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母は、男がいないと生きていけない人でした。父親の顔は、見たことがありません。でもね、私はそんな母が大好きだったんですよ。さっきと言ってることが違う?そりゃ、幼子ってのはそんなもんですよ。存在自体、矛盾の産物みたいなものじゃないですか。
でね、話を戻しますけど。
私の中にある、父親の面影をうっとりと見つめる母親の顔が好きでした。
けれどね、それが続かないんですよ。長くても半年、続かないんです。
すぐに新しい男を家に連れてくる。また、あれだこれだと世話のかかる男ほど好むんです。手をあげる男が来た日なんかには、自分しかこの人を理解ってあげられないってね、無邪気に悦ぶんですよ。
断じて母は、淫売なんかじゃありゃしませんでしたよ。
むしろ一途過ぎるくらい、一途でした。男へ夢中になっている間は、私の中にある父親の面影を酷く嫌悪していたくらいですから。そうして捨てられると、また私の元へ帰ってくるんです。一緒に住んでいたくせして、おかしな言い方になりますがね。必ず、私の元へ帰ってきていました。
そう言えば、ちょうどこんな宵だったなあ……何度目かの男に捨てられた母と、祭に行きました。私は……そうだな、貴方より頭一つ、大きいくらいの背丈になってましたかねえ。
母は、男から捨てられる度に、少しずつおかしくなっていきました。坊や、なんて言ってね。りんご飴を買ってくれたかと思えば、しなだれかかるようにして、腕を絡ませて来たりするんですよ。
田舎の祭ですから、知り合いにそんな姿を見られるのが恥ずかしくてねえ……やめてくれよ、なんて言って手を振り払ってしまいました。当然でしょう?ベッタリとくっついている方が、不健全ってなもんじゃないですか。
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