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だけどもちろん私の返事は一択だ。
「兄ちゃん、この間から其処の幹線道路の工事に通って来てる土木作業員だろう?」
「あぁ、それじゃあ知らないのも無理ないねぇ」
「悪いこといわないから今すぐ逃げな!」
「え?」
外野の声に耳を傾けた彼は何のことかとキョトンとしていたけれど次の瞬間、目を見開いて驚いた顔をした。
当然私も驚いた。だっていきなり厨房から出て来た篤志くんが公衆の面前で私にキスしていたのだから。
「なっ……な、なな……」
私たちのキスシーンを見て彼だけが酷く狼狽えた声を発していた。
「まーた始まった。ったく昼間っから見せつけるなよ、大将」
「新婚じゃ仕方がないってか」
「えっ、し、新婚?!」
「おぅ、そうだ!」
「!」
彼の言葉に篤志くんはいつも通りの反応を返し、そしてやっぱりいつも通りの啖呵を切った。
「こいつは俺の嫁だ! 気安く告ってんじゃねぇよ!」
「~~よ、嫁?! 人、妻……だった、なんて……わぁぁぁぁぁー!」
篤志くんのただならぬ牽制に慄き、走り去って行く人たちの後姿を見つめるのはもう何度目になるだろう。
「──ったく、これで何人目だ。真子に告白してくる不逞な輩は」
「あ、篤志くん! 何、いきなりキ、キスとかして!」
いつもは精々肩に手をやって抱き寄せる程度の密着で啖呵を切っていた。だけど今回はキスなんて暴挙に出た篤志くんに驚き戸惑った。
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