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――魔王城・自室。
「おい、いつまで寝てるんだよ! おーいー! シン!」
「……うるせえな……あと、シンじゃなくてルーナって呼べって……」
「ルーナって呼びにくいんだよ、それに、シンはルーナって面じゃねえだろ」
「……面はルーナのだっての」
ふあ、と欠伸をしながら俺はカイネに引っ張られて起こされることになる。
これだから体育会系は嫌なのだ、ヒューゴといい。
俺の実家のベッド何個分かわからないくらいでかいベッドの上、最早乗り上げてきていたカイネを降ろしつつ俺も起きることにした。
「……って、なんで裸なんだよお前……っ!」
「昨日オナニーしたまま寝落ちしたからに決まってんだろ」
「ひ、開き直ってんじゃねえ……っ! 早く服着ろ……っ!」
ぽいぽいぽい!と人のクローゼットから持ち出した服たちを放り投げてくるカイネ。
なにを今更恥じらうことがあるのかと思ったが、そうか。今は顔も体もルーナのものだから問題があるのか。……いやないだろ。
跳んでくる服を一枚一枚触手で受け止める。俺はそのまま適当な一着を触手に着せてもらうことにした。
「お……お前、なんでもかんでも触手にやらせんなよ」
「なんだよ、お前がさっさと服着ろってうるせーからだろ」
「う……それはそれだろ! だって触手にばっかやらせるんだったら、俺がやることなくなるし……」
「は? なに、俺のこと着替えさせたかったってこと?」
「ちが……っ、諸々の話だっての……っ! だ、だって……一応俺はお前の世話するってことで引き取られたわけだし……」
「あー、それについてだけど。あれその場しのぎだから気にしなくていいぞ」
数日前のカイネとのやり取りを思い出しながら続ければ、「は」とカイネが固まった。
「当たり前だろ? そういった方が話スムーズになるし。つか、本気にしなくてもいいからな」
「じゃ、じゃあ、お前の世話は……」
「普通にしなくていいから。つうか、お前も好きにしろよ。部屋なら一応用意してやったろ?」
「っ、それは……そうだけど」
「俺ばっか構ってねえで、他のやつらとも仲良くしたらどうだ? ここにいる人らは話比較的通じる人ばっかだからな、お前でも仲良くなれると思うぞ」
「…………」
あれ?少しは喜ぶと思ったのに、なんでどんどん元気なくなってんだ?
「……お前が、一緒に来いっていうから俺は……」
「あ?」
「……っ、なんでもねえよ」
そうそっぽ向いたカイネはそのまま俺の部屋から出ていった。
バタン、と勢いよく閉められた扉を眺めたまま、俺は心配そうにカイネを追いかけようとしていた触手を止めた。
「……相変わらずわっかんねーな、あいつ」
せっかく着替えたのに即二度寝する気にもなれず、仕方ねえので飯でも食いに食堂へと向かうことにした。
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