望まない結婚

1/1
66人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ

望まない結婚

 馬車に乗り込んでから数秒と経たず、私はため息をついた。  馬車の揺れるままに深く(こうべ)を垂れる。あっ、いいこと思いついた。 「ねえ、モーリー」  手網(たずな)を操る御者(ぎょしゃ)の背に呼びかける。 「お城へ行く前に、ちょっと寄り道しない? レジーナ通りがいいわね。あそこは素敵なティーショップが――」 「いけませんよ、マリアンヌお嬢様。レオナルド様との約束をすっぽかせば、お二人の顔に泥を塗ることになります」  『お二人』という言葉に、うっ……と押し黙ったのも束の間、私はまたため息をついた。 「だって、とても残忍な方だっていうじゃない。イングリーフィズのため、王様のためなら、お身内にも容赦ないんでしょう?」  正式名をイングリーフィズ王国というこの国は、ユーロピアータ大陸の北に位置する小国だ。  そんな小国の温厚な王をはじめとする王族に仕えるのは、彼らへの絶対忠誠を誓う優秀な騎士団。  その団長を務める男こそが、レオナルド・ブラッド――本日、私が不本意に嫁ぐ相手である。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!