プロローグ

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図書室は突き当たりにある。 ドアを開けると、廊下がまっすぐ延びている。 左手は高いところは窓になっていて、壁しかない。右手には部屋が並んでいる。 図書室に一番近いところにあるのが校長室。 校長室の扉は大抵開いている。 通りかかりに横目で見ると、予想通り。 校長が低学年の子たちにじゃれつかれていた。 「こうちょうせんせー! 次は私のこと抱っこしてー。」 そうねだられてニコニコと要望に応じてやっている校長は、やたら背が高い。 今年から新しく来たが、1学期の始業式で初めて見たとき、ぎょっとするほど大きく見えた。 2m超えてんじゃね?  クラスの友達とそんなことを言っていたけど、さすがにそこまでではないらしい。 でもそれに近いくらいの背の高さがあると担任が言っていた。 そして、痩せている。そのせいなのか、手足がやたら長い。 ひょろひょろで力なんかなさそうに見えるのに、低学年の子たちを軽々と二人くらいは抱きあげてしまう。 校長の肩に座ってみる風景は、小さい子たちには魅力なようで、校長室でも校庭でも、校長がいるところには、低学年の子たちがわらわらと集まりがちだ。   前の校長の時なんて、いっつも校長室のドアは閉まっていたし、無愛想だったし、集会の時の話も長くてつまんなかったし、えらい違いだ。 ……ちなみに今の校長の集会での話は、短くてわかりやすくておもしろい。 だから高学年にも校長はウケがいい。 何となく、横目で中を窺いながら通り過ぎる流れで、校長室の扉のすぐ隣に、もう一つある扉に目を止め、思わず立ち止まる。 扉には細長い紙が貼ってあった。 「どんなお話でもききます。話を聞いてもらいたい人は、中へどうぞ。」   なんだか遠慮がちな控えめな字に見えた。   そしてその紙の下には札が下がっていて「今あいてます」と書いてある。   なんだこれ? 今まで、校長室の隣にこんな部屋があるなんて意識したことなかったし、見たことない紙やら札やらがあるし、しかも書いてある内容も謎。 おれは首を傾げながら、好奇心にかられてドアノブを慎重に回した。 静かにドアを引き、隙間から中をのぞき見る。 奥で机に座っている女子が目を見開いておれを見つめる。 「もっくん!」 さっき、頭の中でおれのことをそう呼んでいた小さな女の子は、大きくなった今でもおれのこと、そう呼ぶんだな。 多分、おれも彼女と同じようにびっくりした顔をしているはずなのに、頭の中ではそんな関係のないことを考えていた。 そして自然と、何年ぶりかに声を出して彼女の名前を呼んだ。 「るか。」 
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