40.スパダリ魔王と錬金術師

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「いえ、いつもの悪ふざけですから、大丈夫ですよ。リアムさんも召し上がりますか」 「え、良いんですか」 「はい。たくさん作りましたから」  まだ言い合いを続けるスキラとヒューゴには構わずに、ダリアはリアムのためにお茶を入れると、国と呼ぶには程遠い、けれど人々が身を寄せ合い、暮らしていくために出来上がっていく街並みを眺めると、ダリアの心は晴れやかになっていく。 「ここで暮らす人が豊かになる。そんな街を、国を、みんなで作り上げて行きたいですね」 「ええ、そうですね」 「いつかリアムさんが言っていたこと、手に掴める幸せですが、両手で抱えきれない幸せを手にしたっていいと思うんです」 「ダリアさん」 「一人で欲張るってことじゃなくて、みんなで力を合わせて、みんなが豊かになる幸せを掴みましょう」 「素敵ですね。ぜひそうしていきたいです」  リアムと顔を見合わせて、具材をたっぷり挟んだパンを頬張ると、口の端にソースがついているとスキラが伸ばした指でダリアのそれを拭う。 「リアム、ダリアが愛らしくて素敵だからって惚れるなよ」 「ちょ、な、なに言ってるんですかスキラ様。そんな物好きは、スキラ様だけですよ」  ダリアが咄嗟に叫ぶと、リアムとヒューゴはまたかと苦笑して、呆れた顔でスキラを見る。 「スキラ様。ダリアは確かに愛らしく聡い子ですが、そのように溺愛して腑抜けたことを言っていては他の者に示しがつきません。貴方は国を担い、冥界を守護する王なのですよ」 「出たぞ。うるさい父上だ」 「ええ、ええ。うるさくもなりますとも。さあ、休憩は終わりです。民の上に立つ見本としてサクサク働いてください。早速ですがグェンザルからの親書に目を通していただいて」  ダリアの頬にキスをして立ち上がったスキラの尻を文字通り叩きながら、どちらが偉いのか分からないない調子でヒューゴとスキラはその場から離れていく。 「あのお二人は相変わらずですね」  ごちそうさまでしたとお茶を飲むリアムは、去っていく後ろ姿に苦笑しながらそろそろ私も戻りますと言って、ダリアの片付けを手伝う。 「それだけ気の置けない相手なんだと思います。始まりの勇者と、その仲間、賢者エイノックですからね」  ダリアはそうでしょうと弾けるような笑顔で笑う。  四神の加護によって、等しく均衡が保たれ統治される世界メティナ。  創造を司る太陽(たいよう)神アーデスは、一の大陸オセンティスをお治めになり、知恵をお与えに。  黎明を司る玲瓏(れいろう)神ラノシュは、二の大陸キルジュールをお治めになり、希望をお与えに。  終焉を司る晦冥(かいめい)神サキュアは、三の大陸パンテザルナをお治めになり、自制をお与えに。  破壊を司る暗黒(あんこく)神ヴェガンは、四の大陸ノヴァディアをお治めになり、正義をお与えに。  そして四神の寵愛を受け、新たに冥界の守護者となった、始まりの勇者と呼ばれた魔王スキラ。 「我が君」 「おお、どうしたウィクス」 「冥界にて悪鬼ニブルカーナが覚醒いたしました」 「エイノック、ダリア、直ちに冥界に出向くぞ」  新米魔王スキラとダリアの旅路はまだまだ始まったばかり。 【完】
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