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ポラリス
これはRenと星の物語
この日Renは雑誌の仕事に来ていた。
女性誌のグラビアコラボして欲しいペアアンケートで、昨年共演した映画で美しすぎる姉弟と評判を呼んだ五十嵐星とRenが選ばれた。
映画の反響で選ばれたのだろうが、この女性誌はグラビアの企画ページの評価が高く、Ren自身は楽しみにしていた。
星との久しぶりの共演も、気持ちを後押ししていた。
一方星は下腹部と腰に広がる痛みを、気付かれないよう必死に堪えていた。
久しぶりに会う『弟』にカッコ悪いとこは見せられないし…と無駄なプライドも発揮されていた。
着物をアレンジした衣装は着付けに時間もかかり、かなりの辛さだ。
ポージングしながら、袖の中で写らない手はグッと白くなるほど力を込めて握っていた。
スタッフは星の我慢には気付くことなく、撮影は休憩に入る。
その途端にRenが耳元で囁く。
「大丈夫ですか?かなり辛そうですけど…」
星は驚くだけで言葉が出ない。
どこでバレたんだろかと不思議でしかない。
「何か飲み物でも持って来ましょうか?」
「…じゃあ、温かいものお願いできる?」
「了解ッス」
すぐに両手に紙コップを持って戻ってくる。
「スープ?とお茶、どっちにします?」
「そのスープのハテナは何?」
「いや、スープだろうけど確信はないっていうか…どっちも飲む?」
「そんなにいらないけど…うーん、スープ貰おうかな。ありがとね」
「丸イス、キツくないッスか?ソファ行きます?」
「この衣装での移動は辛いかな。ソファの方が楽そうだけど」
「りょ」
すぐにRenは編集部スタッフの所へ行って、何か話し始める。
少しして、スタイリストさんとメイクさんが来て星に話しかける。
「星さん、申し訳ないんですがソファに移動してもらってもいいですか?どうしてもRenくんが次のカットをソファで撮りたいって言っちゃって。カメラマンさんも乗り気になっちゃって。本当にすみません」
「あ、いえ。全然大丈夫です」
スタイリストさんとメイクさんの介添で無事にソファに移動し、無駄な力が抜けて少し楽になる。
スープでお腹も温まり、人心地ついた気持ちになれた。
Renが辛さに気付いてくれたことが、痛みの孤独から救ってくれたのかもしれないと星は思った。
「星さん、俺のわがまま聞いてもらって、ほんとにありがとうございます!かわいい弟の頼みと思って、大目に見てください!」
Renが来てスタジオ中に響く声で言う。
何ひとりで悪者やっちゃってるんだか、と星はくすりと笑う。
「もう仕方ないなぁ。かわいい弟だからね、許そうじゃないか」
本心ではないけれど、Renの優しさに応えようとおどけて言う。
そんな星の様子に、こわばっていたスタッフ達の表情も和らぐ。
星は声は出さずに口を動かして『ありがと』とRenに伝えた。
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