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だけど今回の件で、繭の体も心も本能的に椿を求めているのがわかり、それは恐らくお腹の子の意思でもあるような気がしたから。
「……こんな、身勝手な私ですが……また愛してくれますか……?」
瞳に涙を溜めていた繭が椿に対してそう問いかけると、点滴をしていない方の手で溢れそうな涙を拭った。
こんな情けない姿でおかしな事を言っているのは百も承知だが、今伝えておかないとまたズルズルと自信のない自分に引っ張られそうだった。
すると椿は腰掛けていた丸椅子からゆっくりと立ち上がり、ベッドの隅に手を置くと。
涙を拭い終えたばかりの繭に、優しい口付けを降らせた。
「っ……!!」
「…………」
一瞬、時間が止まったかのように静寂に包まれた病室で、そっと唇を離した椿と繭が鼻先ゼロ距離で見つめ合う。
突然かつ久々だったキスの温もりに、目を丸くしながらも頬を赤く染めて、大きな鼓動が体中に鳴り響く繭。
一方で間近に顔を寄せたまま余韻に浸る椿は、先程の不安げな表情が嘘のように、目尻を垂らした穏やかな眼差しを向けてきた。
「"また"じゃないよ」
「……?」
「繭さんには全然伝わってなかったみたいだけど……愛してない時間なんて、今まで1秒もないから」
たとえ別れを告げられて姿を消されても、連絡を拒否されて会えない時間が続いていても。
椿が繭を想わなかったことは一時だってないほどに、もうこの愛は止められないところまできている。
そして再びキスを交わした椿は、まだまだ足りないというように繭の口内までも堪能しそうになったところで、慌てて体を起こし距離をとる。
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