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姉は三人で会う場所としてピザのランチセットが評判のお店を指定した。
「そらを呼び出したからって言って、別にこれ話したいとかもないんだけどねー」
ピザ三枚を三人でシェアして食べる。隣に座る成田くんはさすがに緊張しているようだった。ごめん。
「成田くんはそらのどこが好きになったの?」
「お姉ちゃん何それ、嫌味?」
「違う違う、純粋に聞いておこうと」
「えーと……。素を出せることです。必要以上に気を遣ったり緊張したりがないので、自然体で過ごせます。お互い正反対のコトバ持ちっていうのもあるんですけど、そらさん自身の雰囲気も落ち着いてるので」
姉は神妙な面持ちで、とろけたチーズを伸ばしながらピザをかじっている。
「確かに、そらって落ち着いてるよね。私に似てない」
「お姉さんがそうだから、そらさんもこうなったんじゃないですか」
「えー、私反面教師にされたってこと?」
「いやいや、そういうわけじゃなく」
成田くんはあからさまにおろおろしている。自分の姉と自分の彼氏という奇妙な組み合わせが面白く、つい吹き出してした。
「ふふ、ごめん。なんか面白くて」
姉は私を見て「やっぱりそらも自然体」と微笑む。
「昔のそらみたい。言いたいこと言って、笑いたいとき笑って。私が帰省してる間、成田くんもうちに住んじゃいなよ」
「えー……。三人の時間多いのは、普通にお姉ちゃん邪魔かなぁ」
「うわっ、ひど。じゃああれあれ、私も自分の彼氏連れてくる!」
「お姉さんの彼氏さん、どんな人なんですか?」
「んー、そうだなあ。そらと成田くんが、自分の欠けてる部分を補い合えて、自然体でいられる関係性なら」
そこで一呼吸おいた。
「お互いに尊敬しあう関係性でいられる人、かな」
ああ、と成田くんが共感するように息をつく。今成田くんが誰を思い浮かべているかわかってしまって、ちょっと悲しくなった。
「じゃあねー。成田くんも二十歳になったら今度は飲みに行こう!」
夕方からは高校の友達と会うという姉と別れ、ふたりで電車に乗って帰途に着く。私は座席に座っていて、成田くんはその前に立っていた。
「そらさん」
「ん?」
少し身をかがめた成田くんに合わせて、私も前に乗り出す。
「そらさんとお姉さんと三人で話せて、今日は楽しかった。今までよりももっと、そらさんの世界に入れてもらえた気がする」
「本当? よかった。……よかったぁ」
バッグをぎゅっと胸に抱きしめて、背もたれによりかかる。
私と成田くんなら何も問題ない。そう思っていたのに、夏休みの終わりにそれは嵐みたいに来た。
夏の〆に行こうと約束していた遊園地。観覧車の案内をしていたスタッフさんが、パッチリした目で呆けたように成田くんを見た。
「久しぶり」
「うん」
いつか話したAさんが、本物として目の前に現れてしまった。
成田くんの、私の手を繋ぐ力がゆるむ。
今までと違う空気の密度に、背中に身震いが起こる。
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