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――魔王城内。
豪奢な絨毯の上を触手とともに歩いていると、向かい側に見覚えのある姿を見つけた。
「ズハオ」と声をかければ、ズハオはにっと笑う。それから「よ」とこちらへとやってきた。
「ズハオも今から飯か?」
「おー、丁度交代の時間になったからな。……珍しいな、ルーナがこんな朝っぱらから起きてるなんて」
「……まー、色々と深い事情がありまして」
「はは、なんだよそれ」
そんな他愛ない会話を交えながら、そのまま流れで俺たちは一緒に食堂へと向かうことになる。
ズハオは鬼らしいが、それ以外は本当話してると高校の同級生を思い出す。っつーか、気のいい先輩?
魔族なんだからズハオのが年上だと分かってるけど、他の偉そうな魔族たちに比べるとズハオはなんというかいい加減で軽薄なところが俺には丁度良かった。なんつーか、ウマが合うってこういうことなんだろうなって感じだ。
――魔王城・食堂。
「そういや、例の捕虜……じゃなかった。あの忍者はどうなった?」
「カイネのことか? ……まあ、元気そうではあるよ」
「お前が面倒見るんだってな。珍しい、あんなに面倒臭がりなお前が」
「面倒見るってか、側に置くって感じだけどな」
二人で座るには広すぎるテーブルで、俺とズハオは給仕が運んできた飯を食っていた。
ズハオはやたらとカイネのことを聞きたがる。気に入ってるらしい。ズハオにしては珍しいことだ。
「カイネのことが気になるなら直接会ったらどうだ?」
「いいのか?」
「別にあいつは俺のものでもねえし、それに……あいつも早くここに馴染んだ方がいいだろうしな」
「そう考えたら、ズハオが一番丁度よさそうだし」と付け加えれば、ズハオは「ルーナ様にお褒めいただく日が来るなんて、光栄だな」と仰々しく頭を下げる。
「けど、お前が良くてもあっちがな。多分俺のこと嫌ってんじゃねーかなって」
「ああ、捕まえたんだっけな? 確かにあいつ、変にプライド高いからなぁ」
「人間は複雑だな。全員ルーナみたいなわかりやすいやつだったら楽なんだが」
「はは、俺もそう思う。……ま、あいつの部屋の場所だけ教えとくわ。暇なときとか相手してやってくれよ。……カイネのやつ、案外寂しがり屋だしな」
「案外なあ。そりゃいい」
そんな会話を交えつつ、あっという間に食事を終える。
カイネの友達第一号には適任だと思うが、それは俺から見たズハオだからでカイネとズハオの性格的な相性なんて特に考えてもなかった。
もしかしたら逆にヒューゴとかみたいなやつのがカイネには合うんじゃないか、と思い出したのは再び部屋に戻ってきてだった。
……まあ、いいか。
腹に飯を入れたお陰で眠くなってきた俺は、そのままベッドに倒れ込んだ。さて、カイネがいぬ間に俺は惰眠を貪るとしよう。
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