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「例の告白オッケーしたんだって」 「は……」 「だからバーに来る頻度も減りそうって」 「…………」 「彼氏と一緒にきてくれればいいのにな」 マスターは軽快に話し続け、繭の交際がうまくいくよう願っているみたいだったが。 肝心の椿は自分の行動の遅さと、こんなにも意気地のない人間である事が露見して言葉を失っていた。 「……椿?」 「え……ああ、はい」 「俺の話聞いてたのかよ」 「いいえ、興味なかったんで……」 「だからお前は独り身なんだっ」 正直に答える生意気な後輩に、先輩であるマスターがムカついていると。 20代半ばを無理に大人っぽく背伸びした外見をする一人の女性が、椿の席の隣にわざとらしく座ってきた。 「お兄さん凄くカッコいいですね〜」 「……ありがとうございます」 「モデルとかされてるんですか?彼女さんいるんですか?」 「…………」 椿にしては珍しく感傷に浸っていたというのに、こんな時にも女性のお誘いはやってくる。 このパターンを幾度も経験している椿は、繭への想いが崩れた事と、しばらく遊びを控えていた反動で。 声を掛けてきた女性の小さな手に、自分の手の平を重ね合わせた。 「……可愛いネイルだね」 「あ、ありがとうございます」 「君さぁ、俺とこの手を汚す事したいの?」 「えっ……!?」 女性は驚いて顔を赤くしたのちに照れ臭そうに頷いたので、椿は席を立ち女性の手を引いてバーの出口へと向かっていく。 「あ〜あ、最近落ち着いてきたと思ったのに……」 女性の誘いにあっさり乗った椿の様子に、マスターもため息をつきながら残念そうに呟いた。 その半年後、繭はその彼に振られて交際が終了するのだが、今はまだ誰もその事を知らないので。 出会ったばかりの女性と椿の一夜限りの件数だけがカウントされていき、同じ数だけ二度と会わない約束も交わしてきた。
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