アナタにお薬。キミにお薬。

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アナタにお薬。キミにお薬。

サルのウキキは、風邪をひいた友達をお見舞いに行きました。 「ミミ―、これを飲むといいぞ」 ウキキが差し出したのは薬草です。 すりつぶせば、風邪などすぐに治ってしまう薬になります。 だけど、顔がしわくちゃになるほど苦い味。 ウサギのミミ―はその薬草を飲むのが苦手でした。 「ありがとう」 ミミ―は短くお礼を言うと、干草のベッドの中にもぐり込んでしまいました。 ミミ―の風邪は一晩寝るとすぐに治ってしまいました。 「苦い薬草を飲まずにすんだわ!」 ミミ―がほっと胸をなでおろしていると、心配な話が耳に入ってきました。 今度は、ウキキが高熱を出して寝こんでしまったというのです。 「ウキキ、熱にはこれがよくきくよ。ちょっぴり飲みこみにくいけどね!」 ミミ―がお見舞いに持っていったのは熱冷ましの果実でした。 ツンとくる独特の香りがあって、すぐにウキキの巣穴の中はひどい匂いになりました。 よく見ると、ミミ―の鼻の穴には木の実が詰められてフタがされています。 「ありがとう」 ウキキは鼻をつまんでお礼を言うと、顔を伏せて寝たフリをしました。 寝たフリをしていたら、ウキキはいつの間にか眠っていました。 ぐっすり寝たら、熱はすっかり下がっていました。 ウキキがほっと安心していると、また鼻にツンとくる香りが……。 「ミミ―、ごめんね。せっかく持ってきてくれたけど」 ウキキはひどい匂いのする果実を巣穴の外へ蹴り出しました。 そしてずーっと離れた場所まで棒に刺して持っていき、穴を掘って埋めました。 「あーしんどい。これじゃ、また熱が出ちゃうよ!」 文句の言葉がつい口から出てしまうウキキでした。 今度はミミ―が木の根っこにつまずいて足をくじいてしまったようです。 知らせを聞いたウキキは、さっそく森に住むフクロウのおばあさんを訪ねました。 「シップを一枚、ボクに分けてくださいな」 フクロウのおばあさんは特製の湿布を一枚、ウキキに渡しました。 目にしみるほど刺激的な匂いがします。 ウキキは湿布をつまみ、できるだけ体から離して運びました。 「フフッ! これはよくきくぞッ」 ウキキの表情はどう見ても、何かをたくらんでいる悪い顔。 ミミ―のくじいた足を治すより、他に目的があるような……。 「ミミ―、このシップの匂いをかいでみて!」 湿布をもらったミミ―は、その匂いをかいで顔をしかめて叫びました。 「くっさー!」 身もだえるミミ―を見て、ウキキはアハハッと笑いました。 ミミ―がくじいた足は、湿布を貼らなくてもその強烈な匂いだけで治りました。 「もうすっかり治ったわッ」 ミミ―はピョンピョンと跳ねて、山へ向かって走り出しました。 また、心配なウワサを聞いたのです。 なんでも、ウキキが見慣れないキノコを食べてお腹をこわしたとか。 「ウキキ、待っててねッ」 ミミ―が手に入れようとしていたのは、山頂の大きな木の幹から出る樹液でした。 お腹をこわした時にきくかどうかは分かりません。 だけど、うっかりなめてしまったクマさんはそれから半年「何を食べても渋い味がした」そうです。 「どんなに甘いハチミツをなめても?」 ミミ―はクマさんの話を聞いて、驚いたことを覚えていました。 「樹液! 樹液!」 ミミ―は祭りでおみこしを担ぐ時のような掛け声をかけて、元気に山道を登っていきました。 その頃、ウキキは痛むお腹をさすりながら、河原へ向かって歩いていました。 「ミミ―が山頂を目指して走っていった」と聞いて、じっとしてはいられなかったのです。 ミミ―が山へ何をしに行ったのかは分かりません。 でも、ウキキにはピンときたのです。 「今度はどんな薬を持ってくるやら……」 考えると、悪い予感しかしませんでした。 それに山には最近、大きなハチの巣ができたというウワサです。 山道を歩くだけで、キツネもタヌキもハチにいっぱい刺されてしまったそうです。 「きっとミミ―もあちこち刺されて、泣きべそをかいて帰ってくるに違いない」 ウキキは河原に着くと、大きな石をめくってカニを探しました。 なるべく大きなカニを見つけて持ち帰ろうと思ったのです。 「でっかいカニのハサミで、ミミ―の耳を挟んであげよう!」 きっと耳を挟まれた痛みで、ハチに刺された方の痛みは忘れることができるはず。 ウキキはそんなアイデアを思いついたのです。 そのアイデアは親切な友達として思いついたのではないようで……。 カニのハサミに耳を挟まれて、飛び上がって痛がるミミ―。 その姿を想像して、ウキキはフフッとほくそ笑みました。 「ハァ、もう歩けない……」 ミミ―の足が止まりました。 思ったより山頂までの道は遠かったのです。 「お腹をこわした時に飲む薬だよ」 そう言ってウキキをだまして、「何を食べても渋い味になる樹液」をゴクッ! それでミミ―は大笑いするはずでした。 だけど……。 「そんなことをして何になるの?」 ミミ―はふと我に返りました。 「わたし、何をやってるんだろう……」 足元を見ると、原っぱや森の中では見たことがない小さな白い花が咲いていました。 「これを持っていってあげよう」 ミミ―はその美しい野花を摘み、大事に持って山を下りはじめました。 一方、大きな重い石をめくり続けてウキキは汗だく。 いつの間にか、こわれたお腹の調子は良くなっていました。 ピチョン! 目の前の川で魚が跳ねました。 カニを探していたウキキですが「ああ、お腹が空いたな」と思いました。 ふと、足元を見ると河原にタンポポの黄色い花。 「あれ、こんな場所に?」 タンポポがミミ―の大好物だったことをウキキは思い出しました。 「これを持っていってあげよう」 ウキキはタンポポをそっと摘み取り、河原をあとにしました。 山から下りてきたミミ―。 河原から帰ってきたウキキ。 それぞれの想いを込めた小さな花が、それぞれの手の中にありました。 もうすぐ林の角を曲がったところで、ミミ―とウキキはバッタリと出会うことになるはずです。 「恥ずかしいな」 「照れくさいな」 だけど、「ちょっとうれしいな」。 お互いにそんな目をして、ニッコリと笑って……。 そして、手にした花を差し出すことでしょう。 (おわり)
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