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俺が使えるご主人様は、非常に麗しい外見をしている。一見すれば十代後半から二十代前半くらいに見える、黒い髪に紫闇色の眼をした人物で、ナイトメア伯爵家のご当主であり、名前はジェフリー様という。
「まぁ、素敵ね」
今も貧民街の一角にある孤児院から出てきたジェフリー様を見て、慈善活動に訪れていた他の貴族のご令嬢が頬を染めている。
「執事のかたも、本当に素敵」
そして小声で続けた彼女の声を、俺はばっちりと聞いていたが、知らんぷりをした。ジェフリー様の執事は、俺だ。実際俺は、格好いいだろう。金髪碧眼で我ながら整った顔をしている自信がある。ただ……ジェフリー様には、ちょっと負けるのだが。ジェフリー様に勝てる美形は、ちょっといない。俺は今年で二十四歳、ジェフリー様より少し年上にみられる事が多い。
「ジェフリー様、参りましょう」
俺はそう告げ、停車していた馬車を見た。ナイトメア伯爵家の馬車である。
「ああ、そうだな。エドガー、帰るとしようか」
頷き、ジェフリー様が歩き出したので、俺は付き従った。
馬車に乗り込んで、御者が扉を閉めたのを確認してから、俺は窓の外を見る。
沢山の孤児達が見送りに出ている。
しかし、俺は思う。孤児院に入る事が出来ているだけで、彼らは非常に幸せな方だ。孤児院の裏手から続く貧民街で生まれた者には、そんな自由は無い。走り出した馬車の中で、俺は貧民街へと続く路を眺めていた。
「今夜のメニューは、何が良いかな」
その時、ジェフリー様が咳ばらいをした。慌てて視線を戻し、俺は答える。
「今宵は旬の魚料理を手配しております」
「飲食物のメニューではないよ」
「……っ、その……」
笑み交じりに続いて響いたジェフリー様の言葉に、俺は思わず赤面してから俯いた。言葉が見つからない。
「昨日の続きをするとしようか。うん、それが良いね。そう決めた」
チラリと視線をあげてから、俺は真っ赤のままでジェフリー様を暫し見ていた。
――夜。
帰宅し、食事や入浴を終えた後、俺は呼び出されてジェフリー様の寝室へと向かった。
それが二時間ほど前の事だ。
「ゃ……ぁ、あ……あ、もう、もう止め……ッ」
俺は両手でギュッとシーツを握りながら、涙ぐんでいる。
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