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失恋
季節が真反対に到達するまで、私と蒼真は進んで時間を共有した。ナオキも私の話を楽しそうに聞いてくれた。
言葉や行動で愛を示してくれる蒼真に、私は急速に惹かれていった。互いに交代で行きたい場所を決め、色々な場所に出掛けた。
しかし、事業の拡散に伴う忙しさで、隣に立てない日が増えはじめた。孤独を感じる頻度が増え、焦りにまで達しはじめるーーそんな時だった。
「……な、なんで?」
「ごめん、ゆっくり話す時間すら作れないし……とにかく別れよう」
休憩時間、食事に誘われ告げられた。空き部屋で、少し話をしようと微笑まれて。
擦れ違うタイミングを、無理矢理合わせて誘ってくれている。それを分かっていたから、内心浮かれていた。なのに。
真っ直ぐな視線の中、罪悪感が滲んでいる。近付き合う眉には辛さが、隙間のない唇には苦痛が宿っている。悲しさを被った表情には、特別な事情がよく似合った。
六度も別れをもたらした“それ”の影が私には見えた。
「……私、時間取れなくても待てるよ?」
「ごめん、僕が駄目だと思ったんだ」
「私は別れたくない!」
公言された理由が、百パーセント建前でないとは言えない。けれど、裏側に別の理由があるのだと確信している。今回こそは、何としてでも秘密のまま去られたくなかった。
強い訴えを前に、蒼真の唇が隙間を作る。しかし、声は作り出されない。迷いの動作を前に、涙が込み上げた。
「……別れるなら、本当の理由を教えてくれませんか」
「えっ」
「私の何が駄目だったんでしょうか?」
やりきれなさに押し出され、雫が机上へ落ちて行く。愕然とする蒼真の顔には、悔しさが付け足された。
「……成海は何も悪くない!」
感情的な否定が、悲しみを一瞬忘れさせる。冷静になった蒼真は、謝罪を付け足し微笑んだ。
「それだけは覚えていて」
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