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私は自分の事を、貴方みたいに情に溺れて、頭がおかしくなるような人間ではないと信じていたんですが。
親子って、どうやっても似るものなんですね。
そう言えばその着物、どうしたんです?
私が最後に見たものとは、違うじゃないですか。
え?
お前の父さんとお前を連れて初めて、宵祭りに行った時のもの?
そんな、私の記憶にないものを着て、探し回ってどうするんですか。気づくわけないでしょうが。そんなんだから、貴方は男から捨てられてばっかりいるんですよ。男心ってものを、まるで分かってない。
いくらでも学べる相手がすぐ隣にいたってのに、つくづく愚かな人だ。
そんな貴方に溺れて正気を失った、私も同類なんでしょう。せめてこんなものを愛情だなんて呼ばないでやる事くらいしか、私には償える事がありませんよ。と言ったって、誰に償えば良いのか……贖罪ってのは、案外難しいものですね。
……ああ――暇だ、暇だ。
それにしても退屈だ。
この川、いつになったら渡れるんでしょうね。
貴方は私より先に死んだってのに、まだここにいるし。葬式挙げなきゃとか、そういう条件が必要なんですか?けど、ウチにはお金なんてなかったし。
まさか思い残した事があるとか、そんな綺麗事を言いやしませんよね。
どうです?
暇がてら、私に抱かれる気はないですか。
貴方を最初に捨てた男と瓜二つですよ。
息子の同級生から狐の面をかぶせられて、あられもない姿を晒すよりは、よっぽど健全だと思いますがね。貴方の肌は、私が一番良く知ってるんです。きっと扱いも、どの男よりも良いようにしてやれますよ。生まれた時から、ずっと貴方に触れてきてるんですから。
私も結局、女の肌を知らないまま死んでしまったみたいですし。
どうですか?
どうせ渡った先は地獄です。
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