青は藍より

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 小学校のころ、シャーペンはダメ、鉛筆を使いなさい、というルールがあって。  そのルールはどうして決められているのか、生徒も、先生も、お父さんもお母さんも知らなくて。  それに納得できない一部の子たちはすごく怒って、勝手にシャーペンを使ったり、先生に文句をつけにいったりして。  それでも結局ルールが変わることはなくて、シャーペンはダメ、鉛筆でノートをとりなさい、ということになって。  どうしてシャーペンを使いたいんですか? と、先生に聞かれると、みんな答えられなくて。  でもそれって、よくわからないルールに、よくわからないまま反対して、よくわからないまま「ダメ」といわれたものを使いたくなってしまうだけで、じゃあ最初からシャーペンは禁止なんて言わなかったらみんな鉛筆を普通に使ってたんじゃないかな、と思ったりして。  でも、わたしは鉛筆のほうが好きだったから、別にわたしには関係ないや、帰りの会、早く終わらないかな、とか思ってたりして。  クラスメイトの女子の中で3番目に背の高い坂本藍さんは、いつも無口で、クラスの中でもわりと浮いてる感じで、でも誰か藍ちゃんとグループ作ってあげてー、とか言われないくらいのギリギリの感じを生きてる人で、つまりあまり目立たない、地味なタイプで。  月に一度の席替えで、たまたまその子と席が隣になって、「よろしくね」「うん」となんとなく挨拶して、それが初めての会話ってくらいの距離感で。  だから、ある日の授業中、たまたまノートをちらっと覗き見たとき、びっくりした。  赤、オレンジ、ピンク、黄色、黄緑、緑、水色、青、紫、金、銀、茶色に黒に灰色に白。  まるでスケッチブックみたいなノート。  ちゃんとメモや単語が書いてあるのに、遠くから見ると虹色の折り紙みたい。 「なにそれ」  休み時間に聞いてみると、藍ちゃんはにっと笑って、 「鉛筆でちゃんとノートを書いてるだけだよ」  なんて答えたりして。 「色鉛筆?」 「シャーペンはダメ、鉛筆で書け、じゃあ鉛筆は鉛筆でも色鉛筆はオッケーってことでしょ?」 「オッケーかなあ」 「ダメじゃないんだからオッケーなんだよ」 「そこはグレーなんじゃないの」 「おっ、うまい」  何がうまかったのかわからないけど、片方の目だけ細くして、ニッ、て感じで笑うのが、ちょっとカッコいいな、大人っぽいな、と思ったりして。  でもわたしは普通の鉛筆のほうが好きだな、だって色鉛筆って消しゴムで消えにくいんだもんな、とか思ったりして、ずっと意味の分からないルールに従っていて、鉛筆なんか嫌だと言い張り続けるクラスメイトたちと、黙っておとなしく、理由もわからないルールを守り続けるわたしと、かっこ悪いのはどっちなんだろうとか思ったりして。  で、中学生になったら、そういうルールは無くなって、みんな普通にシャーペンを使うし、それで誰にも何も言われないし、でもわたしはなんかシャーペンって握ったとき気持ち悪いな、と思っていたから鉛筆を使い続けていて、それで今度はわたしのほうがクラスの中では変わりものみたいな感じで見られたりして。  休み時間にカッターナイフで鉛筆をといでいると、何してんの、とか声をかけられて、鉛筆といでるんだよ、と答えるとなんか笑われたりして、なんで笑うんだろうと思いつつ気持ちがいいものではなかったりして。  鉛筆をといでいると、時々どうでもいいことを考えることがあって、この間の帰り道に落ちてた傘のこととか、片方だけの手袋とか、文化祭の時に軽音部のステージの上で生徒会長に告白したギターボーカルの先輩はいったいどうなったんだろうとか、そういうすごくどうでもいいけどなぜか脳に焼きついてしまっていることを次々に思い出して、あれなんだったんだろうな、どうしたんだろうな、でも、うーん、最後には結局わたしには関係ないし、考えてもどうにもならないしな、と思って、そのあと、いつも藍ちゃんのことを思い出したりして。  席替えしてもほとんど話さなかったし、中学は別々になっちゃったし、わたしはブレザーだけど向こうは紺のモノクロのセーラー服で、わたしもセーラーが良かったな、藍ちゃんのセーラー似合ってたな、なんでわたしは毎朝少し早起きしてネクタイを結ばないといけないんだろうな、セーラーってそういうのないのかな、とか考えて、でも結局いまさら考えたってどうにもならないし、別に考えなくてもいいか、と思って、 「痛っ、」  と、こうやってどうでもいいことを考えながらぼんやり鉛筆をといでいると、指を切ってしまうのも日常茶飯事で、だからわたしは絆創膏をあちこちに忍ばせていて、筆箱の中に小さなチャック付きのビニールに入れておいた最後の1枚で傷口を巻き覆いながら、何やってるんだろうな、とか憂鬱になったりして、でも自分のせいだし、と思えば別になにも気にすることなんかなかったりして。  それで、そこそこ親切なクラスメイトに、その指どうしたの? と聞かれて、鉛筆といでたら切っちゃった、えっなんで? 鉛筆削りは? って聞かれたから、カッターでといでるって言ったら、なんで? って聞かれて、なんでだろうって思ったりして、でもカッターの方が慣れてるし、楽しいし、別にいいじゃん? って思ったりして。 「あっ、」  それで、高校に進むと、制服がセーラーになって、でもその頃にはセーラー服への憧れとか特になくなっていて、そんな入学式の日にたまたま声をかけられて、 「坂本さん?」 「久しぶり」 「よく、覚えてたね。わたしのこと」 「え? 当たり前でしょ。一回話したじゃん」 「あの一回だけをずっと覚えてるの?」 「私、友だちいないからさ。あんた以外に誰かと話した記憶ないな」  片目だけを細めて、ニッ、と笑う顔は、背が伸びても脚が長くなってもやっぱり藍ちゃんで、変わってなくて、少し驚いて。 「おっ、しかも同じクラスじゃん。ラッキー、友だちがいて。行こうよ」  小学生の頃にたった一回、隣の席になって、たった一回だけおしゃべりしただけの相手を、なんの遠慮もなく友だちと呼べるのは、すごいなあと感心して。  玄関に張り出された名簿を見て、すぐに同じクラスだとわかるということは、わたしの名前もちゃんと覚えているということで、わたしはあなたよことを、そんなに大切な友だちだと、思ってなかったかもしれない、と思うと少し申し訳ない、悪いことをしているような気がして。 「おはよう」 「おはよう、坂本さん」 「まだ、鉛筆使ってるんだ?」  ある日、新しい鉛筆をカッターで切り出していたら、藍ちゃんのほうから声をかけてきたことがあって。 「なんとなく」 「ね、小学校のときのさ、シャーペン禁止っていうルール、あれ、ずっと考えてたんだけどさ」 「ずっと?」 「うん、で、ひらめいたのよ。あれってつまり、制服みたいなものなんじゃないかなーって。みんなが同じで差がないものがひとつはないと、納得できなかった人がいたりするんじゃないかなーってさ、うちの学校はセーラー服だけど、ひとりだけブレザーで登校してたらズルいじゃん? そんな感じ」 「シャーペンって、ブレザーなんだ」  で、わたしは急にそこで思い出して、 「まだ、色鉛筆でノート、とってるの?」 「そんなわけないじゃん」  それはそうだよな、と思ったけど、 「あのノートが好きだったんだよね、ちらっとしか見てなかったけど、いろんな色があって、でも内容がきっちりまとまってて、なんか、そうだなぁ、うーん、きっちり着てるのに、スカートだけ、少しだけ短くしてる、そういうセーラー服みたいな」  と、思ってる間に、口にする前に、予鈴が鳴って、藍ちゃんは自分の席に戻っちゃって、うん、我ながらうまいことを考えたな、と思ったりして、忘れないうちにメモを取ろうと思ってノートを取り出したのに、肝心の鉛筆を削り終わってなくて、こんなことならシャーペンも悪くないかもな、と思ったりして。  藍ちゃんは小学校のころとは結構違っていて、背が高いのはそのままだったけど、おとなしくて目立たないというよりはむしろ、いつもクラスの輪の中のどこかにいるような、明るくて、よく喋って、よく笑う、普通の女子高生って感じで、それがイメージとは違っていたから少し驚いて。  むしろわたしのほうが、いつもクラスの輪に入らずに、教室の隅のほうでひとりでぼんやりしているような感じで、あれ? こんなだったっけ、とか思ったりしたけど、カッターで鉛筆をといでいると、まあ別にいいか、鉛筆をとぐのも時間がかかるし、集中したいし、とか思ったりして。  でも、みんながおしゃべりしてる教室の中で、ひとりだけ鉛筆をといでるの、なんかやだな、って思ったりして、わたし痛い子かな、と思ったら、昔カッターで深く切っちゃった左手の傷が少しずきんと痛んだりして、 「私もやっていい?」  藍ちゃんはそう言って向かいの席に座ると、小さなカッターと、一本の色鉛筆を取り出した。  それはほとんど黒みたいな青い色鉛筆だった。 「これだけ持ち歩いてんの。好きな色だから」 「何色?」 「藍色。実は髪も染めてるんだよ、ブルーブラックってやつ、ぱっと見は黒いけど、実はほら、毛先とか、ほら」  と、長い髪をなびかせると、確かに毛先が少しだけ青くなってる気がして、 「それ校則違反じゃないの?」 「知らない。今まで何も言われてないし別にいいんじゃない」 「うん。ごめん」 「なんで謝るの? 変なの」 「他に持ってないの、色鉛筆」 「持ってない。これだけ」 「どういう時に使うの?」 「あいまいな時」 「あいまい?」 「そ、日本だとさ、虹ってあるでしょ、虹の7色ってさ、赤橙黄緑青藍紫でしょ、『藍』だけなんか、半端っていうか、中間色っていうか、そこ入れなくても6色でよくない? とか、緑の前に黄緑でもいいじゃん、とかさ」 「うん」 「アフリカだと虹は2色なんだよ、赤と黒しかないの。他にも5色とか6色とか、いろいろあって、でも藍色ってなんか、そう、あいまいな感じがして好き」 「うん。わたしも」  ほんとうはわたしは、もっとさっぱりした、ピンクとか水色とか、そういうパステルカラーな感じの色が好きだったけど、藍ちゃんの話を聞いて、そうか藍色もいいじゃん、わたしも髪の毛染めてみようかな、でもやり方わからないしな、とか思って、いろいろ考えているうちに、今度ヘアカラーとか教えてよ、と口にする前に、 「できた。いい感じっしょ」  と、机の上のけずり屑をまとめてさっと教室を出ていってしまって、またちゃんとしゃべれなかったな、いやでも、いまの数分だけで、小学校の頃に隣の席だったときよりもずいぶんたくさんしゃべったような気がする、とか、いろいろなことを考えて。  机の上に落ちている2本の長い髪の毛をこっそり手に取って、蛍光灯にすかしてみて、青と黒がグラデーションして、深い深い水の中を覗き込んでいるみたい、洞窟の奥の、なぜか鮮やかに光る水源を、細く切り取ったみたいな糸だと思ったりして、でも友だちの髪の毛を拾ってニヤニヤしているのはいくらなんでも気持ちが悪いな、と思って、そっか、わたしは藍ちゃんと友だちになれたのかな、と、鉛筆をとぐ手が止まって。  友だちってなんだろう。  どうなったら、友だちで、どこまでが友だちじゃなくて、他人?「ただのクラスメイト」なんだろう? とか考えてるうちに休み時間は終わって次の授業が始まって、机の上のけずり屑を慌ててルーズリーフに包んで机の中にしまっておいたら、授業終わりに盛大にぶちまけて、気まずい雰囲気になったけど、藍ちゃんに笑われたおかげで、なんとなく、なんか、いい雰囲気になったりして。  朝の教室でも、  昼の廊下でも、  眠い午後の授業でも、  夕陽の玄関ホールでも、  夜の駅のホームでも、  文化祭の朝早くの体育館でも、  キャンプファイヤーの篝火のそばでも、  体育祭のグラウンドでも、  修学旅行で見た金閣寺の、水面に映った影も。  藍ちゃんの姿を目で追って、何を話そうか、何か話さなきゃ、と思って、ずっと何も口にできないままでいて、いつもわたしはまごまごしていて、そうこうしているうちに、卒業式の日になって。 「桜、はやいねー」  と、校庭に申し訳程度に植えられた桜の木を見て、藍ちゃんはため息をついて、 「はやいって?」 「散るの」 「まだ、咲いてるよ」 「咲いて、すぐ散って、私たちと一緒だね。この制服もあっという間だった、もう着られないなんてなあ」 「そろそろ行かないと、遅れちゃうよ」 「サボろうよ。卒業式なんて」 「え?」 「寝坊しましたーって言ってさ、あとで卒業証書だけもらって、それで帰ろうよ。校長の話とか、最後の校歌とか、そんなのぜーんぶ、放り出してさ、一生に一度の卒業式、サボってさ、海とか見に行こう」 「本気なの?」  ニッ、と、片目を細くして笑う藍ちゃんの顔を見て、しまった、と思って、その一瞬はまるで永遠のようだったけれど、桜は相変わらず散っていて、ブルーブラックの髪の毛が春風にゆれて、かろうじて息を吹き返した木枯らしに巻かれて、くるくると渦になって。 「本気なら、ついていく。一緒に行こう、ふたりで」  って、わたしはそう言いたかったし、 「ねえ、坂本さんのこと、『藍ちゃん』って、呼んでもいい?」 「いま? 卒業式のこのタイミングで?」  って、笑い飛ばして欲しかったのに、 「冗談だよ、行こう」  って、肩をぽんと叩かれて、3年間履いて柔らかくなったローファーで、ふわっと軽やかに歩き出す藍ちゃんがわたしのすぐ隣を通り過ぎて、 「坂本さん、」  って、振り返った時にはもう、そこには誰もいなかった。  連絡先も住所も知らないし、進路もわからないし、知っている友だちはいないし、先生にわざわざ聞くのもなんか違うと思ったし、そうこうしているうちに、わたしは大学生になって、もう制服を着ることもなくなって、鉛筆とかシャーペンとかどうでも良くなって、だって講義のメモもノートもぜんぶパソコンで取るからもう、手で何かを書くってことも無くなって。  このままじゃ、藍ちゃんのことも、いつか忘れてしまいそうだな、嫌だな、と思ったから、わたしは画材屋さんに行って、100本くらい入ってる色鉛筆のセットを買って、その中から、いちばん黒っぽい藍色を見つけて、カッターをとりだして、芯をけずりとがらせていって、それから新品のノートを広げて、藍ちゃんのことを、思い出したことから、思いついたことからどんどん書いていって、最初は何も思いつかなかったけど、そういえばあのときの髪型は、あの時の表情は、あの数学の授業のとき、街中でちらっと姿を見かけたときのセーラー服とか、小学生の頃にクラス替えの自己紹介で何言ってたっけとか、そんな、今まで生きてきて、今初めて思い出すことまでどんどん思い出してきて。  でも、大学が忙しくなって、サークルとか、バイトとか、恋人のこととか、引っ越しとか模様替えとか大掃除とか、そういうのを繰り返していくうちに、あんなにたくさん書いたはずの、何冊も、何十冊も書いたノートが、どこかに消えて失せてしまって失くなってしまって、間違って捨てた? いやそんなはずない、大学のゼミ室とか、バイト先とか、たまたま立ち寄っただけの喫茶店とか、ほうぼうを這々探しても見つからなくって、悔しくて、何かに無性に怒って、泣いて、やけ食いして2kg太ってまた泣いてそれから寝て。  たくさん、たくさん書いたものが、いつの間にか失くなってしまって、ちょっと心に穴が空いたような気になって、そのときは悲しいような気持ちなんだけど、でも、ふとある日朝起きて、また悲しいんだけど、それで2分もしたら、まあ、失くなったものは仕方ないか、また書けばいいや、と思って、机に向かって。  それでも、同じものはもう2度と書けないんだろうな、と思うと、それはそれでまた少し寂しくて、自分で書いたものだからといって、一字一句覚えているわけはないから、そういえばここどうしてたっけ、どう書いてたっけ、「わたし」は漢字だっけひらがなだっけそれとも「あたし」だったかな、とか悩んだりして、でも確かめようがないんだし、その時いいと思った方にしよう、と思って、わたしは「私」と書いて、カッターで鉛筆をといで、書いて書いて消して、書いて消してまた書いて、それでといで、けずって、また書いて、時々泣いて、その時、ふと、また、思い出して、失くしたものは、諦めても、もう失くしてしまったことには変わりないんだな、と思って、少し泣きそうになって、水を飲んで顔を洗って、やっぱり寝よう、と思ってベッドで横になると、枕の下から、ぜったいそんなところに置いてなかったのに、あのときのノートが見つかる、みたいな、そんな感じで、 「あれ? 久しぶり」  と、藍ちゃんは目の前に現れて。 「久しぶり。友だち」 「え、何その挨拶。友だち〜。ふふ」  青かった髪はライトブラウンに染められていて、太陽の補色ですこし青っぽく見えて、毛先がベージュのカーディガンにかかって水飛沫みたいになっていて、そのスカートワンピかわいいね、春コーデってやつ? とか、ちょっとオシャレなことを言ってみようかと思っていたのに、 「会いたかった」  なんて言うから、すっかり、わたしは何を言うのもバカらしくなって、 「そっちが勝手にいなくなったんでしょ」 「いたじゃん。卒業式にもちゃんと。寝てたけど」 「寝てたんじゃん」 「どんなに怒られても、どうせもう卒業するしって思ったら、ついね」 「うん」  街中の喧騒が、嘘のように消えていく。 「時間ある?」 「え?」 「このあと」 「まあ」 「海、行こうよ」 「今から?」 「ダメ?」 「あの時は断ったくせに」 「冗談だったんじゃないの?」 「そうだっけ。そうだったかも」 「行こうよ。海とか、ふたりで」 「いいね」  ニッ、と、片目を細くして笑う藍ちゃんは、卒業式の日も、入学式の日も、はじめて話したあの日も、ずっと変わってなくて、その間にわたしは何本の鉛筆を使い切ったんだろう、使い切る前に失くした鉛筆はどのくらいかな? シャーペンやボールペンや万年筆じゃ、きっとこんなこと、どうとも思わないんだろうけど、でも、わたしはそれでなんかもう全部どうでも良くなって、 「藍ちゃん、連絡先教えてよ」 「えっ?」 「だめ?」 「はじめて、呼んでくれた。下の名前」 「だって、好きなんでしょ、自分の名前」 「それはどうかな」  それでわたしたちはまず連絡先を交換して、街を歩いて、電車に乗って、とにかくとにかく遠くへ、遠くへって思って、並んで座って、何を話すでもなく一緒にいて笑って居眠りしたりして、 「今日、暑くなるって」 「もう夏だね」  とか、それで電車を降りたりして、そうやって過ごす、仕事をさぼった午後とか、なんか、そんな感じ。
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