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11. 二度と会えない
最後の電話以降、椿は未だ繭に会えておらず予約していた本日の妊婦健診にも、もちろん現れなかった。
午前中の全ての診察を終えた椿は、いつも以上に患者への対応がドライで、明らかに元気がない。
その原因は、あのベテラン看護師も簡単に理解できていた。
「里中さん、他の病院でちゃんと診てもらっているなら安心なんですけどね」
「……はい」
「妊娠中は体の変化も起こりやすいし、無理してないかしら……」
「…………。」
気にならないわけがなく、出来る事ならどんな手段を使ってでも繭を連れ戻したいと思っている椿。
しかし、一度心が離れた繭に対して無理矢理行動を起こしても、それは自己満にしかならないし、繭にも負担をかけるだけ。
だから出勤や帰宅に合わせて待ち伏せするような事や、繭の勤め先まで押し入る事はせず。
反応は一切なくても、毎日メールで話し合いたい旨を伝え続けている。
「(繭さんは、このまま俺と会うことなく産むつもりなのか……?)」
今まで一度抱いた女性には二度と会わない事を強要してきた椿が、今は繭の方からそれを強いられていた。
こんなに胸が張り裂けそうな思いを抱くのは初めてで、昼休憩に入った途端に緊張が解けて無気力になる。
そうして病院関係者以外は立ち入り禁止の通路を静かに歩いていると、カツカツとヒールを鳴らした音が前方から徐々に近づいて来た。
「……病院には来るなって言っ」
「仕事が出来ないくらいに憔悴してるかと思ったら、案外普通じゃん」
「…………」
今日も派手な服を着た凛が、我が物顔で病院内を歩いていることに呆れて、ため息すら出てこない。
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