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「繭さん!!」
「……っ!?」
聞き覚えのある声に驚いて苦しそうな顔を上げると、やはりそこには一ヶ月振りに対面する椿が慌てた様子で現れた。
どうしてこんなところに椿がいるのか。
そもそも電話もメールも避けていた繭に対して、怒る事も責める事もなく、ただただ心配そうな表情をしている。
そしてすぐに繭の体に触れて症状を確認すると、緊急性を要すると判断した椿が顔色を変えた。
「……っあの、椿さ……」
「喋らないで、安静にしてないと危険だ」
「え……?」
危険という言葉に恐怖を感じた繭は、青ざめながら身動きが取れなくなってしまう。
そんな繭の背中と膝裏に腕を回し、痛みに耐える体を簡単に抱き抱えて立ち上がった椿は、目の前に一時停車していた自分の車まで連れて行こうとした時。
部下が何者かにさらわれると思った部長が、慌てて声をかけた。
「ちょちょ、待って、誰!?」
「天川椿と申します、繭さんの担当医です」
「天川?……ああ!天川病院の人か!」
椿の正体がこれから向かう予定だった病院の医師であるとわかり、これでもう安心だと思った部長。
しかし繭の症状は深刻だったため、急いで後部座席に寝かせるとすぐに運転席へ回った椿は、助手席の窓を開けて部長に礼を言う。
「ここまでありがとうございました」
「ど、どうか里中を助けてやってください!」
「はい、詳しい話は後ほど」
「よろしくお願いしますっ」
そして繭を乗せた車はそのまま天川病院へと向かうのだが、一刻を争う状態に少しずつ恐怖心に支配されていく椿。
アクセルを踏み込みたくなる衝動を必死に抑えながら、バックミラーで後部座席に横たわる繭の様子を確認し、車を走らせた。
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