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「お前の通ってる産婦人科どこだ!?」
「……そこへは、行きたくなくて」
「は?いやその病院の方が話早いだろ!?」
「……っ」
何故そこまでして繭の通っている病院に行きたがらないのか。
部長には理由がわからず理解が出来なかったが、そんなわがままを言っていられる状況ではない事だけはわかって、つい大声を上げる。
「お前だけの問題じゃない!子供も危ないんだぞ!」
「……っ!!」
ハッとして顔を上げた繭は、部長の正しい怒りの言葉にやっと目が覚めて、糸が切れたように涙が溢れてきた。
母親である繭が子供を危険に晒すなんて、どんな理由があっても絶対にしてはならないのに。
椿との大切な子を、今守れるのは自分しかいないのに。
「っ……天川病院、です」
「天川病院だな?車ならすぐだ、行くぞ!」
部長が車での行き方を確認した時、エレベーターは一階に到着して二人はゆっくりと降りていった。
そしてエントランスを抜けて会社を出ると、部長は近くにあった段差に繭を座らせる。
「いいか、今社用車出してくるからな!」
「っ……はい……」
「ここで少しだけ待ってろ、動いちゃダメだぞ!」
「……っは……い」
お腹の痛みは先程よりも強みが増していて、そろそろ歩行も困難になってきた。
繭がこんなに痛みを感じるという事は、お腹の中にいる子は小さな体でもっと痛い思いをしているはず。
そう考えたらお腹の子に申し訳なくて、再び涙を浮かべた繭。
「(ごめんね……ごめんね……!)」
心も体もボロボロで苦しむ部下の姿に、今自分ができる事をするしかないと、社用車を停めている駐車場へ部長が向かおうとした時。
二人に駆け寄ってきた、一つの影があった。
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