜のさやかな光で、銀をまぶしたがごとく輝る髪を。胸の疼くほど甘い色の桜貝は、愛らしい唇としような。
狐よ、狐。人になりたいと願った、いたいけな狐。いま、清らかなる水にて灌頂を受け、観音の写し身となりし子よ。
その若い胸を灼く想いを遂げるため、力の限り走るがよい。久遠の道行きに苦しむあの男を、誰にも顧みられぬあの娘らを、千代に八千代に救っておあげ。
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