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スーツではなくお洒落着で歩く道は、いつもの倍以上色が濃く見える。
やっぱり今日は、商店街に来て正解だった。隣の彼も、楽しさを滲ませながら店先を眺めている。
「蒼真さん、誘って下さりありがとうございます」
「いえ、こちらこそ応じて下さり嬉しいです」
蒼真は半年ほど前、職場に赴任してきた。年齢は少し下だが、真面目で芯を持った人である。
本日の行き先は「成海さんの行きたいところに行きたい」との彼の要望でここに来た。
近場の選択に、遠慮してないか気に掛けられたが「二人で行ってみたかった」と話すと笑ってくれた。次は蒼真さんの行きたいところで、と約束している。
最短距離ばかり探していた道を、遠回りや寄り道で引き伸ばす。いつもの通勤路だとは思えないほど心が柔らかい。
ある地点で、不意に一年前の記憶が舞い降りた。ナオキを薦められた時の光景だ。
あの時はかなり困ったなぁ――なんて考えつつ、周囲を軽く渡してみる。ちらほらいるらしきセールスマンの眼光は、一切私に注がれていなかった。
ふと、一人の男性と目が合う。黒マスクに白パーカーのどこにでもいそうな人だ。
すぐに反れたその瞳に、記憶が反応する。しかし、パーカーを着るような人物に心当たりはなかった。よって、偶然として処理をする。
「どうかしましたか?」
「いいえ、以前のことを少し思い出しただけです、それよりも――」
そう言えば、正規版の発売ってしたのかな。小さな疑問に到着したが、考えても分かりそうにないと流した。
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