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【序】険悪な仲の敵対する俺達
今日も今日とて、学園祭の話し合いがある。
この聖ダフネ学園高等部では、三年に一度、学園祭が行われる。
その時期は、俺が委員長を務める風紀委員会も、なにより生徒会も、それらが主体となって学級委員長や部長、各委員会の代表者で構成される学園祭実行委員のメンバーも、皆が多忙になる。
なお親衛隊のメンバーに限っては、学園祭よりも、同じ年に学園に咲くと言われる、想現草探しに必死になる。想現花は、俗に恋が叶う花と呼ばれていて、こちらも三年に一度だけ咲くらしい。真偽は知らないが、三年に一回は、見つけたという報告があるのは間違いないし、見た目などもかなり詳細に伝わっている。前回は、三年前に保健医の荒潟先生が見つけたという話で、教職員の言葉であるから信憑性が増したようにも思う。
だが、俺に関しては、その伝承よりも、目下に迫った学園祭と、そのための打ち合わせや会議の方に心を奪われがちだ。
「だめだ、許可できない」
俺は眉間に皺を刻み、険しい表情で、きっぱりと告げた。
睨み付けるように見ている相手は、何様俺様生徒会長様の、高萩七彩高萩七彩である。高萩は、180cmを超える長身で、黒い髪とどこか紫暗にも見える瞳をしている。若干つり目だが、形が良い。通った鼻梁に薄い唇をしていて、さすがは抱かれたいランキングの一番上に名前があるだけはあると思う容姿をしている。その端正な顔に、高萩は現在、俺以上に苛立つ表情を浮かべ、俺を完全に睨み付けている。
「なんでお前の許可が必要なんだよ、あ? 水理、生徒会は、風紀委員会の許可を求めてるんじゃねぇ。生徒会の決定通りに、風紀が計画を練り直せと言ってるんだ」
「巫山戯るな」
水理、と、呼ばれた苗字。
その度に、俺は少しだけ胸が痛む。昔は、下の名前で、砂緒と呼ばれていた。
まぁ、俺も七彩と呼んでいたのは過去の話で、今では高萩かバ会長と呼んでいるが。
俺達は――実を言えば、幼なじみだ。学園の誰も、知らないとは思う。少なくとも俺は誰にも話していないし、今では俺を嫌っている様子の高萩だって、俺の話なんか誰にもしないだろう。
俺は、帰国子女だ。だから、国内の企業の人間関係に囚われないだろうと考えられて、前任の委員長から指名を受けて、風紀委員長になった。良家の子息が通う男子校であるこの聖ダフネ学園には、日本の企業の令息が多い。だから実際、外資の会社の代表の息子である俺は、あまり日本企業には関わりが無いので、前任者の判断は適切だったとは思う。
一方の高萩は、この国で知らぬ者がいないほど有名な日系企業、高萩財閥の人間だ。
高萩財閥に関わりが無い企業など、それこそ外資くらいのものである。
生徒会長として高萩が絶大な権力を誇るのは、容姿のみではなく、そうした家柄や人脈、また優秀な成績や運動能力に裏打ちされた自信、それらからくるのだろう。
――俺だって、そういう部分が、好きだ。
俺は高萩に幼少時、初恋をした。その恋心を引きずった後、再会した後は、今の高萩に惚れてしまった。けれど俺しか生徒会長である高萩を諫められる者はおらず、さらに風紀委員長という元来生徒会とは不仲な委員会の長となってしまったせいで、現在では、俺達は敵対しており、非常に険悪な仲になってしまった。廊下ですれ違っても、会話はおろか、目すらあわない。代わりに、会議の場では、激論を交わしている。
現在は、生徒会が企画した学祭の中のあるイベントに対して、風紀委員会としては見回り警護の観点から、企画の一部の変更をして欲しいという話をしている。このままの状態では、企画に賛成できないという話だ。しかし高萩は、変更をしないと宣言している。
「アホ風紀は、本当にアホだけあって、無能なんだな。お前らの警備計画に穴があるというだけだろ。水理、てめぇらで見直せ。生徒会はなぁ、学園の奴らも客も楽しませるために全力を尽くしてるんだよ。それをお前らの力不足で変更なんぞできない」
「学園の生徒も来て下さる人々にも、安心で安全な環境を提供する義務が風紀にはある。楽しみは、環境が保障された上でこそ味わえる。何故理解できないんだ? ああ、バカだからか。さすがはバ会長」
この日俺達の激論は平行線をたどり、会議は延長した。
だが延長可能な予備の終了時間もあっさり訪れて、結論が出ないままで打ち合わせは終了した。
「……」
会議終了後、立ち上がり、俺は深々と溜息をついた。
成果がなかった会議であるが、一ついいこととしては、片想いをしている相手の顔を、まじまじと見られたことだろうか。
「おい、水理」
すると、その時高萩が声をかけてきた。反射的に視線を向けると、双眸を細くして、忌々しい者を見る目つきで、歩み寄ってきた高萩が、顎を持ち上げ、俺の前に立った。俺よりも背が高く、威圧感がある。
「毎度のことながら、この俺様に反抗するとは、いい度胸だな」
「反抗? 俺は論理的に批判したんだ。第一、お前に対して適切な言葉を投げかけることに、一体どんな度胸が必要だと言うんだ?」
まぁ、実際に他の生徒であれば、家を社会的に潰される恐怖や、学園ではぶかれる恐怖、親衛隊に精彩をされる可能性など、生徒会長に目の敵にされるというのは、辛い状況だろう。だが、俺に限っては、好きな相手に嫌われているという辛さでしかない。
「――一週間後、だ」
「なんだ?」
「一週間後の放課後、あけておけ」
「何故?」
「じっくりと話がしてぇんだよ。一対一でな」
そんなにこの企画にこだわりがあるのかと、俺は嘆息した。しかし風紀とて、譲れないものは譲れない。話というのは、それ以外には考えられない。一週間と一日後に、次の会議があるから、それまでに打ち合わせをしたいということなのだろう。
「分かった、来週の月曜日だな?」
「おう。18時に、中庭の四阿に来い」
「いいだろう。無駄話でないことを期待しておく」
俺は仏頂面で頷いた。すると顎で頷き、高萩は踵を返して、会議室を出て行った。
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