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「……わかりました」
繭は納得のいかない表情をしつつ、受け入れる言葉を残して自席へ戻っていくも。
早く独り立ちしてほしい後輩に対し、超最短の指導をして何が悪いのか、いまいち理解ができなかった。
限られた勤務時間の中で、決められた業務をこなすためには一番効率良く仕事を片付けられる手段をとったまで、と思っているから。
そんな繭だが後輩達にとっては無愛想で冷徹で厳しい先輩と映るようで、いつの間にか部署内では恐れられる存在に。
「……はぁ」
自席に着いた繭は、デスクに山積みされた書類を眺めてため息をついた。
何故なら終業時間までにこれらを片付けなければいけない事と、片付かなければ残業になる事を知っている。
指導に対する文句を言っている暇があったら、早く仕事を覚えてこの山積みの書類を少しでも手伝えるくらいに成長してほしい。
繭の本音が素早いタイピングに表れて、書類が徐々に少なくなっていくかわりに、誰も近寄れないオーラを放ち続けていた。
「……里中さん本気モード……」
「鬼の里中降臨か、声かけたら殺されそう」
近くのデスクで仕事をする後輩達の小声を知る由もなく、繭はひたすら会社への貢献と己の達成感の為に、毎日を一生懸命に生きてきた。
その時、デスクに置くスマホが短く震えメッセージの受信を知らせると、その送り主に繭が瞬きをして驚く。
一ヶ月間連絡を取っていなかった、恋人の名前が表示されたから。
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