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「それで、勝手に連れてきた……と。たかだか雑魚一匹とはいえ、随分とお遊びが過ぎるんじゃないか? ルーナ」
目の前の大柄な男は苛ついたような仕草で両腕を組む。頭生えた太い二本の角はズハオのものとは違う。硬い鱗で覆われた黒く太い尻尾を揺らしながら、目の前の男は本日何本目かの煙草を咥えるのだ。
「んなこと言ったってボドさん、ボドさんだって家族連れてきてますし」
「あれは腐っても魔族だ。けど、お前のは人間だろ」
「四天王の皆さんがいたらたかだか雑魚の人間一匹くらい平気でしょ」
「……はぁ、クソガキが。余計な仕事を増やすなっつってんだよ」
四天王の一人、ボドは魔族の中でもハイクラスの魔力を誇る竜人族――らしい。
確かに竜っぽい角と尻尾をしてるが、俺からしてみればどちらかといえば親戚のおっさんに近いイメージ。
勇者たちに動きがない間の暇な時間を利用して、軍資金を稼ぐために魔王城から最寄りの人間の街でカジノを経営してるボドさんは普段は大体魔王城にはいない。
今日はカイネの報告を聞いて帰ってきたらしい、カジノでの正装のままで戻ってきたボドさんは胡散臭い顔の上半分を覆う仮面を外した。
「まあまあ、カイネは役に立ちますよ」
「あ? 例えばどんな」
「あいつ、部屋の片付けとか好きなんで」
「そんなんならうちにもいるだろ」
「んー、あとは草むしりとか?」
「……お前、本当にそいつのこと友達だと思ってんのか? 雑用係は間に合ってんだよ」
叱られてしまった。
「ま、あいつのレベルは低いし特殊な力も早々ない。妙な真似したときは俺が責任取るんでいいでしょ、ご飯の世話もするんで」
「ペットかよ。……はー、まあ勝手にしろ。俺は店が忙しいんだ。暫くはどうせ城に帰れねえし」
「やった、ボドさんに許してもらえた」
「飼うんなら最後まで責任持てよ」
ペットかよ、と突っ込みつつ、俺は「はーい」とだけ応えた。
カイネを引き取るに当たって、流石に無断だと後から波風立つので一応四天王の三人と俺の近くにいるやつらにはカイネのことをざっくり伝えることにした。
ボドさんの許可は貰えたし、お人好しのヒューゴも大賛成してくれた。あとの一人は……まあ、あの人はいっつも一人でごちゃごちゃしてるからいいかって感じでおいておいて。
一番仲がいいズハオに報告ついでに改めて紹介しようとカイネを連れて行こうとしたのだが、カイネはズハオのことを嫌ってるようだ。「絶対やだ、いかねえ」と言って聞かないので取り敢えず俺一人でズハオにことの顛末を話した。
ズハオは「へえ、よかったな」とあっさりと流し、それからすぐ他の魔王軍のやつらの話になる。
――と、まあそんなこんなで簡単に俺とカイネの生活は始まったわけだが、俺はわりと早々に後悔することになった。
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