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そら、私も辛抱してきた。
この人の夢のために、私が支えてあげるんや、って乙女チックなことを考えていた頃もあった。
そやけど、男が夢を追うには、……ほら賞味期限が
あるんとちゃう? もうこのままやったら生活がままならん。
たかよも、アホな夫のせいで、貧しい生活を余儀なくされてるんや。もう我慢の限界や。
「あんた、ちょっとここに座り!」
「なんや、それ。またアホな子どもを叱るみたいに」
「実際にアホなんやから、しようがないやないの」
「またお父ちゃん、お母ちゃんに怒られるんか?」
たかよは夫を心配してる。
「そうや。こんな風に辛いことにも男は耐えなあかんのや。これが男や。夢を追う男の生き様をしっかりみとけよ、たかよ」
「お父ちゃん、男前やで」
「そうやろ。お父ちゃんは、今、怖いお母ちゃんに、敢然と立ち向かうんや!」
「つべこべ言わんと、さっさと来い!」
「はい」
怒鳴る私に、いつも夫は従順や。
ほんまに、すぐにたかよを味方につけて、私を悪者にしようとするんやから。たかよも、何でこんな甲斐性のない夫をこんなに慕うんやろう。
父親失格の男やで。
でも、たかよも成長したらきっと分かる。
男は優しいだけではあかんのや。家族の暮らしを支えてなんぼや。
「ほんで、何やろ? あ! ひょっとしてステージ用のちょんまげヅラを買うのに家の金を持ち出したから怒ってる? そうやろ?」
「違う! いや、違わないけど、もっと根本的なことや」
「あ、分かった。ステージで着るために女子中学生からセーラー服借りようとして、変態扱いされたからやろ」
「そんなアホな事もしでかしたんか?」
「え? ちゃうんか?」
「ちゃう。家賃は3ヶ月滞納や。たかよの給食代も払われへん。もう限界や。はい、これ!」
私は、紙を机の上に叩きつけた。
「これって……、離婚届?」
「そうや」
もう、覚悟はできてる。
「またまた、笑わそうと思って」
「お父ちゃん、リコンって何? 食べ物か?」
急にたかよが割って入る。
「ちゃう。ギャグの一種や。」
「早く名前を書いて、はんこを押して!」
離婚届を見せても、夫はくだらないことばかり言って、応じようとせえへん。
往生際が悪い男やで。
「本気か? 確かにわしが悪い。悪いのは認めたる。でもな、別れたらステージで家族のことをネタにでけへんようになるやろ。」
「当たり前や!」
「当たり前や」とたかよが、私のマネをして言う。
「たかよにも色々迷惑をかけてばっかりやな。お父ちゃんがアホやと、苦労するな。」
「ホンマやで」
「そやけどな、たかよ。男は生きていく上で捨てたらあかんもんが2つあるんや」
「ほー、そうですか。ところで、それ何なんや、お父ちゃん?」
「1つは夢。そしてもうひとつは、……隠れて行くまちコン。まちコンは浮気やないで! 心と心の交流や」
「……お父ちゃん。もうええわ、リコンしなさい!」
「たかよ~。そのつっこみ、厳しすぎて笑えへんわ」
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