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3 正式名称は奇譚解明クラブ?
棗先生は校長先生から話を聞いたらしかった。
「俺達が選ばれたって…何で?」
「そうですよ!僕達は自分の意思で…」
「選んだって?うん、そうね…興味ある様に仕向けたというか…他の児童には全く響かなかったっておかしいと思わない?あと疑問に思ったこともあったでしょ?」
「あっ旧校舎すごく綺麗だった!」
とアンナ。
「そう、それ。あとは何かあるかな?」
「……旧校舎の上に黒い雲があること?」
「「え?」」
「なっ何だよ?二人して…」
「いや、火竜君にも見えたんですか?あの黒い雲が…」
「え?まさかお前も?」
「え、ええ…まさか他にも見えていた人が居たなんて…」
陽太が汗をかいて驚いた顔をしている。
「じゃあアンナも…」
「うん。火竜も陽太君もだったなんて…」
アンナも驚いている。
俺達三人に共通しているのは、みんなには見えてないものが見えているってこと。
それが奇譚解明クラブに選ばれた理由?
「そう、気付いたみたいね。みんなには見えないものが見えるのは…君達三人には霊感があるってことなのよ。それも特別強い力が。」
「れい…かん?」
聞いたことがある。
テレビや動画で耳にしたことがあるんだ。
偉い霊能者の先生が居てそれが高いと言われていた。
「うん。先生も霊感があるのよ。正確には全ての人類には霊感があるの。だけど、時代が移り変わるうちに人類はそれを忘れていった。見えるはずのものが見えなくなった。それは…新しいものが便利なものが次々と出てきて人類の体はついていけなくなったの。機械も使いこなせるけど、心が満たされていなければ体が疲れてしまうの。いつも日々を満喫していて友達や先生や親とかと仲良く過ごしていること、自分を強く持つこと、体を丈夫に保つ為に栄養バランスを良く感謝して食べること、飲むことを出来ればそういうものの影響は受けないの。」
「俺達は…それが出来ているってこと?」
「そうね。そういうこと。火竜君は口は悪い所はあるけど、自分の中の信念が強くあるがゆえの行動や言動だし本当は熱血で正義感もある。アンナちゃんは両親や友達を大事に出来る優しい心を持っていて誰かをサポートしようとするし、陽太君はその優れた知識で目の前のことを考えて答えを出し、自分の体調管理はもちろん、アンナちゃんの体調も気遣っているのよね。そういう長所が素晴らしいし、それが霊感を強くするということに繋がってるのよ。私もね、いつも楽しんで日々を過ごしてるし、学校のみんなが大好きよ!」
そう言う先生の言葉には確かに嘘は無さそうだ。
そういう先生だから、いつもキラキラして見えるんだろうし、児童達にも好かれるんだろうな…
なるほど、棗先生は純粋に見えても児童を一人一人良く見てるんだ。
いや、純粋な気持ちを忘れないからこそ良く見えるのか。
「いやいや、君納得した様な顔をしてますけど、僕ら要は児童代表で何かを退治とか解決しなきゃいけないってことを任されたんじゃないですか!?」
と陽太が叫んだ。
「え!?マジで?」
「そういう流れでしょうよ…はぁー…その何かっていうのがまだ分かってないのに気楽ですね本当に…」
今度は信じられないっといった感じに頭を抱えている。
「う…っしょうがねーだろ。お前みたいに頭回るの速くないんだよ」
「お?珍しく褒めますね?どういう風の吹き回しですか?」
…確かに褒め言葉に近いか。
それにしても風の吹き回しって…あれ?どういう意味だっけ?
とにかく普段言わないことを言ったから不思議ってことなんだろうな。多分。
「うっせー良いだろ別に。」
「まぁ、一応素直に褒め言葉として受け取っておきますか。」
「う…まぁそういうことにしておいてくれ…」
ふふんと勝ち誇った様な感じででもどこか嬉しそうに陽太は言葉を続ける。
単純に言うと陽太に頭の回転や勉強では勝てない。
けど、それもそれぞれの個性で、陽太には陽太のそういう良さがある様に、自分で言うのもなんだけど俺には運動神経抜群…という武器がある。
アンナも弱虫なんじゃなくて、優しいがゆえの気遣い方なんだってすんなりと納得してしまった。
母さんが厳しくいつも叱ってくれるのだって俺にいつも危ない目にあってほしくないからで親が子を想う真っ当な気持ちなんだ。
いつもイライラしてたのは親やアンナに対してじゃなくて、それが分からない自分に対してだったのかも、なんて…
棗先生の話を聞いて、そう思えたんだ。
ここにきて初めて気付いたんだ。ありがたみに。
「やっぱりほんとは仲良いよね。火竜と陽太君って。前から気が合いそうだなーって思ってたんだけど、話す機会そんなになかったもんね。時々全力でケンカをしてるのもどうでも良い相手には出来ないよ。私、怖いのは苦手だけど、こういう機会があったのは嬉しいなって思うよ。何だか良いよね。友達で協力して何かを成し遂げるのって…」
アンナもこういう所は良く見てる。
アンナは友達がたくさんって訳じゃないけど、分かる人には分かる魅力がある様で女友達と仲良さそうに話したり、相談を受けたりなんかしているのをたまに教室で見かけた。
こいつはうわっつらの部分だけじゃなく、なんていうか真の深い所で理解出来ているみたいな所があるから。
そういう所、……正直うらやましいとも思う。
だって俺陽太みたいに冷静に物事を見たり、アンナみたいに物差しで人を判断しない所あるかって言ったら胸をはって言えないかもしれないから。
「…俺も嬉しい、かも。お前らとクラブが出来て…なんつーか、俺って陽太みたいに冷静じゃないしアンナみたいに優しいかって言われると微妙だし、二人をすごいと思う。俺、いつも突っ走り過ぎて勝手に怒ったりして、今まで悪かったよ。すぐそういうの直せる訳じゃないと思うけど、これからも…その…」
気付けたのは良いけど、あらたまって言うの恥ずかし過ぎ。
だけど、一人で暴走してきたのは確かだから、嫌な気持ちにさせてきたかもしれないから言わないと。
「仲良く…してくれると…嬉しい…デス。」
うわぁ…恥ずい。
猛烈に。
小声になってた絶対。
顔も赤いんだろうなーっとは思うけど…照れてなかなか顔を上げられないでいたけど、思い切って顔を上げるとそこには嬉しそうな二人が居て。
その不安も喜びに変わる。
「もちろん!火竜っ今までの事、しつこいこともしちゃったし私も悪いもの。気にしないで。」
とアンナが笑顔で答えてくれて。
「…やっと言ってくれましたね。謝罪の言葉。まぁ僕もそういうの器用な方ではないので気持ちは分かりますが、こうしてタイプの違う君と組めたのも何かの縁でしょう。こちらこそよろしく。でも、別のことでは負けませんからねっ」
と陽太が先程よりずっと晴れた顔をして答えてくれた。
友達ってなんだろうってずっと思ってた。
学校ではよく友達を大事にしましょうと言われるけど、友達ってどこからがそうなのかよく分かってなかった。
だからクラスメイトのみんなの話題にもどこかついていけなくて…
もどかしくて…
知らないうちに悩んでたのかもな俺。
でも、今分かった気がする。
友達って理屈じゃないんだ。
一緒に居て辛いことも楽しいことも分かち合える…そういう存在なのかもしれないな。
「…ありがとな。二人とも。」
そう言うと二人もどこか照れくさい雰囲気になった。
「火竜の笑顔…ひさしぶりに見たかも。何だかレアだね。」
「え、俺ずっと笑ってなかった?」
「うん。ずっとこーんな顔してしかめっ面してた。」
アンナがわざとらしく目の方をとがらせてびょーんと引っ張る。
「アハハっ似てます似てます。本当にレアですね。あ、カメラあるんで撮(と)りましょうか?」
「お前ら…っ」
こういうふざけてるのも、今なら分かる。
何となく愛があるってことが。
だから自然とむかつかない。
それだけ良く見てくれてたってことなんだよな。
俺達のそういう様子を棗先生は嬉しそうに見ている。
「あ、そうだ記念に撮りましょうか。先生も一緒に。クラブ発足記念になりますし。これ、懐かしいポロライドカメラなんですよ。メンテナンスしてますから今も使えます。」
陽太がカメラを出しながら先生も入ろうとうながす。
「あら、良いんだけどここで写真を撮るとね…その」
「え?先生なんて?」
先生の忠告も聞かず、陽太はポロライドカメラのシャッターを押してしまった。
ジーっという音を立てて写真が出てくる。
母さんから話には聞いていたけどポロライドカメラってこんな感じなんだ。
使い捨てカメラというのもあったと聞いたことがある。
こういうのもデジカメやスマホの写真機能とはまた違って味がある。
そして現像されてきた写真を見て三人とも固まる。
そこにあったのは……青白い人魂と後ろにさっきまで居なかったはずの知らない女の人と巨大な目がうつりこんでいたからだ。
「「「ぎゃーーーーっ!!!???」」」
思わず写真を投げ捨ててしまう。
なん、何だこれ!!?
「霊感がある子が写真を撮るとね、その…うつっちゃうのよ。この世のものではないものが。特にこの旧校舎では。」
先生は言うの遅くなってごめんなさいと謝ってきたけど…
こういう所だったのか?旧校舎って…
と今更多いはずの血の気が引いた。
「先生早く言ってよ!びっくりしたじゃんか!」
「ごめん~そうよね、みんながみんなそういうことに詳しい訳じゃないものね。不注意だったわ。」
「…ってか先生は何でそういうことに詳しいの?」
「そうですね…ネットとかで集めた知識にしては幅がある様な…」
「ああ、私、実家が神社でね…そうだなぁ…今でいうゴーストバスターズっていうか霊能力者っていうか…そういう依頼も受けてたの。兼業は駄目だから教師になる前までだけど。」
「それって陰陽師とか…ですか?それなら本で見たことあります。」
と陽太。
「そうね。陰陽師直系ではないけれど、陰陽師に術や知識を特別に教えてもらった家系なの。」
「それってすごいことでは?本では陰陽師の術は門外不出で誰にも教えていないとか…」
と陽太はらんらんと答えている。
無理も無い、これ結構歴史的瞬間なんじゃないか?って俺も思ったもの。
「ええ、そうね。だから術そのものをみんなに教えてあげることは出来ないけど…代わりにオリジナルの術や知識を教えてあげることは出来るわ。答え合わせの様なものと考えて良いわ。」
「でもそれだけすごいなら先生一人でも何とか出来るんじゃ…」
とアンナ。
うん、オリジナルの術をあみ出せるなら怖いものはないんじゃないかってそう思えるけど…
「そうもいかないの。だって一人じゃ手に負えないのよ。このよろず町、どうして旧家や神社が多いか知ってる?」
「そういう人が移り住んできたからではないですか?」
「それも言えるけど、旧家や神社は結界なの。悪しき者…つまり妖怪や幽霊が出てこられない様に建てられているの。この学校の石碑もそういう目的で作られてるのよ。この町は霊的地場が強いからそういうのが集まってきやすいの。」
「ああ…あの校庭にあるものですか。それに霊的地場…ですか。」
「ええ、火竜君は特に身に覚えがあるわよね?」
そこまで聞いて俺はギクッとしてやっと合点がいった。
俺…もしかしなくても自分でその結界を壊した?あのピシッという音は結界が壊れる音?
だらだらと汗が出てくる。
旧校舎の黒い雲がかかり出したのも不思議なものが見える様になったのも全てあの石碑をかけさせてしまったからで…
「ごっごめん!先生…俺…知らないとはいえなんてことを…っ」
「いいえ、誤解しないで。責めている訳ではないのよ。石碑とはいえ、形あるものはいつか壊れる。それが遅いか早いかだけ。それに他の生徒も関わってたことだし…神社も旧家も手入れされなくなったら同じこと。原因はそれだけじゃなかったから手が足りないの。」
手が足りない?
「大事なのはやり直すこと。強い力を正しいことに使うことよ。力は…使い方を間違えると危険だから。火竜君がいつもやっているゲームみたいに悪役が出てくるわよね?その悪役を正しい方法で解決する…君達は児童代表の勇者に選ばれた、という訳。私は先生代表。だから…一緒にこの町の為に頑張ってほしいの。」
勇者…正しい力…そうだ勇者も使い方を間違えれば、境遇が違えばいつでも悪役側になってしまう位危うい存在かもしれないんだ。
だから大人はルールや約束を作る。
子どもが怪我しない様に、危険なことに巻き込まれない様に。
悪役達はそういうことを教えてもらえなかったのかもしれないな…
「俺…やるよ!俺も一因あるし、この町を守りたい!家族や友達を巻き込む訳にはいかないんだ!」
「よく…言ってくれました。火竜君…君になら、これを任せられる。受け取ってくれますか?」
俺が宣言した後すぐ、校長先生がどこからか姿を現した。
どうやら近くで俺達の様子を見ていたらしい。
緑の色の巻物を渡してきた。
「これは…?」
手に取ると不思議な程軽い。
まるで何も持っていないみたいに。
「これは私達が子どもの頃にこの祭囃子小学校で使っていたもの。妖怪や幽霊を封印出来る代物です。その妖怪や幽霊の特徴を見て、どんな名前か当てるとこの巻物に吸い込まれ封印出来るのです。他にもアイテムがあったのですが…他の団員が持っているはずなんですが年月が経ち、進学や就職でちりじりになってしまって…私でも連絡先が良く分からないのです。でもこのアイテムは役立つと思います。私も本当なら協力したいのですが子どもの頃の様な力はもう無くて…申し訳ない。」
「ううん、十分だぜ!校長先生のその気持ちだけで百人力だよ!」
「嬉しいことを言ってくれますねぇ…リーダーは君かもしれないね。しかし、他の団員はどうされたのですか?姿が見えませんが…」
「え?さっきまでそこに…」
振り返るけど、陽太もアンナの姿もそこには無かった。
え?だって二人とも黙って帰る様な性格ではない…はず。
じゃあ、何かあった?
「棗先生は二人がどこへ行ったか知らない?」
「さっきまで居たのに…急にふっと消えたみたいに…あっこれ、七不思議の一つ、消える児童の怪談にそっくりだわ…!消えた児童は開かずの間に連れて行かれ、4時44分を過ぎると異世界から戻ってこれなくなるという…大変っ急がなきゃ!」
それが本当ならアンナも陽太も異世界に連れてかれそうってことかよ!
再発足早々、一大事だ…!
4時44分まであと十分も無い!
急がないと!
俺は旧校舎の教室を片っ端から探すことにした。
速く、速く、間に合え…っ
俺は生きてきて十年のうちで一番速く、足を動かした。
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