最終決戦。その前に…

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 吹き荒れる風。  見渡す限りの草原。  決戦の日とは思えないほどの美しい満月。  決戦場から少し離れた岩に座る2人の若者。  一人は白銀の長髪に純白の法衣を身にまとった女性。  もう一人は墨色の短髪に漆黒の革鎧を身に付けた男性。  何もかもが対照的な2人だ。 「…火、ある?」  女が男に問いかける。桃色の唇には煙管が咥えられている。男は少しだけ眉をしかめながらマッチを女に放る。 「いい加減、それ止めろよ。健康に良くないんだろ?」  女が煙管に火を点け、深く煙を吸う。口から吐き出される紫煙は、月明りに照らされた女の美しさと相まってどこか幻想的だ。 「今更だよ。それに…コレで最後かもしれないんだから大目に見てくれ。」 「…」  男は視線を女から正面の決戦場に向ける。 「戦い始めてから1年か…。」 「ということは、私たちが出会ってから1年か。その場限りの出会いだと思ったのに、とんだ腐れ縁になったな。」  女も煙管を咥えながら、この1年を思い出すように遠い目で決戦場を見る。  1年前、魔王が現れた。圧倒的な力の前に世界中が絶望した。  そんな中で、神に選ばれた若者は立ち上がった。神から授かった力は魔王に匹敵しており、何度も戦い、何度も引き分けた。  泥沼の戦いに、魔王は嫌気がさしたのだろう。次の満月の夜に全てを終わらせると宣言した。 「クソみたいな運命で出会ったけど、私はあんたと一緒に戦えて楽しかったよ。」 「…」 「おいおい、なに黙ってるんだよ?もしかしてビビっちまったか?」  女は煙管片手にカラカラと笑う。 「…この戦いが終わって、2人とも無事だったら、どこか遠くで一緒に暮らそう。」  男の発した一言に、女の笑いはピタリと止まる。 「…あんた、馬鹿じゃねぇの?戦いの前にそういうこと言うと死ぬんだぞ。」  女の顔から笑みは消え、震える声で言葉を絞り出す。 「知ってる。」 「これまでの戦いを忘れたのかよ。いつもお互いボロボロ。生き残るのがやっとな状態だぞ。」 「知ってる。」 「どう考えたって、今回の戦いで2人とも生き残るのは無理だろ。」 「知ってる。」 「私は覚悟ができている。なのに…なんで今更そんなことを言うんだ!」」  女の目から大粒の涙がこぼれる。男は決戦場から目を逸らさずに言った。 「これは宣戦布告だよ。」 「これから戦う魔王に対してか?」  女は目に涙をためたまま、へッと笑う。 「いや、世界と運命に対してだよ。」 「運命…?」  男は決戦場に目を向けながら、立ち上がる。女はその動きを目で追い、男を見上げる。月明りで逆光になり男がどんな表情をしているのかはわからない。 「多分、今日2人が生き残れないことは出会ったときから決まっていたんだろう。でも、君と戦ううちに、一緒に生きたいと思ってしまった。」  男は女へ顔を向ける。相変わらず月明りの逆光で表情はわからない。しかし、男の目は強い決意で静かに光っていた。 「だから、運命にあらがう。どうにかして2人で生き残ろう。」 「なにか策はあるのか?」 「ない!」 「なんだそれ。聞いて損した。」  男の自信満々の無策っぷりに、女は思わず吹き出してしまう。さっきまでの涙も悲しい覚悟もどこかに行ってしまった。 「だから君の力を貸してほしい。一緒に運命に挑もう。」  男は女に手を伸ばす。 「…あほらしい。」  女は男の手を取る。男は満足げにうなずいて、女に言った。 「さぁ、時間だ。」  吹き荒れる風。  見渡す限りの草原。  その中心へ歩を進める2人。  やがて、2人は草原の中心で向き合う。  月明りに輝く目をまっすぐ見つめ合い、漆黒の勇者と純白の魔王は静かに開戦の合図を告げた。 「「今日で最後だ。世界は…」」 「俺が救う!」 「私が滅ぼす!」
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