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プロローグ
その日、おれが図書室なんかに行ったのは、ほんのちょっとの気まぐれと総合の時間のグループへのちょっとした責任感のためだった。
めったにいかない放課後の図書室は、案外人が少なくて、ただでさえ居心地が悪いイメージなのに、ますます居心地が悪い気がして、思わず肩をすくめた。
こんな静かな風景に、自然といられる奴。
そんなことを思ったら、久しぶりに一人の同級生を思い出した。
いつ見ても一人で本を読んでいるか勉強しているか。
別にいじめられてるとか仲間はずれにされている感じもしないけど、誰かとつるんでるところは見たことがない。
「……昔はそんなことなかったのにな。」
思わず小さな声で呟いてしまった。
念のため、図書室をぐるっと見渡してみたけど、そんな偶然あるわけもなく、あいつはいないようだった。
「さっさと帰ってお勉強でもしてんのかな。」
『もっくん。』
恥ずかしそうな笑顔を向けておれのことをそう呼んでついてきていたのは幼稚園の頃まで。
小学校に入ってからはクラスが一緒になることもなくて、たまに見かける程度だった。
話す機会だってほとんどなかった。……別にどうだっていいけど。
なんだって今日に限ってそんなこと思ってんだろう。
さっさと目的の本を見つけて帰ろう。
おれはどこを探していいかもわからないまま、図書室の中をうろうろし始める。
総合の時間はグループで障がいのことを調べることになっていて、おれたちのグループは、車椅子スポーツのことを調べることになっている。
その参考になる本を探しに来たのだ。
それから15分くらいはうろうろしてしまったけれど、車椅子バスケのことを取り上げた本を見つけて貸出の手続をとった。
おれは目的を達成してほっとした気持ちで図書室を出た。
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