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「おかえりなさいっ、マカナさん!」 輸送機から降りたあたしを迎えてくれたのは、受付嬢のナルだった。可愛い。背が低くて、どんぐりみたいなつぶらな目。見るたびに、実家で飼っていた犬を思い出す。 実家っていっても、正確には、施設から引き取ってもらった先の家だけど。 あたしは、幼いころの記憶が定かではない。両親の顔もわからない。施設に入った時にはすでに、この入れ墨が両腕にあったと聞かされていた。多くの人は、この入れ墨を、不吉だ、という。 「ん、ありがと。どうしたの?」 「ふわっふわタオルの差し入れですー。キースさんも一緒ですよ!」 へへ、とナルの後ろから出てきた人影は、キースだった。いつもと同じ穏やかな声で「や」と優しく笑っている。「よ」とあたしも笑顔で応じる。 キースの金髪に緑の目は、輸送機のドックでひときわ目立っていた。 イニの島では、いわゆる、『良い家柄』の象徴になる。それが原因でひがんでくる人もいるけれど、あたしは別に気にしない。家柄関係なく、キースは、キース。 入れ墨の腕を伸ばして、ふわっふわタオルを受け取る。名前の通り、ふわっふわ。もう最高。大好き。 あたしたち三人に近づいてくる人影があった。所長だった。 「部外者の立ち入りは、禁止されているはずだが?」 「部外者?」 キースの一番上の兄は優秀な輸送機乗りだった。事故で亡くなったからといって、部外者はないだろう。ナルだってタオルを差し入れてくれたのに。 所長が、ふん、ときまり悪げに鼻を鳴らす。あ、単なる嫌味か。機嫌悪そう。 とりあえず、むっとした顔を見せておく。 所長は、あたしたち三人の顔を順番に眺めたあと、ちょっと複雑な顔になった。 あれ? と思う間もなく、しっしっと手で追いやってくる。 「仕事が終わったのなら、早く帰れ」 残業してやろうか、と腕組みをするあたしとは真逆に、はーい、と返事をしたのはナルだった。 「いきましょっ、マカナさん! 詰所にクッキーあります!」 ナルがあたしの手をとって、ぴょんと跳ねた。 瞬間、また、所長の眉間にしわが刻まれた。 「ナル、お前はまだ就業中だろ。仕事しろ」 「輸送機乗りさんとコミュニケーション取るのも仕事のうちですぅ」 言い返したナルが、あたしの手を引く。キースが、ぺこり、と所長に頭を下げて、あたしたちの後をついてくる。
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