ダメ執事の沈黙

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「実際、マリアにも、メイドの仕事はお願いするつもりだよ。寝てばかりいるよりは、少し動いた方が、体にも良いだろうからね。安心して良い、ナイトメア伯爵家の侍女長に、よく頼んでおくからね。だからエドガー。君は、君の仕事をするだけでいい」  愕然としながら、俺はジェフリー様を見た。すると唇の両端を持ち上げて、綺麗に笑っているジェフリー様が視界に入った。  ――本当に、マリアは治るのだろうか?  ――それが、事実ならば?  と、一瞬の間俺は思案したが、ギュッと拳を握り、小さく頷いた。 「俺は何をすれば? 俺の仕事というのは? マリアには、本当に、メイドとして以外の――夜のような仕事はお命じにならないと、誓って下さいますか?」  俺自身は構わない、もう、ここまで来たら、仕方がない。  たとえばそれが、男娼の真似事でも構わないと俺は思う。  だがマリアはまだ幼い。それに、体に障らないはずがない。 「ああ、誓おう。マリアの体を僕が味わう事は無い。他の誰かが、彼女に無理矢理手を出そうとしたら、主人としてきちんとその相手を罰する約束もしよう。それよりも、エドガーの仕事について。主に二つ」 「なんですか?」 「一つは、僕に食事を提供してほしい」 「……料理なんてしたことが無くて」 「シェフはいるんだよね。さて、そこで二つ目となる。ナイトメア伯爵家の者として、君にも働いてもらいたいと考えていて、そういえば丁度執事が空席だと思い出してね。家令に今は任せっきりだから、エドガーが僕の執事となってくれるならば最高だと考えているんだ」 「執事……?」 「うん、そう。執事学校への入学手続きも任せてくれていいよ。それに、学費も、今後の生活費も、衣食住も、すべてを僕が保証する。だから君は、執事として働きながら、僕に食事をお願いね。どうかな?」 「分かりました、俺に出来る事なら」  必死に敬語を思い出しながら、俺はそう告げた。シェフがいるのに食事というのが良く分からなかったが、執事としてテーブルに並べるなどの行いをするのだろうかと、漠然と考えていた。この時の俺にとって、執事のイメージとは、孤児院に貴族が連れてやってくる、お茶を出す係という認識でしかなかった。  その後馬車に乗せられた俺とマリアは、ナイトメア伯爵家へと向かった。
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