夢ならよかった

1/2
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ

夢ならよかった

「警察だ! 彼女から離れなさい!」  空気を切り裂く声で、男の動きが停止する。なんとか視線を持ち上げ、扉付近を捉えた。言葉通り、入室していたのは警察だった。  二人組の警官が、鍛えられた俊敏さで男――ナオキを引き剥がす。ナオキは抵抗していたが、あからさまに敗北していた。 「離せ! 彼女は僕が幸せにするんだ!」  連行されながらも怯まない口が、訴えを吐いている。初めて愛の言葉に竦んだ。  やっぱり事情は分からない。けれど、多分私は騙されていた。 「お嬢さん、大丈夫ですか?」  立ち代わりで入ってきた警官が私を覗き込む。差し出された手を取ってはみたが、力が制限され起きられなかった。  警察官に助けられ体を持ち上げる。目にしたスピーカーは、変わらず瞬いていた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!