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……ああ――暇だ、暇だ。
おや?こちらに見えるのは初めて?いやね、先程から貴方の事は、奥の草むらから覗いていたんですよ。こんなに暗くて足場の悪い川っペリでもね、まあなんて言いますかねえ……追い剥ぎ、のような者が出るんです。あんまり無防備なのもどうかと思いまして、ええ、声を掛けさせて頂いたんです。
お気づきでない?
貴方、だいぶ無防備な様子でいらっしゃいますよ。灯もないのに、あっちヘフラフラこっちへフラフラと、歩き回っていたじゃないですか。こっちが肝を冷やしましたよ。
私ですか?
私は、人待ちをしているんです。昨日は雨が降りましてね。今日はほら、あれを御覧なさい。川があんなに増水してしまって。これじゃあ待ち人だって、こちら側には渡ってこれやしません。
雨が降る前は、焚き火なんかもしていたんですがね。着物だって、濡れちまってこの様だ。袖に入っていたマッチが、使い物にならなくなってしまいました。
そんでまあ……腹は減らないし、やることもないってんで、ずっとぼんやり座っていたんです。
ほう、貴方は探している方がいると。
今宵はお止めになった方が、宜しいんじゃないですか?悪い事は、言いやしません。さあ、こちらにお座りなさい。さっきから見てれば、ずっと立ったままじゃないですか。別に取って食おうだなんて、考えちゃいません。私だって、一人で待っているのが寂しいんですよ。
宵の祭りでもあったんですか?その、狐の面。どこかで見た覚えがあるんですよねえ。小さい頃、田舎の祭りか何かで、似たような面を見たんでしょうね。ありふれた色形ですし。
見た感じ、私より歳が少々上のようでいらっしゃる。誰を探しているか、当てて差し上げましょうか?祭りではぐれたお子さんでしょう。
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