孤独な一匹狼

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孤独な一匹狼

 視線を青空から戻した私は、作ったご馳走を味わうのもそこそこに、現れないジルのことを思った。  彼は、みんなと同じように森に住処(すみか)を持ちながら、決して誰とも距離を縮めない孤独な一匹狼だ。  しかしその姿は、思わず見蕩れるほど凛々しく美しい。  真っ白な毛並みに琥珀色の瞳。大型犬のハナよりも大きいのに、身のこなしはそんな見た目に反してしなやか。  ツンと澄ましているところは、白猫のアンに似ているけれど、ジルの場合、それとは別の近づき難さを感じてしまう。  あの鋭い琥珀の瞳に対して、私はいつも恐ろしいとばかり思っていた。だけど考えてみれば、私は彼のことを何も知らない。  オオカミなのに、どうして群れで行動していないのか。どうして私――人間や比較的大人しい動物たちが暮らす、この森に住み着くようになったのか。 「何も教えてくれないんじゃ、好きにも嫌いにもなれないじゃないの……」  小さく呟いた声が、風の音に紛れて消え去る。――と、そのとき、青空から先程飛び去ったエディが急降下してきた。 「ひ、姫! アメリ姫、大変です!」 「落ち着いて。一体どうしたの?」 「ジルが……!」  その内容を聞いた私はすぐさま、頭に花冠を乗せているハナを呼びつけた。 「ハナ、私をジルのところへ連れて行って!」
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