人生、紙吹雪

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「はい、どーも!」  出囃子のBGMとともに、二人が勢いよくステージに出てきた。  真正面に置かれた1本のマイク。その前に並んで立つと、マイクの高さを調整しながら話し出す。  いつもの見慣れた光景や。 「なべちゃんでーす」 「やまちゃんです。皆さん、よろしくお願いしまーす」  いつもとまったく変わらない入り方。ちょっとくらい工夫すればええのに。 「わー、今日もたくさんの人に来てもろて、こら嬉しい! なあ、やまちゃん。見てみい、すごいで」 「ほんまやね。会場にわざわざ来ていただけるなんて……、あんたらよっぽど暇なんやな」 「こら~、失礼な事を言うな~。」 「よお、暇人!」 「もう、やめろー」  やっぱり、誰も笑わない。  今日もつかみから大スベリ。毎回、客席にいる私まで恥ずかしくなる。  お笑い芸人、やまちゃんの妻として生きていくのはつらすぎる。 「お父ちゃん、がんばれ~」  幼い娘は、無邪気にステージに向かって声をかける。  すると、周りにいる観客の視線が一斉に私と娘に集まった。 「こら、たかよ。しっ! 恥ずかしいやろ!」  私は娘を黙らせると、深いため息を一つ。  私、結婚する相手、間違ったんやろか?  ええ年して、こんな小さなステージでアホの一つ覚えみたいに漫才ばっかりやって。  夢や、夢やゆうても、限界があんねん。  子かているんやから、もうそろそろきっちりした仕事について、落ち着くべきちゃうんか?  アホや。  ほんまにアホや、うちの旦那と相方のなべちゃんは。 「まあ、皆さん。ボクたちもコンビを組んでもう10年。この相方、やまちゃんの顔、見てください。」 「なんや、どうしたんや?」 「ブサイクでしょ~。ムカつくでしょ~?」 「ブサイクで悪かったな。これでも親からもらった 大切なもんや!」  あかん。やっぱり才能ないわ。  また同じネタや。やってもやっても同じことの繰り返し。  古いわ。  今風にテンポや動きがないと、絶対うけへんて。  会場に来てる人たちはな、あんたらやなくて、この次に出る若手芸人の出番を楽しみにしてるんや。  もうお笑いの道は、そろそろ引き際なんとちゃう?  そらやまちゃんと出会った時は、面白いことばかり言って、楽しませてくれたから好きになったけど……。  でも、もう父親なんやから、真面目に働いてほしい。家族と生活のために、稼いでよ。 「死にかけたワカメちゃんみたいな顔してからに。 いつか整形してナミヘイにしたるからな」 「ナミヘイなんていやや~。ていうかなんでサザエさんファミリーの顔やねん」 「しかもね、このブサイク、生意気に嫁がいますねん」 「ブサイク、ブサイク言うな。嫁がいたら悪いか?」 「まあ、悪いとは言わんけどもや。この嫁がサザエさんそっくり。」 「だから、なんでまたサザエさんやねん。」 「創造してみてください。夜な夜な死にかけたワカメちゃんとサザエさんが子づくりしてるんですよ! わ~、もう無理」  なんで関係のない私まで、毎回毎回笑いのネタに されてしまうのよ! 不愉快や。 「お父ちゃん、もっとテレビにいっぱい出る売れっ子になれたらええのに」  娘のたかよは、どこまでも無邪気だ。 「無理や。無理無理」 「お母ちゃん、なんで?」 「それはな、お父ちゃんは……救いようのないアホやからや」  やっぱりこんな甲斐性のない男と結婚した私が間違いやった。  もう離婚や。絶対、別れたるからな。 「お母ちゃん、子づくりって何?」 「うるさい! 子どもは知らんでええ」
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