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しかしそれは子供という存在を中心に二人が関係を築いていて、椿から放たれた子供への愛の余った分を、繭が拾い受けているだけなんだと思い始める。
椿を父親にしてあげられるのは、椿の子を宿して育み産むことができる、母体となる女性だけだから。
繭はオマケで愛されているだけで、女性であれば誰でも良かった。
そんな考えから、繭も椿も"錯覚"により互いを好きになり始めたんだと結論づけて、これ以上惨めな思いをする前にリセットさせるべきだと判断した繭。
「あの時妊娠していなかったら、やっぱりここまで私は……椿さんに愛されていないと思うんです」
「そ、そんな事は……!」
「子供が出来たから結婚という流れは、既に交際していたカップルの選択肢であって……出会ったばかりの私達には通用しない」
お腹の子が繭と椿を引き合わせてくれた、なんて言えば聞こえはいいが。
それは繭と椿の愛し合う力ではなく、責任を持って子を育てて行くという当然の親心が、二人を繋ぎ止めているだけ。
それに、長い期間椿の事を想っていた凛に比べて、繭の抱いた椿への愛情はそれに勝るほどのものではないような気がした。
だから。
「……椿さんの事、好きでした」
「ま、繭さ……」
「だけど結婚できない以上は、もうお会いすることもありません」
「っ……」
繭の気持ちだけが先へ先へと進み、椿にとって最悪な結末に向かっていく。
決断してしまっている繭を呼び戻すくらいの強い言葉を、混乱中の椿は直ぐに用意することが出来なくて。
「私を強くしてくれて、ありがとうございました……」
お腹の子の存在が繭の心を強くしてくれているし、その子を授けてくれたのは、間違いなく椿だから。
心の底から感謝していた繭がお礼を伝えると、その言葉を最後に通話が切れた。
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