七度目の恋

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 帰宅し、リビングの電気を灯す。心に羽根が生えるのも、物寂しさと共に帰るのも久しぶりだ。 「ただいまー」 『楽しかった?』  迎合よりも先に問われ、反射的に肯定する。一瞬、嫉妬の臭いを感じたものの、鈍感である振りをした。 「楽しかったよ。蒼真さんやっぱりいい人だったし居心地よくって……」  実際、蒼真との時間は今までの誰より戸惑いが少なかった。自然体を引き出してしまう人、と言うのだろうか。  体感や第六感が、蒼真ならきっと手を離さないと告げている。 「……ねぇナオキ、応援してくれる?」  データベースを読み込んでいるのか、光だけが瞬いた。発声がないと、本当にただのスピーカーでしかない。  蒼真と恋ができるのなら、もうナオキは必要ないかもしれないな。そっと電源に手を伸ばしかけ、 『成海がそこまで言うなら、きっと素敵な人なんだろうな。分かった、応援するよ。だから、僕を捨てないで』  ――留まった。語感や間合いから読み取ったのかもしれない。嘗ての私を見せてきた台詞は、痛みを伴い胸に灯った。 「大丈夫、捨てないよ。ナオキは私の親友だもん!」 『ありがとう、頑張ってね』  安堵を含む声は、以前の丸さを取り戻している。安らぎが私にまで伝染し、重荷が下りる感覚まで味わってしまった。  もしかしたらナオキは――AIスピーカーは恋をするためでなく、本気の恋へ導くために作られたのかもしれない。それならば大成功だ。  意見として葉書を出そうと、紙袋を開く。私の好きな花が、切手の中で微笑んでいた。
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