4人が本棚に入れています
本棚に追加
こんな辺鄙な場所で、宵祭りなんてやっていたんですね。全く気づきませんでした。だって、ねえ?この川を見てくださいよ。滝じゃあるまいし、ザーザーうるさくて祭囃子もへったくれもありゃしません。
この奥はね、杉林になってましたよ。で、なんだか獣道みたいなのがずぅーっと伸びているんです。雨が降る前に、焚き火を持って進める所まで進んでみたんですよ。
ただ、なんというか……気配は感じるのに、人独特の音や匂いってあるじゃないですか。そういったものが全くないんですよ。いやあ、薄気味悪いったらありゃしない。一人でまた行けって言われても、御免被りたいですね。
幽霊だなんて考えただけで、背筋が凍りそうですよ。
貴方もその面、取ったらどうですか?
こんな場所で狐の面だなんて、洒落にならないですよ。私、臆病なんでね。
え?
追い剥ぎが出ると、私が言った?
何故、幽霊の話をしているのか、と仰っしゃりたいんですね。
ああ、ですから。
残穢が全くないのに人の気配だけがあるから、ほら貴方がつけている面。そういう物をつけた、悪い奴がいるんじゃないかって思ったんです。
息子さんが心配ですか。
生憎、私には妻子がおりませんでしてね。まあ、俗に言う女嫌いというやつです。だから、本当に安心してくださって大丈夫ですよ。
妻子がいるような歳に見えない。ハハ。確かにそうかもしれませんね。
私の女嫌いは、母親から来てましてね。こんな話を、赤の他人にしちゃっていいのかな。まあ、ずっと待ちぼうけしてますから、良いか。貴方も、暇つぶしの与太話だと思って聞いてください。
最初のコメントを投稿しよう!