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2 旧校舎クラブは秘密がいっぱい?
その日は五時間目まであっという間に過ぎてしまった気がした。
思えば謎につつまれた新しく出来た旧校舎クラブに入れることになったってことが嬉しかったのかもしれない。
これで5年生から放課後は自由な時間が一時間は出来たって訳だ。
教育に厳しい母さんもこのクラブなら勉強になると納得してくれるはずだ。
アンナは良いけど…陽太の目線が正直ずっときつい。
やっぱりこいつ、俺のこと嫌いだろ?
だけど、文句は一度も言ってこない。
こいつは普段、静かなタイプだから怒りも静かなんだ。
「…陽太、俺が何かしたんなら一応謝るからさ、その目線やめてくんねーかな?さっきからずっとそうじゃん。」
「……」
「おい、無視かよ。」
「無視なんてしません。考えてたんです。…何かしたんじゃなくてしいていうなら存在がイラっとする時があるだけですね。」
「はぁ!?存在?そんなのどうしようもねーじゃねーか!」
言うにことかいてこいつ存在がとか訳分かんねーマジで。
秀才の言うことは、いや陽太の言うことは抽象的?って言うのかストレートに言ってくれないからか本当に良く分からない。
「正確には僕の目線なんかじゃなくて気付かなきゃいけない気持ちに気付いていなくて、それを知らない上で仲良くしてることにイラっとしてます。」
「?ますます意味分かんね!」
気付かなきゃいけない気持ち?
知らない上で仲良く?
一応考えてはみたけど、ますます分からなくなった。
「激にぶですね!」
「はぁ!?お前こそ意味不明―っ」
しばらく俺と陽太とのやり取りを大人しく聞いていたアンナは突然くすくすと笑い出す。
「二人何だか仲良いね。」
「「良くない!!」」
意図せずはもってしまった。
「「あ…」」
「ほら、またそろってる。」
またもくすくすと笑うアンナ。
どうやらはもるのがおかしいらしい。
こんな一方的に怒ってる訳分からない奴と仲良いなんて冗談じゃない。
アンナの方こそそれが分からないなんてにぶいんじゃないか?
そうこうしているうちに三人とも旧校舎に着いてしまった。
「…ここが旧校舎か…確かに何かまだ新しい所がある様な…」
俺は見上げて旧校舎を改めて見てみたけどやっぱり違和感がある。
どこがどうっていうか…上手く言い表せないけど…
「新しい所があるってどころじゃないですよ!?これはどういうことですか?全部新品みたいに綺麗過ぎますよ…!」
それだ!陽太の意見なのが何か釈然としないけど。
え?だってこれ旧校舎だよな?何でこんなに綺麗なんだ?
老朽化なんて全然していない。
七十年も経ってるのに?
「棗先生は所々直して新しくしたって言ってたけど、全部綺麗にしたんじゃないの?」
アンナがとんちんかんなことを言い出す。
「そんな訳ねーだろ?大体旧校舎全部新しくしたらそれもう、新校舎と一緒じゃねーか!このとんちんかん!」
思わず大声を出してしまう。
アンナは大声にびっくりして、目はちょっと涙目だ。
あーっもう、すぐ泣く!
するとすかさず陽太が割って入ってきて、かばう体制を取る。
それが何だか無性にイラっときてしまう。
「お前には関係ないだろ!」
思わず陽太の肩のあたりをドンッと押してしまう。
何だこれ…こんなこと、俺するつもりないのに…
自分が自分じゃないみたいだ…
アンナが絡むといつも…いつも。
「痛っ…アンナさんは素直に言ってみただけですよ!火竜君こそいつもアンナさんに怒り過ぎです!カルシウム足りないんじゃないですか?」
陽太の言う通りだ。
俺…いつもアンナの何気ない一言や行動に異常に反応して怒ってる…?
いくらちょっと怒りっぽい性格でもこれは陽太が反論するのも無理ないのかも…
いつからこうなったんだっけ…
初めてあった時は確か…
そこまで考えて急に頭がズキッとした。
いや、ズキッなんてもんじゃない。
ぐわんぐわんと頭が揺れる。
おかしい…五年前のことを考えるともやがかかって思い出せない。
思い出すどころが頭が…痛くて…立ってられない…
「…火竜君?」
おかしいと思ったのか陽太のうかがう様な声が聞こえたけど、そっちに気がいかない。
くらっときて思わず地面に膝をつく。
「かっ火竜!」
今度はアンナが叫ぶ。
ぐらついている俺を支えてくれたのはアンナだった。
前にもこんなことあった様な…?
「…ど、どういうことなんですか?アンナさん…何か知ってるんですか?」
「前にもこんなことがあったの。火竜…多分何かを思い出しそうになったんだと思う。火竜は…ザザザッだから…」
「え?ザザザッって…どういう…」
俺の意識はそこで途切れた。
「……ん?ここは?」
周りを見渡すと外じゃなくて…
次に目が覚めた時にはもう旧校舎の中に入っていた。
横には心配そうなアンナ。
少し離れた所の椅子に陽太と先生が座っていた。
「俺…どうしたんだっけ?」
「火竜ね…えっと貧血で倒れちゃって困ってた所に棗先生が来てくれたから旧校舎の中の保健室でみんなで運んで寝かせたの。…大丈夫?ごめんね。ごめんね火竜…っ」
俺の様子を涙目で心配そうにうかがうアンナに、さっきまで怒ってたことを思い出して少し申し訳なくなる。
自分が悪いみたいに、アンナの碧の瞳からは朝露がこぼれるみたいにポロポロと涙がこぼれていく。
ああ、もう泣くなっての。
…いや、泣かしてるのはいつも俺か。
本当は泣かせたくなんかないのに。
感情が高ぶって上手く出来ない。
「…大丈夫。俺の方こそいつもごめんな?アンナが悪い訳じゃないのに…」
泣いている時は、そうだ、怒るんじゃなくて…
安心させなきゃいけなかったんだな。
後ろをいつも着いてくるんじゃなくて、いつも傍に居てくれてたんだよな。
お前は泣き虫でも、誰の事も想える程優しいから。
それがとても良い事だけど、俺にとっては俺だけにそうじゃないことが寂しい気がするんだよな。
何でか分かんないけど。
アンナの頭の上を安心する様にぽんぽんと触る。
あれ?これもなんか懐かしい…気が?
「…っそんな…私だって悪いよ…だっていつも火竜を救えない…こんな弱虫じゃ…っ」
「おいおい、おおげさだな…貧血で倒れただけなんだろ?俺」
「……実はね、私、火竜にも隠してることがあって…」
「隠してること?」
「…うん、あのね…」
「スト―ップ!」
突然陽太が大声で叫ぶ。
「な、なんだよ。急に大声出して…」
「由々しき事態です!また君は無意識にそんなことをして!」
「はぁ?」
「うう~ん、どう言ったら良いかな…君達二人だけの世界になってた感じ?」
それまで黙って見てくれていた棗先生がようやく口をはさんだ。
んん?二人だけの世界って…
何こっ恥ずかしいこと言ってんの!?
「はぁ!?先生まで何だよ!からかって…」
先生まで言うとは思わなかったから俺まで大声になっちまった。
「いやいや、からかってなんかないよ。ただ、見たまま言っただけ。火竜君、動揺してるのね。アンナちゃんを誰かに取られるって思って…照れ隠しもあったり、嫉妬ってやつかな?だからいつも無意識に怒ったりしちゃうのね」
棗先生がウインクしながらそう言う。
確かにからかう感じじゃなくて…
でも認めたくない様な…
恥ずかしい様な…
え?だって嫉妬って…漫画とかで見たぞ。
あれ、好きな奴とかにやるやつで…
そこまで考えてカーッと体中が熱くなる。
「そ、そんな訳ないじゃん!先生やっぱりからかってるだろ!?」
「からかってないよ~そんなにムキにならなくても大丈夫だよ。みんなに言いふらしたりしないから!」
「そういう問題じゃなくて…っ」
棗先生はいつもにこにこ明るく無邪気だ。
ここで言い訳したって反論したって、のれんに相撲というか…本当に無邪気に言ってるだけだから意味ないな。
あ、そうか…
陽太がいつも俺に対して態度が冷たいのは、アンナが俺といつも一緒に居るからで…
こいつの方が俺に嫉妬してたんじゃないか?
え、じゃあ陽太ってもしかしてアンナが好き…?
クラスメイトや他のクラスの奴とはほとんど話さないし、アンナとは積極的に話しかけに行って、顔を赤らめて楽しそうに話してた。
このクラブだってアンナを真っ先に誘ったし…絶対そうだ。
アンナって一応容姿は物語に出てくる西洋人形みたいだから他のクラスの奴とかにも妙に人気なんだよな。
妙に話しかけられる機会が多くて、何だかうざったくて蹴散らすつもりでイライラしてたってのか俺は?
いやいやないない、アンナだぞ?
母さんに少し似てきた世話焼き過ぎる幼馴染なだけ!
断じてそうじゃない!
棗先生の考えに影響され過ぎだ。
そうだよ、アンナが誰を好きだって、アンナが誰に話しかけられたって俺には関係ないね!
ぶんぶんと頭を振って精神統一していたら…先生が急に心配そうな顔になった。
アンナも。
「火竜君まだ気分悪い?頭痛いの?」
「…いや、大丈夫。そういや頭痛いの何だったんだろ?俺風邪とかひいたこと少ないし、ましてや貧血なんておこしたこと無いのに…」
「…やっぱり」
「は?何だって?アンナ、小さい声で聞こえねーよ」
「う、ううん。何でもない。火竜はもうちょっと気を付けた方が良いかも。特に頭悪くなっちゃったらテストとかの時困るでしょ?」
「はぁ?お前に言われたくねーし。国語、まだ苦手だろ!」
「う…っ」
アンナも図星とでも言うかの様な反応。
アンナは日本人とイギリス人のハーフだから、他の教科はまだついていけても国語は苦戦してるみたいで国語は俺とどっこいどっこいだ。
まぁ、漢字とかが少し苦手であってどちらも点数自体はいつも悪い訳じゃないけど。
「火竜だって国語苦手じゃない。」
べーっと舌を出しながら言うアンナ。
引っ込み思案なアンナの他の奴には見せない態度だ。
「なんだと!?」
「はいはい、その位にして体調が大丈夫なら本題に入っても良いかしら?」
棗先生は不機嫌な陽太の様子もあってか一触即発になる前に俺達のケンカを制した。
「い、良いけど…」
「はい。すみません…」
「じゃあ本題に入るわね。今日からみんなはこの旧校舎クラブのメンバーな訳だけど、旧校舎クラブというのは仮の名です。」
「「「仮の名??」」」
思わず今度は不本意ながら三人ではもってしまった。
仮の名っていうのはどういうことだろう?
だって旧校舎の歴史を学ぶクラブ…じゃなかったか?
それが仮の名なんて…
「じゃあどういう名前なんですか?」
陽太がいつもの様に先生に質問する。
「ええ、仮の名は旧校舎クラブ。要は表向きはそう呼ばれているの。他の児童から怪しまれない為にね。発足されたのも七十年ある歴史の中で前には一度だけ。校長先生の生徒の時の代ね。」
やっぱり校長先生は何かを知ってるんだ。この旧校舎のひみつみたいなものを。
そしておそらく棗先生も。
「正式には…奇譚解明クラブ。奇譚とは不思議な話のこと、解明は解き明かすこと、つまりは不思議な話を解き明かすクラブね。発足された昭和中期の時も先生達や他の児童の目を気にして他の名前に変えていたんですって。あなた達は選ばれたの。」
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