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薄暗い先に何かが見えた気がした。
闇の中に浮かび上がるようなそれは、白くて、まるで……。
人の手?!
思い付いて、心臓がドキリと跳ねた。
体がじんわりと熱を帯びていくのに頭は冷たくなっていく。
くらりと目眩にも似た感覚を覚えながら、私は暗闇に引きずり込まれるように白い何かが見えた場所へと、視線を走らせる。
そうしてしまうともう駄目で、無意識に足はそちらへと向いていた。
不気味にガリガリと言う音が響いている。
何の音なんだろう……?
それはゴミの山の影から聞こえている気がした。
そろそろと、近付く。
驚きの余り、悲鳴を飲み込んだ。
そこには地面の上にポツンと置かれた段ボール箱が有り。
その中から差し出されるようにして、生えていたのは──、闇夜に目立つ青白い人間の、腕。
訳の分らない吐息が漏れる。
後ろを振り返えろうとして、もつれ、顔から見事に私は倒れ込んだ。
けれど、そんな痛みも忘れるような恐怖も、時も一瞬止まってしまった。
倒れ込んで間近に見たのはマネキンの腕だったから。
安堵のため息を付いて……。
ふと気付く。
私が見たのはもっと高い位置になかったか?
ふと、変な音が急に大きく聞こえた。
──耳元で。
振り返るとそこには…。
明らかに常軌を逸している姿で、全身真っ黒な女が指先から、ダラダラと赤い血が流れているのを気にする様子もなく自らの爪をガリガリガリガリと──。
「……ッ!?」
悲鳴をあげそうになる口を抑え、私は後退った。
女とは別にもう一つの青白い影。
割れた頭に本来有る筈の両腕はもぎ取られたようにぶつりとない。
ズルリと、髪の毛が人影から落ちる。
よく見ると、その人影はマネキンだった。
完全に露出した割れた頭は痛々しく、無機質な瞳は有らぬ方向を見つめている。
ちらりと横を見た。
段ボールに入っているのはこのマネキンの腕?
その事に気付いた時、冷たく硬い指先が私の髪をかきあげるようにして、頬を撫でた。
女がこちらを見ている。
濡れたような長い黒髪から覗く、こちらを伺うような目は黄色く濁り、焦点が合っていない。
女の血濡れた唇がゆっくりと開く。
「私のお人形……」
私の頬を撫でたのはマネキンの手だった。
女が差し出した手に、マネキンのもぎ取られたような白い腕が握られ。
それが私の頬を撫でるのだ。
もう一度、女が言う。
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