序章 「ようこそ、最高で最低な一日」

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序章 「ようこそ、最高で最低な一日」

 この日はぼくにとって最高で最低な一日だった。人生の中で最高と最低を同時に味わう事のできる人間はそうはいないだろう。  グッドラック。とりあえず唱えてみた。悟りなんかは得られない。啓示もない。一応仏教徒だから、啓示とはいわないかもしれないが、奇蹟とかそういった類いもない。オシリスのなんちゃらドラゴンくらいは出てきてもいいはずだ。  鉄格子の向こう側に虹がかかったのは、奇跡の予感ではなくて。きっとレンズがくるってしまったせいだ。バッドやハッピーなんか人間の感情に左右されない自然現象。その虹がフェイクであれ本物であれ、ぼくのこの状況には何の意味ももたない。  グッドラック。それならせめて、いい事だけを都合よく噛み締めよう。カシューナッツやアーモンドだけを食べていたい。くるみなんていらないぜ。これからの未来だけは噛み締めていきたいのだが。  カシューナッツの代わりに飴玉を頬張ると甘さが口いっぱいに広がる。この大きな飴玉をゆっくり味わうことにしよう。歪なかたちをしたそれを時間をかけてとかそう。ゆっくりと。たっぷりと。
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