第3話 害悪、アイドルと金について語る

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第3話 害悪、アイドルと金について語る

 異世界転移、予想で頭に浮かべた漢字に嫌な予感がし、酷い動悸がする。 「なんですか、それは」 「あんたが知ってる地球とは、別の世界。異なる世界よ。理屈は考えても無駄、飲み込んだほうが利口よ」 「でもっ、ヤスミンさんは日本って、タクティスも、知ってましたよね!?」  混乱する莉緒は、望みを掴もうとヤスミンに尋ねる。しかし、その望みは軽く蹴散らされる。 「だって、タクティスは私が転生前に推していた日本のアイドル。そして、歌舞伎で同担に刺されたせいで死んだから、ある意味死因でもあるわ」  ヤスミンはケラケラと笑いながら、さらりと恐ろしい事を話す。同担、彼女と同じく雅さんのファンに刺された。  刺されるって、何をやったんだ、この人。そして、死んだってことは今のヤスミンは何なのか。考えれば考えるほど身体から血の気が引いていく。 「や、ヤスミンさんは……一体、な、何者っ、なんですか」 「私? えーっとあっちの世界の……ラ、ラノ……なんだかの紙ペラオタク的に異世界転生者って言うそうよ」  莉緒が異世界転移者なら、ヤスミンは異世界転生者。転生ということは、生まれ変わりということなのだろう。そんな言葉を、莉緒は初めて聞いた。  理解不能なことだらけで、莉緒は混乱し呼吸が乱れ始める。それを前にしても、ヤスミンの表情は少しも変わらない。 「で、今、私、さいきょーのアイドルプロデューサーなの」 「え?」 「莉緒さんも見てたじゃない、あの朝のお迎え」  朝のお迎え。頭の中で思い浮かんだのは、 莉緒が入待ちと称したあの光景。 「ささっ、さっきの、イケメンパレード?」 「全員私がプロデュースしてる子達。あ、勿論あのイベントもね」 「え、なんで……」  この人は、さっきアイドルが原因で死んだと言っていたのに。しかし、ヤスミンは頬を紅潮させながら、満面の笑みを浮かべた。 「だって、私、アイドルヲタクだから。アイドル居ないなんて耐えられないもの」  それは随分とシンプルな答えであった。 「アイドルを応援することが、生きる意味。で、この世界にアイドルいないなら作るだけよ。私の望む最高のアイドルたちをね。 あと、金にもなるしね」 「お金に?」 「儲かってるわよ。この世界(・・・・)でアイドル商売やる私、かしこーい。趣味と実益兼ね備えすぎよね」  怪訝そうな莉緒に、ヤスミンは片口をぐいっと持ち上げる。顔からその金の匂いが溢れてきそうなくらいに、いやらしい笑い方だ。 「じゃあ、莉緒ちゃんも見学する? うちの、ライブハウス。この屋敷から地下繋がってるからすぐ行けるよ」 「え、ちょ……」 「大丈夫、箱推し茶の間な子でも相当楽しめるからさ」 「で、でも……」  戸惑い動けない莉緒を余所に、ヤスミンはスタスタと部屋の扉に歩き始める。あまりにも迷いない歩みだ。ただ、いつまでもついてくる気配のない莉緒に気づいたのだろう。  ヤスミンはゆっくりと振り返った。 「ほら、行きましょう?」  ヤスミンの酷く冷えた視線。やばい、と本能で感じた莉緒は慌てて立ち上がり、ヤスミンの元へと駆け寄った。 「莉緒さん、こういう理不尽な目にあった時は、イケメンだらけのライブで脳内ぶっ飛ばさなきゃ」  にこにこ笑うヤスミンに、莉緒なんとも言えない引きつった笑みを浮かべた。  ーーーーーー  地下通路から先程見た美しい洋館の中へと移動する。そして、いくつかある大きな扉の中に一つに入る。  そこにはまさにライブハウスだった。 「とりあえず、上手側の……赤のところから入ろうか。ルビーレッド、うちの人気No.1よ」  すでに会場内満杯。なによりも、吹き飛ばされるかと思うほど鳴り響くロックソング。  ワイルドな格好をしたイケメンたちが、ステージでは踊りながら歌っている。その後ろでは、バンドが生演奏をしている。 「もっともっといけるよなあああ!!」  特にセンターでシャウトをカマしてる赤髪茶褐色肌の男の筋肉が眩しい。ワイルドで俺様な面持ちで、殆ど布をまとってない衣装を着こなしていた。 「わぁっ」  莉緒は顔を赤らめ、手で顔を覆う。指の隙間から見るのが限界なくらい。えっちであった。 「まあね、ファイドの筋肉はいいわよね。本人も私もめちゃくちゃ管理してるし」 「すごいですね……って、あ」  ファイドと呼ばれた人は、あの入待ちで挨拶をしていた人であった。しかし、それよりも莉緒の視線を奪ったのは、このグループのファンだと思われる令嬢たち。  先程までお淑やかだった令嬢たちが、髪を解き、拳を思いっきり振り上げ、ヘッドバンキングしている。 「あ、あの、あれは」 「さっきも言ったけど、ライブ会場は嫌なこと、全て頭の中からぶっ飛ばす場所よ」 「頭自体ぶっ飛ばしてません?」 「そうね。がんがん振りまくって、頭酸欠で物販来たほうが金落とすからもっと振って欲しいくらいよ」  爛々と話すヤスミンは、更に楽しそうに言葉を続けた。 「まるで、打ち出の小槌(こづち)みたいでしょ」  とんでもない発言に引き笑いした莉緒はヤスミンの方を振り向くと、横目でこちら見ていたのか視線がぶつかった。アイドルとお金という、テレビで見るくらいしかしてない『茶の間』のファンだった歴の浅い莉緒にとって、ヤスミンの言葉はあまりにも生々しかった。 「彼らの養分として、彼女たちが嬉々として振り落としてるの。彼女たちにご飯を食べさせてもらってるのよ、私達」 「アイドルの養分は……ファンの応援じゃないのですか……」 「主成分の話よ、それも必須の」  ヤスミンは、それだけを言うとライブ会場から出ていく。莉緒は慌ててその後ろを追った。  
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