4 初めての七不思議と術

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4 初めての七不思議と術

「棗先生はこっちの方向を頼む!校長先生はそっちを!」 俺は二手に分かれた方が手っ取り早いと考え、先生達にお願いした。 二人ともうなずき、答えてくれる。 「火竜君、巻物の使い方は○○正体見破ったり!ですよ」 校長先生からの説明もうなずいて聞きつつ、俺は俺の方向へ行く。 あと七分、俺の方向の教室はまだ三つもある。 間に合うか… いや、間に合わせてみせる! 足を加速させて、一つ一つの教室を見ていく。 すると、一つだけ不自然な教室があった。 そう、紫のもやが出ている教室が。 ここだ…! 旧校舎の上空の黒い雲と感じるものが一緒だ。 直感なのか霊感が告げているのかそれを感じることが出来た。 扉に手をかけるけど、ガタガタしても開かない。 やっぱり開かずの教室なんだ! ここは…これだ! さっき校長先生からもらった巻物ではなく、今度は棗先生に教えてもらった通りの術で。 (良い?火竜君、このお札を使えるのは一度だけ。君には…先生が見る限り、炎の力が宿っている。これは生まれ持った力…君の、君だけの特別な力。赤く燃え上がる様な魂の色。君の味方だと思って…使わせていただくの。炎の渦よ、ここに降臨されよ、我に力を…!と唱えるの。君なら…絶対出来るって信じてるわ。) 時間はもう、無い。 白い和紙に赤い字で書かれたお札をぎゅっと握りしめ、覚悟を決める。 すうっと息を吐き、 「炎の渦よ、ここに降臨されよ、我に力を…!」 すると見たことも無い鮮やかで強い炎が俺と教室の間に生まれ、ごうごうと燃え上がる。 勢いを増しながらそのまま教室の扉へと向かう炎。 俺の、俺だけの力…! 「いっけえええええ!」 ドオオオオオオオオンッ 唱えた術の呪文より大きな音を立てて教室の扉が壊される。 もくもくと煙がたち、そこに見えたのは… 異世界に飛ばされそうなアンナと陽太。 宇宙空間ってこんな感じなのかという位の見えない引力が働いている。 目も開けているのがやっとだ。 「アンナ!陽太!」 押し寄せる風圧に逆らいながら気絶している二人に手を伸ばす。 先にアンナ、そして陽太の手を掴む。 「やった!」 そう思った後、ふと二人の周りの様子が良く見えた。 ぎょっとした。 異世界と思われる所にはずっと昔に居た様な服装の人達、外国の人達、動物が見えた様な気がした。 …ここに居る人達、みんな巻き込まれたのかずっと昔に… 助けてやりたい、けど…こんなに沢山は無理だ。 それにここから出したら…時の流れが違うから…きっと形を保てないに違いない。 どれが正解なんか分からない。 だけど、みんないつかは報われてほしい。 そう、強く思って… するとその人達が光り輝く。 そして三人ともすっ飛ばされる。 「うわあああっ」 アンナと陽太をかばいながら俺はその光にのまれた。 気が付いた頃には三人とも教室の外に出ていた。 いや、教室どころか旧校舎から飛び出していたみたいだ。 アンナも陽太も俺自身も怪我は…無い。 良かった。 キーンコーンカーンコーン (下校の時刻になりました。校内に残っている生徒は早く家に帰りましょう。) 6年生の下校のアナウンスが流れる。 時計を見ると5時…もう、下校の時間ぴったりだった。 あれは夢? …なんかじゃない。 だってその証拠に俺の服の袖がこげている。 友達を助けれた。 七不思議の一つを…解決出来た…? 先生から教えてもらえた術を緊急事態だったとはいえ発動出来た。 俺…生まれて初めて何かをやり遂げた気がしたんだ。 「そういえば、先生達は!?」 周りをもう一度見渡すと棗先生と校長先生がこっちに向かって走って来た。 「火竜君―っみんな無事―?」 「先生!おう!みんな無事だぜ!」 「良かった…」 先生は走って来たから息を整えながらちらりと巻物を見た。 「術も無事発動出来たみたいね。あとすごかったわよ。さすがリーダー!」 「へへっ」 どこかほこらしい気分だ。 何かをやり遂げるってこんなに気持ちが良いんだな。 「あっそうだ!巻物は…どうなってるかな…あれ?」 巻物の中は真っ白だった。 あれ?確か解決すると巻物の中に吸い込まれるんだったよな? 何も書いてないってことは… 「俺…巻物の方は失敗したのかな…」 さっきまでの高揚感とは違い、しゅんとなる。 「そうですかな?私は成功した風に見えますがね。」 と校長先生。 慰めてくれてるんだろうか… 「でも何も書いてないぜ?」 「さっきの白い光…あれは浄化の力よ。きっと火竜君がみんなを浄化して助けることが出来たのね。ずっとさまよっていた人達を。封印じゃなくて浄化してくれたから巻物には記されてないんじゃないかな?ですよね?校長先生。」 「ええ、そうですとも。その巻物はどちらかといえば言う事を聞けない妖怪や幽霊達を仕方なく封印する代物ですから…記されていないということは火竜君、君は力でねじ伏せるだけでなく、救える力があるということ。さすがですね。」 あのさまよっていた様々な時代の人達が俺の手で救えた? ずっと怖かっただろうに、さっきまで救えなかったことに罪悪感と後悔があった。 それが俺の手で救えたのなら、こんなに嬉しいことは無い。 胸に温かいものが流れてくる。 「…良かった、本当に…っあれ?俺泣くつもりなんてないのに…止まらないや…」 こんなんじゃアンナに泣き虫だなんて言えないな。 もう、言うつもりもないけど。 【翔ちゃんっ俺…出来たよ!あれ?泣くつもりなんてなかったのにおかしいや…】 「…!やはり君は…っ」 「え?何?校長先生?」 「…いいえ、何でも。とても良く出来ました。さぁ明日もまだ学校です。今日はもう休んで明日も元気に学校に来て下さいね。陽太君もアンナさんも火竜君も私の車で順に送っていきましょう。お二人のお家は知っていますか?」 「ああ、分かるよ。校長先生ありがとう。」 「いいえ、こちらこそありがとう。」 「棗先生、じゃあさよならーっ」 「はい、さよなら。術を使って疲れたと思うから果物や野菜を食べて栄養補給してよく休んでね。」 「はい!」 宣言通り校長先生の車で三人ともありがたくも送ってもらえた。 だけど…あの、校長先生の嬉しい様なさびしい様な表情は…何だったんだろう…? ブロローッ 遠くに行く校長先生の車から聞こえたのは… どういう意味だったんだろう? 「やはり君は…翔琉君の生まれ変わりなのかもしれないね。」 って…誰が誰の生まれ変わり…? 疲れがどっときて、それ以上は追及する気も起きなくて… でも、明日アンナ達と会うのがとても楽しみなのは確かで… 俺は今日の達成感でご飯を食べてお風呂に入った後すぐに寝てしまって忘れてしまった。
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