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01. 一夜限りのお相手
意識はあるし、ベッドの上に横たわる体も自分の意思で動く。
だけど沸き立つのは危険かつ甘い欲ばかりで、肝心の理性が全く働かないのはいつも以上に摂取したアルコールのせいか。
それとも目の前で引き締まった上半身を露わにする、何とも魅力的な男のせいか。
いや恐らく、その両方だろう。
「はぁっ……ん……」
互いに吸い付くようなキスを交わし、吐息も指先もねっとりと絡まる。
素性も職業も名前さえもよく知らない。
ただ、肌を寄せて温もりを分け合う身体は、簡単に熱を帯びる事だけわかった。
自分の中の本能がこんなにも研ぎ澄まされるのは生まれて初めてだし、いつもなら必ずそばに置いておく理性が不在だから。
もう、歯止めが効かない。
「……や、そこは……っ……」
「キスだけですごく溢れてる、そんなに気持ち良かった?」
「……は、い……」
今夜のこの情事が終われば二度と会わない、それがこの男の普段から決めているルールらしい。
だったら理性を失い快楽に溺れても、乱れ狂って普段はしない猫撫で声を発しても。
もう人生で絶対会うことのない男の前なら、羞恥心を気にせず感じるまま素直に反応する事が出来た。
これほどの解放的で本能的な濃厚時間。
人生初にして人生最後でもあると決めていた繭は、心ゆくまでこの一時を愉しむことにして、呼吸を乱していく。
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